05.狩場
検問所を後にした二人は、倉庫に近づいていく。
貨物搬入のための正面のシャッターは、固く閉ざされている。
そこからの侵入は諦め、側面まで回り込むと人が出入りできる戸口があった。
ジンにハンドサインを送り、扉の隙間から小型カメラを差し込ませる。
「ん? 何か突っかかって…」
ケーブルを手繰り寄せ、一度手元にカメラを戻す。
そこには、赤黒い液体がべっとり付着している。
「隊長、コレを見てください」
それを確認したザッカーマンは、ドアノブに手を掛ける。
開けようと試みるが、びくともしない。
意を決し、距離を取って体当たりを繰り出した。
――ギギィ
小さく開いた扉に、身をねじ込んで侵入する。
足元を見ると兵士の死体が、転がっていた。
とりあえず、それを引き摺ってジンも中に招きいれる。
「砂漠仕様の迷彩服…ここを警備する兵士ですよね」
「そのようね。傷跡を見るに、これが死因みたいだけど」
屈みこんで、死体の革手袋をはぎ取って、自らが装着する。
そのまま、ソレの大きく裂かれた脾腹に手を突っ込んだ。
感触からすると、脊髄まで傷は到達しているようだ。
「これは人間業じゃない」
彼女は血塗れになった手袋を脱ぎ捨て、傍に落ちている銃を手に取る。
弾倉は装着済みだが、チャンバー内に残弾はない。
周囲に散らばる薬莢を見るに、死因となった「何か」に向けて全弾撃ち切ったのだろう。
「ただ、ソレには一発も当たらなかったようですね。肉片やら血痕の類は、見当たりません」
「ジン、生物だと決めつけるのはよせ。自律機械の可能性もある」
とは言うものの、それらしき金属片も残されてはいない。
倉庫の内部を改めて見渡すと、似たような死骸が点々と散らばっている。
そのどれもが、地下へと繋がる搬入口から背を向けていた。
「幸か不幸か、ここは混沌の渦中ですね。まずは、要人が囚われてそうな、最下層まで下りますか」
「それもいいが…私達が化物に出会って、こいつらと同じ末路を辿るかもしれん。見取り図を見つけて、監視室か武器庫を目指したい」
「なら、一階層ずつ巡回していきますか」
ジンの言葉に頷き、地面に転がる自動小銃を背負いつつ、持ち込んだ回転式拳銃を構える。
その様子を見て、彼も同様に死体の銃を奪い、新調した拳銃を取り出す。
手の震えはないが、できれば人間を撃ちたくはない。
拳銃を見つめるジンに、気づいたザッカーマンが彼の肩を軽く叩いた。
「お前に背中を預けるぞ。ジン」
「了解です。隊長」
二人は息を合わせ、搬入口まで進み、緩やかな勾配の坂を下っていく。
死体の形跡からするに、鋭く巨大な鉤爪を持っているのだろう。しかし、壁や床には無数の銃痕が残るのみで、爪痕は見当たらない。
坂を下りきると、荷物の積み下ろし場があった。その左右には、内部へと繋がっているであろう鉄扉がある。そして、中央には重装備の装甲車が一台駐留されているのだが、辺りには血の海が広がっている。
恐らく、アレが砂嵐を越えられる特殊車両なのだろう。
起動できれば、脱出手段を確保できる。
二人は頷き合い、左右に分かれて回り込む。
「うっ…これは一体」
開放さたれた車両の扉の中から、詰め込まれた肉塊と化した死体が顔を覗かせていた。気後れするが、意を決して中に足を踏み込み、ソレを観察する。
所々に齧り取られた痕跡がある。
ここはどうやら、化物の餌場らしい。
「ここにいるのは、まずいですね。早くこの場から――」
――ガコッ
突如、左の鉄扉から音がした。
二人は慎重にその場から離れ、反対方向の扉に引いていく。
数々の修羅場を越えて来た、ザッカーマンの生存本能が危険信号を発している。
嫌な汗が首筋を伝り、心拍数が上がっていく。
ジンを扉の先に撤退させ、自分は音の正体を確かめるために、その場に残った。
――ガタガタッ
鉄扉が激しく揺れ、勢いよく開け放たれ化物の正体が明らかになった。
ソレは毛に覆われたしなやかな四肢で地に伏せ、異様に長い尾をユラユラと振っている。その先端には、怪しく光る刃が人工的に取り付けれていた。
人間が手を加えた痕跡は他にもあり、背中には杭のような物が二本打ち込まれ、機械化された顔の上部に埋め込まれた四つ義眼が、ザッカーマンを睨みつけている。
バズンッ!
彼女は化物が姿を現すや否や、全弾を眉間に目掛けて撃ち放つ。がしかし、それの背中の杭が激しく揺れたかと思うと、弾丸は全てあらぬ方向へと逸れてしまった。
その間にも化物はゆっくりと確実に、こちらに向かってくる。
「銃弾は無効化されるわけか…」
ザッカーマンも化物の歩調に合わせ、後ずさり背後の鉄扉に手を掛ける。
すると、化物の杭が一層激しく揺れた。かと思うと、手にした拳銃が化物の方向に、強く吸い寄せられる。
「そうか、磁力を…うぐっ!」
突然背中に衝撃が走り、膝をついてしまう。
鉄扉が勢いよく開放され、彼女にぶつかったのだ。
その間隙をつき、化物が急接近してきた。
「隊長!そのまま伏せていてください」
ダンッ!
ジンの放った弾丸は、磁力をものともせず、化物に着弾し小さな爆発を起こす。
それは堪らず身を翻し、走り去って行った。
「ジン。あなた結局、金属弾に入れ替えてなかったのね」
「固形燃料弾の方が、懐には優しかったので」
「はぁ、ともあれ助かったわ」
多量に生産される燃料を固形化し、高密度ポリマー製の容器に詰め込んだ固形燃料弾は、命中率は悪いが、金属が貴重なユニオンでは、一般的に使用されているモノだった。そして、銃本体は耐熱性のポリマー素材で、製造されている。
これらを使えば、銃弾の軌道を磁力の盾を貫き、化物を撃ち殺すことができる。
「それ、何発残ってるの」
「装填済みの9発を合わせると、10発入りの弾倉が4つです」
「そう…少し心許ないわね。私の銃は規格が合わないから、化物への対処はアナタに任せたわ」
「なるべくなら、二度と出会いありませんね」
ザッカーマンは金属弾を再装填し、ジンと共に、背後でグラついていた鉄扉の中へと歩みを進めた。
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