表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case3.『カイワン』
35/58

04.入懐

「HALO降下か…確かに、それなら私達の交戦規定にも引っ掛からないな。これまでの話を聞く限りは、我々の偵察機を出しても構わない」


 ヒルダとの茶会から一週間後。ザッカーマン達はレイゼン家の助力により、軍事基地で遠征隊の部隊長と会合する機会を得ていた。ヒルダが使者を救助するための作戦を、概ね伝えていたおかげで、突入までの話合いはスムーズに進んでいる。


「だが、帰りはどうするつもりだ。敵地に無策で降下するなんて、殺されに行くようなものだぞ」

「策ならある…と言いたいところだけど。牢獄に関する情報が少なすぎて、降下に成功したら、流れに身を任せるしかないわ」


 それを聞いた部隊長は、唸りをあげながら腕を組んで考え込んでしまう。降下のために、武装も最低限のモノしか持ち込めず、救出対象の場所も牢獄の構造も不明。そんなところに、彼らを送り込んでいいのか。だが、いくら頭を回転させたところで、いい案は浮かんではこない。


「貴方達は、ユニオンの住人なのだろう? 何故、こんな命懸けの救出作戦を、わが母国のために決行しようとしているんだ」

「完遂すれば、報酬が得られるからよ」


 ザッカーマンはにべもなく、そう言ってのけた。

 ジンも覚悟を決めたのか、部隊長の目を見てじっくり頷いている。

 二人の決意が揺らがないと見え、彼は異邦人のために一肌脱ぐことを心に決め、重い腰を上げた。


「分かった…輸送は明日の早朝に行う。目的に着くころには、日が一周して深夜になっているはずだ。それで、構わないか」

「ええ。ご協力に感謝します」


――二日後、『蟻地獄』上空にて


 強烈な風に煽られていた機体は、どうにか砂嵐を抜け、嵐の目に到達した。敵が上空を飛ぶ偵察機に気づいた様子もなく、HALO降下を実行するには、絶好のタイミングであった。


「機内の減圧完了。降下5分前」


 無線が繋がりパイロットの声がそう告げると、貨物庫の後部ハッチが開かれていく。

 風が入り込み、防寒装備と酸素マスクで身を固めた二人に吹き付ける。


「視界良好。月明かりが道案内してくれるぞ」


 窓の外では、満月が輝き地上を照らしている。

 どうやら、天も味方についたようだ。


「いいかジン。シミュレーションと同じように、地上付近でパラシュートを開くんだぞ」

「隊長、もう大丈夫です。覚悟はできました」


 防寒装備と酸素マスクで身を固めた二人は、慎重に歩みを進め、開け放たれたカーゴドアの淵に近づいていく。眼下には、豆粒のような建物が一つポツンと、砂漠に建てられている。あれが宙への使者が囚われている牢獄であろう。


「降下5秒前。3…2…1」


 ザッカーマンは目を瞑り、シミュレーションの内容をもう一度頭に描いた。


「生きて地上でな」


 そう言うと、彼女は前のめりに倒れこみ、宙に身を投げ出した。

 防寒装備に身を包んではいるが、突き刺すような寒さが全身を襲う。

 気を緩めれば、すぐにでも意識がトンでしまうだろう。

 すると、ヒュンと彼女の真横を何かが通過していった。

 

「お先に!」


 大柄なジンは、ザッカーマンより格段早く落下していく。

 降下が始まる前までは、何度も手順を聞き返すほど不安がっていたが、案外楽しそうにしている。もしかすると、理性が吹っ飛んでハイになっているかもしれないが。

 

 そうこうしている内に、グングンと地表が近づいてくる。

 豆粒ほどだった建物も、全貌が明らかになってきた。

 地上に見えているのは、簡素な検問所とフェンスに囲まれた倉庫のみだ。

 恐らくは、地下へと広がっているに違いない。


「ジン、10時の方向に逸れるんだ。砂丘の影に、降下するぞ」

「了解です」


 二人は体勢を変えて、降下ポイントの真上に到達すると、バッ両手両足を広げ速度を落とした。そして、タイミングを見計らいパラシュートを開く。そこは、背の高い砂丘の影となっており、敵は彼らの存在に気づいてはいないだろう。

 先にジンが地表へたどり着き、パラシュートを脱ぎ捨て、砂丘を回り込んでいく。


「敵影無しです」


 その報告を聞き、ジンの脱ぎ捨てたパラシュートの近くに降下する。

 素早くザッカーマンもソレ脱ぎ去り、風で舞い上がって潜入が発覚されぬように、二人分のパラシュートを畳み砂をかぶせた。そうして痕跡の隠蔽を済ませ、敵地を観察するジンと合流する。


「検問所にも、誰もいないのか」

「きっとシンビオーシスのやつらは、こんな場所に敵が来る、なんて思ってないんですよ」


 ジンから手渡された双眼鏡を覗くと、検問所はおろか倉庫の付近にもひとっこ一人いない。少々拍子抜けだが、こちらにとっては好都合だった。ジンに合図して、ツーマンセルで周囲を警戒しながら、検問所まで前進し、壁際までたどり着く。そして、二人はそこに密着しながら、光が漏れ出す窓を覗き込んだ。


 天井からぶら下がる電球が、簡素な休憩室を照らしている。中にも人影はなく、窓に手を掛けると鍵も掛かっていないようだ。ジンに周囲の監視を任せ、ザッカーマンが窓を乗り越え侵入する。音を立てずに床に着地し、部屋の中にある唯一の扉に耳を当てる。

 

 何も聞こえない。


 扉を薄く開き中を確認すると、その部屋は一面がガラス張りとなっており、車両を検閲できるようになっていた。扉の隙間から見えている範囲には、敵影はない。一気に扉を開き、部屋全体を見渡すが、誰もいなかった。


 一度休憩室に戻り、ジンも呼び込んで、部屋の物色を始めた。武器の類は見つからなかったが、シンビオーシスからやって来る、特殊車両の運行計画書を手に入れた。

 

「車両の運行計画中止? 一体何が起きてるんでしょう」


 計画書に記載された、ここ数ヶ月の予定が黒塗りされており、計画中止と赤文字で付け加えられている。


「いずれにせよ、これで唯一判明していた退路は閉ざされたってわけね。あとは、前進あるのみよ」


お読みいただきありがとうございます。

よかったら感想、広告の下にある評価、ブクマへの登録をお願いいたします。

作者の励みになりマス。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ