04.入懐
「HALO降下か…確かに、それなら私達の交戦規定にも引っ掛からないな。これまでの話を聞く限りは、我々の偵察機を出しても構わない」
ヒルダとの茶会から一週間後。ザッカーマン達はレイゼン家の助力により、軍事基地で遠征隊の部隊長と会合する機会を得ていた。ヒルダが使者を救助するための作戦を、概ね伝えていたおかげで、突入までの話合いはスムーズに進んでいる。
「だが、帰りはどうするつもりだ。敵地に無策で降下するなんて、殺されに行くようなものだぞ」
「策ならある…と言いたいところだけど。牢獄に関する情報が少なすぎて、降下に成功したら、流れに身を任せるしかないわ」
それを聞いた部隊長は、唸りをあげながら腕を組んで考え込んでしまう。降下のために、武装も最低限のモノしか持ち込めず、救出対象の場所も牢獄の構造も不明。そんなところに、彼らを送り込んでいいのか。だが、いくら頭を回転させたところで、いい案は浮かんではこない。
「貴方達は、ユニオンの住人なのだろう? 何故、こんな命懸けの救出作戦を、わが母国のために決行しようとしているんだ」
「完遂すれば、報酬が得られるからよ」
ザッカーマンはにべもなく、そう言ってのけた。
ジンも覚悟を決めたのか、部隊長の目を見てじっくり頷いている。
二人の決意が揺らがないと見え、彼は異邦人のために一肌脱ぐことを心に決め、重い腰を上げた。
「分かった…輸送は明日の早朝に行う。目的に着くころには、日が一周して深夜になっているはずだ。それで、構わないか」
「ええ。ご協力に感謝します」
――二日後、『蟻地獄』上空にて
強烈な風に煽られていた機体は、どうにか砂嵐を抜け、嵐の目に到達した。敵が上空を飛ぶ偵察機に気づいた様子もなく、HALO降下を実行するには、絶好のタイミングであった。
「機内の減圧完了。降下5分前」
無線が繋がりパイロットの声がそう告げると、貨物庫の後部ハッチが開かれていく。
風が入り込み、防寒装備と酸素マスクで身を固めた二人に吹き付ける。
「視界良好。月明かりが道案内してくれるぞ」
窓の外では、満月が輝き地上を照らしている。
どうやら、天も味方についたようだ。
「いいかジン。シミュレーションと同じように、地上付近でパラシュートを開くんだぞ」
「隊長、もう大丈夫です。覚悟はできました」
防寒装備と酸素マスクで身を固めた二人は、慎重に歩みを進め、開け放たれたカーゴドアの淵に近づいていく。眼下には、豆粒のような建物が一つポツンと、砂漠に建てられている。あれが宙への使者が囚われている牢獄であろう。
「降下5秒前。3…2…1」
ザッカーマンは目を瞑り、シミュレーションの内容をもう一度頭に描いた。
「生きて地上でな」
そう言うと、彼女は前のめりに倒れこみ、宙に身を投げ出した。
防寒装備に身を包んではいるが、突き刺すような寒さが全身を襲う。
気を緩めれば、すぐにでも意識がトンでしまうだろう。
すると、ヒュンと彼女の真横を何かが通過していった。
「お先に!」
大柄なジンは、ザッカーマンより格段早く落下していく。
降下が始まる前までは、何度も手順を聞き返すほど不安がっていたが、案外楽しそうにしている。もしかすると、理性が吹っ飛んでハイになっているかもしれないが。
そうこうしている内に、グングンと地表が近づいてくる。
豆粒ほどだった建物も、全貌が明らかになってきた。
地上に見えているのは、簡素な検問所とフェンスに囲まれた倉庫のみだ。
恐らくは、地下へと広がっているに違いない。
「ジン、10時の方向に逸れるんだ。砂丘の影に、降下するぞ」
「了解です」
二人は体勢を変えて、降下ポイントの真上に到達すると、バッ両手両足を広げ速度を落とした。そして、タイミングを見計らいパラシュートを開く。そこは、背の高い砂丘の影となっており、敵は彼らの存在に気づいてはいないだろう。
先にジンが地表へたどり着き、パラシュートを脱ぎ捨て、砂丘を回り込んでいく。
「敵影無しです」
その報告を聞き、ジンの脱ぎ捨てたパラシュートの近くに降下する。
素早くザッカーマンもソレ脱ぎ去り、風で舞い上がって潜入が発覚されぬように、二人分のパラシュートを畳み砂をかぶせた。そうして痕跡の隠蔽を済ませ、敵地を観察するジンと合流する。
「検問所にも、誰もいないのか」
「きっとシンビオーシスのやつらは、こんな場所に敵が来る、なんて思ってないんですよ」
ジンから手渡された双眼鏡を覗くと、検問所はおろか倉庫の付近にもひとっこ一人いない。少々拍子抜けだが、こちらにとっては好都合だった。ジンに合図して、ツーマンセルで周囲を警戒しながら、検問所まで前進し、壁際までたどり着く。そして、二人はそこに密着しながら、光が漏れ出す窓を覗き込んだ。
天井からぶら下がる電球が、簡素な休憩室を照らしている。中にも人影はなく、窓に手を掛けると鍵も掛かっていないようだ。ジンに周囲の監視を任せ、ザッカーマンが窓を乗り越え侵入する。音を立てずに床に着地し、部屋の中にある唯一の扉に耳を当てる。
何も聞こえない。
扉を薄く開き中を確認すると、その部屋は一面がガラス張りとなっており、車両を検閲できるようになっていた。扉の隙間から見えている範囲には、敵影はない。一気に扉を開き、部屋全体を見渡すが、誰もいなかった。
一度休憩室に戻り、ジンも呼び込んで、部屋の物色を始めた。武器の類は見つからなかったが、シンビオーシスからやって来る、特殊車両の運行計画書を手に入れた。
「車両の運行計画中止? 一体何が起きてるんでしょう」
計画書に記載された、ここ数ヶ月の予定が黒塗りされており、計画中止と赤文字で付け加えられている。
「いずれにせよ、これで唯一判明していた退路は閉ざされたってわけね。あとは、前進あるのみよ」
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