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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case3.『カイワン』
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07.変人

 ザッカーマンは持ち込んだ応急キットを使い切り、どうにか傷口に処置を施した。

 そして、厨房にある鍋の中に満杯まで水を入れて、未だに起きないジンの元まで戻ってきた。


 バシャァ


「うわぁ! ゲホッゲホッ」

「やっと起きたか、手足はちゃんと動くの」

「ウッ…痛みはしますが、どうにか。隊長、あの後どうなったんですか」


 ザッカーマンは、左肩に巻かれた包帯をジンに見せつける。


「私はコレ、アイツは鼻に傷を負って痛み分けよ」

「鼻…?」

「ここに喰いつかれた時に、咄嗟に噛みついたのよ。痛覚はあるようで助かったわ」

「動かせるんですか、左腕」

「筋は切れてないけど、あまり無理はできないわ。次にアレとタイマンになれば、かなりヤバいわ」

「任せてください隊長。もう不覚は取りませんから」

「ホント、頼むわよ」


 そう言って、拳銃をジンに手渡す。

 彼はそれを受け取り、ザッカーマンを庇うように身を寄せた。


「とりあえず先に進んで、地下に降りるための階段を見つけましょう」

「了解」


 二人は歩調を合わせて、暗い廊下を進んでいく。

 相変わらず、化物の血痕は点々と続いていた。

 数分程、警戒しつつソレを辿るように歩みを進めていると、またしても三又路に行き当たる。今度は天井も警戒しつつ、血痕の続く先を確認する。

 

「隊長、階段です。行きますか?」

「あぁ、予定通りに行くぞ」


 慎重にクリアリングをしつつ、階段を下りていく。

 B2Fのプレートが付いた分岐点のある踊り場まで、やって来ることができた。

 まだ下へと階段は続いているが、二人は分岐の先にある廊下へと踏み込んだ。


「血痕をみるに、アレは長官室とは逆方向に行ったようですね」

「そうね。まだ、運は残ってたみたい」

 

 二人の見つめる先は袋小路になっており、そこには長官室と刻印されたプレートが付いた両開きの扉があった。足音を殺し、慎重にドアノブに手を掛ける。


 バンッ

 

 ザッカーマンが勢いよく扉を開き、ジンが部屋の中に飛び込む。

 そこはよくある役員室と同様に、クラシック調の豪華なデスクと、来客用のソファとテーブル、それにクローゼットが置かれていた。電灯は付けっぱなしで、中は明るい。

 ざっと見渡しても、そこに人影はなかった。

 だが、ジンがデスクの下を確認しようと、回り込んだときに事は起きた。


「うわああ!」


 小太りの男が、そこから飛び出しジンに掴みかかって来たのだ。

 拳銃を手にしていたため、彼は咄嗟に銃床で男の頭を殴り、気絶させてしまった。


「おい、バカ!なにして――」


 バタン!


 ザッカーマンが、デスクの方へ近づこうとした瞬間、背後のクローゼットが開け放たれる。それに反応した彼女は、脊髄反射で回し蹴りを繰り出した。


「うっ!」


 そこから飛び出した男の顎に、繰り出された蹴りが入る。

 強烈な一撃により脳震盪を起こした男は、その場に崩れ落ちてしまった。


「あーあ、やっちゃいましたね」

「うぐ…と、とりあえず。この二人はソファに寝かしておきましょう」



――ズキッ!


 強烈な頭痛に襲われ、目が覚める。

 どうやら仕事部屋のソファで、寝ていたらしい。

 対面には、ルカが横になって眠っている。


 彼も起こそうと、ソファから立ち上がろうとするが、手足が自由に動かない。

 よく見ると、ロープで縛られているようだ。

 

 おや? 今夜はそういうプレイをしたんだったか――


 何か違和感を覚え、首を動かし辺りを見渡してみる。

 すると、私の仕事机を誰かが漁っているではないか。

 

「おい、君たち何をしているんだ!」

「あら、案外早くに目覚めてくれてたのね」

「何を言って…そうだ!思い出したぞ、お前たち一体何者だ。ここの職員では、ないだろう」

「簡単に言えば、ユニオンの傭兵よ」

「くっ…ならアイツも企業連合からの差し金なのか」

「あの化物のこと? それは、私も知らないわ」


 声の主が、こちらに近づき顔を覗き込んできた。

 顔に残る醜い火傷跡が、目を引く女傭兵だ。


「貴方達、あの化物に手を焼いているようね」

「それどころではない。もう我々は、殆ど壊滅状態だ」

「そこで、提案があるのだけれど。私達に協力すれば、貴方達をここから脱出させてあげてもいいわよ」

「ふん! そんな事を言って、どうせ我々をユニオンに連行するつもりなんだろう」

「別にそんなんじゃないわ。なんなら、この契約書にその事を明記してもいいわよ」

 

 女傭兵そう言うと、胸ポケットから小さく畳まれた契約書を取り出した。


「えっ! 隊長、こんなところにまでソレ持ってきてたんですか」

「万が一、使者が納得してくれなかったら、これを使おうと思ってたのよ」


 女傭兵が、いまだにデスクを漁り続ける大男に向かって、そう返事をした。


「使者…?それは誰のことだ」

「詳細は言えないけど、ここの囚人の一人よ。私達は、使者と呼ばれる男を、ここから救出する依頼を受けてるの。でも、そんな事はどうでもいいの。早く契約書に目を通して、私の提案に諾か否か答えてくれる?」


 こんな状態なのだ、今は彼女の言う通りにするしかない。

 契約書を読み進めると、彼らはユニオンに拠点を構えるザッカーマン傭兵事務所という会社に所属しているらしい。また、契約内容を鵜吞みにするならば、契約者の安全を第一に確保すると記載してあるではないか。


「おい、君。それに書かれている事は、本当なんだろうな」

「当り前よ。社長である私、アリシア・ザッカーマンが保証するわ」

「うーむ…なら条件を一つ追加したい。そこに寝かされている、ルカも一緒に脱出させてくれ」

「端からそのつもりよ。ただし、私達に危害を加えるような行動は、絶対にしないこと。また、使者と呼ばれる囚人の救出に関して妨害はしないこと。いいわね?」


 彼らが企業連合の私兵ではなく助かった。

 傭兵ならば、契約内容さえ守っていれば、我々をここから逃がしてくれる。


「分かった。契約書にサインをしよう」


 ザッカーマンと名乗る傭兵は、満足そうに頷き。

 手足の拘束を解いてくれた。

 自由になった手で、渡された契約書に『ラマン・ペトラコフ』とサインする。

 

「ジン!手を止めろ。それは、依頼人の所有物となった」

「はいはい、分かりましたよ」


 彼女の命令で、ジンと呼ばれた男はデスクから離れる。


「ラマン・ペトラコフさん、先程までの無礼をお詫びします。どうかお許しください」


 ラマンは、彼女のあまりの変わり様に言葉を失った。

 傭兵と言う生き物は、なんとも現金な奴らなのだろうか。 

 ただし、その態度の変わり様こそが、契約書の内容が真実であることを示していた。


お読みいただきありがとうございます。

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