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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case3.『カイワン』
34/58

03.幕間

 街が静まり返った深夜、ライフマターのロゴが刻印された輸送機が、競り市場に着陸した。

 なるべく人目を避けられて、輸送機が着陸できる場所と時間を指定したのだが、既に飛行音に気づいた住人たちが、遠巻きにコチラを眺めている。この調子では、数分もかからずに、人垣ができてしまうだろう。


「遅いな…」


 ジンは、そわそわと落ち着かない様子で、ザッカーマンのことを待っていた。二人が打ち合わせていた、合流時刻からゆうに30分は経っているだろう。

 もしかしたら、事件に巻き込まれたかもしれない。

 そう考え始めた丁度そのとき、野次馬を掻き分けて、大荷物を抱えたザッカーマンが市場に現れた。ソレがあまりに重いのか、足がおぼつかない彼女の元へ、ジンが駆けつける。


「隊長、手伝いますよ」

「あぁ、そうしてくれると助かるよ」


 ジンは、彼女の両手を塞いでいた荷物を受け取った。

 存外に重く、少し足がふらつく。


「おいおい、落とすんじゃないぞ。戦前の貴重品なんだから」

「戦前…? 一体どんな骨董品を買ってきたんですか」

「話は後だ。コレを輸送機に積み込んで、さっさと出発するぞ」


 大量の荷物と共に、二人が機体に乗り込むと、パイロットがエンジンを起動した。

 輸送機は垂直に浮き上がっていき、ある程度の高度を確保すると、プレベントに向かう航路に入った。


「それで、隊長――」


 離陸前の話の続きをしようと、ザッカーマンに声を掛けようとしたが、機体が安定した直後から、彼女は静かに寝息を立て夢の中に旅立っている。ジンはその様子を見て、話を聞くことを諦め、自身も目を瞑って眠りについた。


 ゴォォーー


 突如、強風が全身を襲い、ジンは目を覚ます。

 貨物庫が開け放たれ、機体の双翼が地面に吹き付ける風が、内部に入り込んでいた。外には、見慣れたレイゼン家の屋敷が見える。


「やっと起きたのか、さっさと降りて付いてこい!」


 既に機内の積荷はなくなり、ジンだけが取り残されていた。

 声のした方をみると、ザッカーマンが屋敷の入口で大きく手を振っている。

 彼は慌てて機体から降り、扉を開けて中に入って行く、彼女の背を追いかけた。


「はぁはぁ…降りるときに、起こしてくださいよ」

「自分の面倒ぐらい、自分で見なさい」

「別に戦場じゃないんだから、いいじゃないですか」


――ふふっ


 その笑い声のほうに振り向くと、二階から降りてくるヒルダが、こちらの様子を見て笑っていた。

 

「まさか、こんなに早くお二人と再開できるとは、思ってませんでした」

「私も巫女様の依頼を完了するまでは、こっちには来ないと思ってたんだけどね」

「やっぱり、宙の使者が関わってるんですね」

「ん? 君もカミラさんから、使者について話しを聞いたのかい」

「いいえ、ジンさん。三庁が予知夢を公表したので、今では私だけでなく、プレベントの全国民が知っているんですよ。そうですね、立ち話もなんですし、どうぞこちらへ」


 そう言うと、ヒルダは客間に二人を招き入れる。そこは、黒檀調で統一された家具が、厳かな雰囲気を醸し出していた。巫女から依頼を受けた応接間とは違い、部屋の片隅にはキッチンまで設置されている。屋敷の使用人たちが輸送機から運び出した、大荷物もキレイに整頓されている。

 そんな客間に入った三人は、中央にある長テーブルを挟むように配置された、ダイニングチェアに腰かけた。


「ハーブティーなら直ぐに用意できますが、いかがですか」

「それなら、お言葉に甘えようかしら」


 ザッカーマンの言葉に小さく頷き、ヒルダはキッチンへ向かい。その戸棚から、瓶詰された植物を数種類取り出し、ティーポットに詰めていく。


「ジンさんの様子を見るに、長旅でお疲れなのでしょう。疲労回復の効用がある薬草を、ブレンドしておきますね」

「ハハ…君にもみられてたのか」

「えぇ。ジンさんが駆けて出してくるのを、ちゃんと中から見ていましたよ」


 トクトクとお湯が注がれ、爽やかな香りが部屋に広がる。

 ヒルダは手際よく、三人分のティーカップへとハーブティーを移し、それらをトレーに載せてテーブルまで戻ってきた。そして配膳されたティーカップに、二人がさっそく口を付けるのを、ヒルダが落ち着かない様子で見つめている。


「ふふっ。そんなに見つめないでよ、ヒルダ。心配しなくても、貴女が淹れたハーブティーは、美味しいかったわよ」

「本当ですか! 実は、薬草のブレンドは始めたばかりで、少し自信が無かったんです」

「そう言えば…ヒューゴも、ヒルダが淹れたお茶は絶品だって言ってたような」

「あ~、なるほどね」


 ザッカーマンがにやつきながら、ヒルダの方を見ると、彼女は真っ赤に顔を赤く染めてしまった。ハッとしたジンは、空咳をしたのちに話題を逸らした。


「ところで、隊長。レイゼン家に戻ってきた理由を、まだ聞かされていないのですが」

「そうね。ヒルダをからかうのはこの辺にしておいて、本題に移りましょうか」


 手に持ったティーカップを受け皿に置き、ザッカーマンは口を開いた。


「プレベントの所有する航空機の中で、砂嵐を越えられるモノはあるのかしら」

「砂嵐…使者と、何か関係があるのですね」

「そう。貴方達が使者と呼ぶヤーコフ・キリエンコは、戦前に使われた環境兵器の置き土産、超大型の砂嵐が発生している汚染地帯、その中心にあるシンビオーシスの牢獄に囚われてるの」

「汚染地帯調査のための特殊機体を、遠征隊が所持してはいますが…シンビオーシスが関わっているとなると、少し話が難しくなります。三庁の方針により、遺物回収時のみ遠征隊は交戦許可を与えられているのです。しかし、それ以外の目的で遠征隊が、他組織に攻撃を仕掛けるのは禁じられていますから」

「君の口振りからするに、プレベントが待望した宙への使者。その彼の救助に、協力するという内容でもなんだね」


 ジンの問いかけに、ヒルダはコクリと頷く。

 その様子を見ていたザッカーマンは、椅子から立ち上がり、荷物を漁り始める。


「別に、援護して欲しいわけじゃないの。ただ、砂嵐の中心に送り届けて欲しいだけ、なるべく高高度でコレを使わなきゃいけないから」


 そう言いながら、防寒装備と酸素マスクを取り出した。


「それは、一体何に使うモノなんでしょうか」

「高高度降下低高度開傘、所謂HALO(ヘイロウ)降下に使う装備よ。戦前の特殊部隊が、敵地に潜入するために使った降下方法でね。その名の通り、高高度から降下するから、人工衛星が全てデブリになっている現在なら、航空機の検知は不可能といっても過言じゃないわ」

「なるほど、交戦をするわけでないのですね。それなら、要請が通るかも」

「えっ、ちょっと待ってください。隊長は、パラシュートを使ったことあるんですか」

「勿論あるわけないじゃない。航空機自体が、貴重なんだから。ただ、アイに調整してもらったコレを使えば、シミュレーションすることは可能よ」


 同様に荷物の中から取り出した、ヘッドマウントディスプレイをトントンと指で叩く。なるほど、VR訓練を積めば降下の手順自体は、体に叩き込むことができるだろう。


「でも、実際は強烈な風と寒さの中で、降下するんですよ」

「そんなに嫌なら、アンタはユニオンで待ってればいいじゃない。私は、契約を完遂させなきゃいけないの」

「うぐぐ…分かりました! その方法でしか潜入できないなら、自分も隊長に付き合いますよ」

「話は纏まったようですね。それなら、早速わたしは」


 ザッカーマンは、そう言って立ち上がろうとするヒルダの肩に手を置いた。


「そんなに焦らなくてもいいのよ。どうせ、訓練には時間が掛るんだから。今は、貴女の淹れてくれたお茶を、ゆっくり味わいたいわ」

「そうですか。でしたら、もっと試したいブレンドがあるんです。ちょっと、待っててくださいね」


 キッチンで新たに、薬草をブレンドするヒルダと、HALO降下のことで頭が一杯になっているジンを横目に見つつ。ザッカーマンは、カップに残ったハーブティーを飲みながら、優雅な一時を満喫した。


お読みいただきありがとうございます。

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