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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case3.『カイワン』
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06.偽計

 化物から遠ざかるように、二人は廊下を進んでいた。左右には、兵士が寝泊まりする個室が並んでいるが、そのどれもが血塗れになっている。


「地表に兵士の姿は、無かった。そして、一番地表に近いこの階層がこの有様。誰も脱出できなかったんでしょうね」

「だとしたら、アレは更に地下から侵入したんでしょうか」

「さぁね、今は生き残ることを第一に考えましょう」


 化物との遭遇地点から、十分距離を取ったと判断したザッカーマンは、 部屋のひとつに足を踏み入れる。中は四台の二段ベッドが部屋の殆どを占領しており、最奥にはロッカーが二つ置かれていた。その一つを開けると、きれいに畳まれた軍服が入っていた。


「汚れも皺もない。どうやら、この部屋の住人は新入りだったようね」


 バサッと服を広げると、ハラリと紙切れが舞った。


「おっと、危ない」


 床の血溜まりに落ちる前に、ジンがどうにか捕まえる。

 それには、「1:00 B2F 長官室」とメモされていた。


「長官室…そこなら、見取り図や囚人の一覧なんかも手に入りそうですね」

「そうね。とりあえず、地下二階を目指しましょう」


 今後の方針を決めた二人は、部屋から抜け出し周囲を警戒する。

 左には個室が続いたあとに、曲がり角が見える。恐らく、回廊のような構造になっているのだろう。また、部屋を出て右へと進むなら、来た道を戻ることになる。


「一旦、積み下ろし場まで戻りましょう。車両が動くのか、確認できていないもの」


 ジンは頷き、銃を構えて先行する。

 ザッカーマンは、背後を警戒しながら彼についていく。

 何事もなく、積み下ろし場までは戻って来ることができた。


 そこに化物の姿はなく、血痕が点々と奥の閉ざされた鉄扉に続いている。

 そちら側の監視はジンに任せ、ザッカーマンは車両の運転席に乗り込んだ。

 エンジン点火のトグルスイッチを、パチンと上げると給油ランプが灯る。

 ただ、他の警告ランプは点灯しておらず、燃料を確保すれば動きそうだ。


 監視を続けるジンに近づき、目配せをして扉を開け放つ。

 廊下には激しい銃撃戦の痕跡が残っており、電灯も破壊されて真っ暗だった。

 胸元のライトを点灯させると、流した血が足に付着したのか、化物の真っ赤な足跡が床に付いている。それは、数メートル先にある三又路を、右折している。


 足跡を注意深く辿っていき、その角に張り付いた。

 呼吸を整えたジンが、バッと躍り出る。

 ライトの照らす先には、食堂が広がっていた。

 足跡はカウンターを越えて、厨房の方へと向かっている。


「餌を探しに行ったんですかね」

「無視するのも手だけど…背後から奇襲される方が嫌ね。ジン、今の内に金属製のモノは外しておきなさい」

「言われなくても、分かってますって」


 各々で装備を外し、廊下の隅にまとめて置いておく。

 残った武装はジンの拳銃のみとなり、ザッカーマンに至っては丸腰となった。

 

「隊長は後ろに、自分が先行します」

「あぁ…警戒を怠るなよ」


 そうして、二人は食堂に足を踏み入れ、カウンターへと近づいていく。

 それを回り込んでいくと、厨房の奥から光が漏れ出していることに気が付いた。

 足跡も光の方へと続いている。


 二人は頷き合い、ライトを消してシンクや調理台の間を抜けて、光の元へ迫っていく。

 そして、一番近くの食器棚の影に身を寄せた。


――ポタ…ポタ…


 耳を澄ませると、何かが滴る音が聞こえてくる。

 ジンにも見えるように、ザッカーマンが三本指を立てた。

 彼が目配せして来たことを確認し、一本ずつ指を折り曲げていく。

 最後の一本が曲がりきった瞬間、二人同時にライトを点灯し、食器棚の影から飛び出した。


 足跡の続く先にある、扉の開かれた冷蔵庫が、彼らの目に映る。

 そこに化物の姿はなく、冷蔵庫の中に転がる容器から液体が垂れているだけだった。

 だが、ザッカーマンはあることに気が付く。 

 その容器の蓋は開いておらず、意図的に穿たれた穴から液体が溢れているのだ。


「ジン!下がれ、罠だ!」


 ガシャン!


 彼女の声に反応する間もなく、先程まで身を隠していた食器棚が動き出し、ジンに勢いよくぶつかった。ガラガラと音を立て食器があふれ出し、棚ごと彼に覆いかぶさる。だが、辺りを見渡しても、化物の姿は見えない。


 ヒュン


 その風切り音に素早く反応し、ザッカーマンは地面に伏せた。

 頭上すれすれを刃が通りすぎ、背後にあったシンクが斜めにずり落ちていく。

 彼女が身を起こすと、化物が天井から音もなく着地した。


「やってくれたわね…」


 化物の尾はユラユラと揺れ、振り下ろされる刃の軌道が読めない。

 さらに、四つの義眼がギョロギョロと辺りを見渡し、攻撃の隙が見いだせない。

 かといって、ここから退くと、ジンにトドメを刺されてしまうだろう。

 

「こうなれば、一か八か!」


 ザッカーマンは意を決し、化物目掛けて前傾姿勢で突進していく。

 刃の付いた尾が大きくしなった。


――来る!


 刃が振り降ろされる瞬間に、地面を蹴って懐に転がり込む。

 タイミングがずれ、水平に振り抜かれた刃は空を切った。

 そのまま彼女は、地面に散らばる食器片を握り、首筋目掛けて突きを繰り出そうとする。しかし、化物が前腕を振り払い、弾き飛ばされてしまう。そして、大きく口を開き彼女に噛みついてきた。


「うぐっ」


 肩口に噛みつかれ、激痛が走る。

 そのまま食い千切られぬように、全力で化物の顔に掴み掛る。

 そして彼女は、お返しとばかりに鼻っ面に噛みついた。  


「フギャァ!」


 余りの痛みに耐え無かった化物は口を開け、何処へ走り去っていった。

 再度の襲撃を警戒して、数分程、周囲を注意深く見渡す。

 だが、その気配はなく、食堂から居なくなったようだった。


「おい、ジン!大丈夫か!」


 痛む傷口を庇いながら、どうにか食器棚を引き起こす。

 そこには、食器に埋もれたジンの姿があった。

 無数の食器片が体に刺さってはいるが、頭はどうにか庇ったようだ。

 気を失ってはいるが、致命傷はないだろう。


「ホント、手間の掛かる部下だな」


 ザッカーマンは拳銃を回収し、ジンを引き摺って食堂を後にするのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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