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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case3.『カイワン』
33/58

02.昔日

 輸送機に乗ってユニオンへと戻ってきた二人は、腹ごしらえのため下層街のジャンクフード店にやって来ていた。注文したモノを給仕が、彼女たちの座るテーブルに置いていく。


「あっちの食べ物は、少し上品すぎだわ。私には、こういうのが合ってる」

「確かに、ジャンクフード自体存在してませんでしたね」


 化学調味料をふんだんに使った、体に悪そうなハンバーガーに二人はさっそく齧り付いた。

 肉とチーズとケチャップの混ざった味が、口の中を支配する。

 それをコークでリセットして、またハンバーガーを口に運ぶ。

 至福の一時はあっという間に終わり、ケチャップの付いた紙包みと、空のコップだけがテーブルに残った。


「ふぅ。やっぱり、この味が最高だわ」

「それで、これからどうします。隊長」

「気乗りはしないけど、彼に昔話をしてもらうしかないわ。あの巫女様の予知夢とやらは、正確なようだし」


 そう言うと、彼女は立ち上がり手土産として、ハンバーガーのセットを紙袋に包んでもらった。

 店を出ると、その足で同じ通りの一角にある診療所へと向かう。

 その扉を開くと、中には手術着のまま煙草をふかして休憩しているユーリがいた。

 彼は二人に気が付くと、火を付けたばかりのソレを、灰皿に押し付ける。


「おー、話題の二人じゃないか。プレベントから一生戻ってこないと思ってたぞ」

「生憎、あっちの空気は体に合わなくてね。ほら、どうせまだ昼食べてないんでしょ」

「ん? ハンバーガーか、有難いね」


 ガサガサと紙袋を漁り、さっそく食事をとり始めた。

 それに構わずザッカーマンは、話を進めていく。


「単刀直入だけど、『宙への使者』ってのに心当たりは無い?」


 その言葉を聞いたユーリの手が止まる。

 

「アリシア、何故そんな事を聞くんだ。なるべくなら、彼に関する話はしたくないんだが」

「プレベントで依頼を受けたの。使者を鉄山の牢獄から連れ出し、彼の国家に送り届けて欲しいってね」

「悪いことは言わない、その依頼から手を引け」

「ユーリ。もう契約は結ばれたの、ザッカーマン傭兵事務所はソレを反故にすることはできないわ」


 彼女の性格をよく知るユーリは、ため息をついた後、食事を再開する。

 それが終わるまで、二人はじっと待った。


「昼飯ありがとな。ジン、悪いが店のシャッターを下ろして来てくれ」


 彼はその言葉に頷くと、外へ出てシャッターを下ろしてきた。

 日が遮られ、頼りなく光る電球だけが、診療所内を照らしている。

 一息つき、ユーリはおもむろに口を開いた。


「俺の恩師であるヤーコフ・キリエンコは、兵器開発の第一人者だった。彼は、シンビオーシスの兵器開発局の局長でありながら、医術の分野にも明るかった。俺は、開発局で助手をしていてな。ヤーコフさんと親しくなって、かねてから学びたかった医術について、知識や技術を享受して貰うことができたんだ」

「あなたの師匠が『宙への使者』ってわけ? 私はてっきり宇宙工学でも――」

「まぁ、話を聞けアリシア。彼は宙を覆うデブリを破壊する兵器を、研究開発していたんだ職務とは関係なくな。ただ、それの構想が完成していくにつれ、ヤーコフさんは兵器が宙ではなく、大地に向かって放たれることを恐れ始めた。悪いことにその頃、憲兵が研究を嗅ぎ付けてな…成果の譲渡を拒んだ彼は、反逆者として投獄されたんだ」


 なるほど、宙を覆う程のデブリを破壊できる兵器なら、都市一つ消し飛ばすことだって可能だ。ヤーコフに良心というモノがなければ、プレベントはともかくユニオンは灰と化していただろう。


「ユーリさんは、彼の助手だったんですよね。しかも、研究内容まで詳しく知っている。あなたも、憲兵から追われたハズ…」

「俺も捕まったのさ。それで、懲罰部隊として前線に送られた。そこで俺はアリシアに助けられ、彼女も俺に助けられた」


 ジンが驚いた顔で、ザッカーマンの方を見る。

 

「そんな事聞いてないって顔ね。そりゃそうでしょ、聞かれてないもの」

「自分は、隊長からユーリさんとはPMC時代からの仲と聞いていたので、てっきり――」

「同僚だとでも思ってたわけね…別にそんなんじゃないわ。私の部隊と、彼の部隊が戦場でかち合って、生き残った私の治療を彼に頼んだの」

「俺をPMCに紛れ込ませて、ユニオンに連れていくことを条件にな」

「お二人には、そんな因縁があったんですね」


 それから何回もザッカーマンは、ユーリの世話になっている。しかし何年経ったとしても、戦場で敵兵に命を助けられた事実は、兵士としては屈辱的な行為であり、なるべくソレを他人に知られたくはなかった。


「昔話はこの位にして、彼の投獄された場所について教えて頂戴」

「そこは通称、蟻地獄と呼ばれていてな。緯度-35.106 経度115.235に位置する汚染地帯の、ど真ん中にある牢獄だ。遠い昔に使われた環境兵器によって万年、超大型の砂嵐が吹き荒れているんだよ」

「なにソレ。そんな所に投獄されて、ヤーコフは生きてるの?」

「定期的に外から備品やらを乗せた特殊車両が、砂嵐を越えて牢獄とシンビオーシスとを往復してる。ヤーコフさんが、兵器に関する情報を吐いていなければ、本人の意思に構わず生かされているはずだ」


 ユーリの話を聞く限り、そこへの潜入は至難の業になる。どうにかして、特殊車両を奪取して中に入れたとしても、ヤーコフがどこにいるのかは不明。運よく救出したとしても、彼を護衛しながら牢獄から脱出しなければならない。


「その顔を見るに、手詰まりってところか」

「そうね…今のところは、あなたの言う通りよ」

「隊長、どうしたんですか。そんなに簡単に諦めるなんて」


 依頼を受ける前は、あんなに嫌そうな顔をしていたのによく言うわ。


 そんな風に頭の中でジンを小馬鹿しつつ、ザッカーマンは腕を組んで瞑想し、突破口が無いか思考を巡らせた。カミラの予知夢を信じるなら、ヤーコフを救助することまでは可能なはずだ。


――そこに新たな風が吹き


 カミラが見た予知夢の一片が、ザッカーマンの頭をよぎる。


「風…そうだ、文字通り風と化す必要がある」

「え? 何を言ってるんですか隊長」


 彼女が唐突に呟いた言葉を理解できないジンは、呆けた顔でザッカーマンを見つめている。

 

「一度、プレベントに戻る必要がある。ジン、お前はレイゼン家に迎えを頼んでおけ」

「了解しました。ですが、その間に隊長は何かするつもりなんですか」

「ふふ。まぁ、楽しみにしておけ」


 彼女はそう言い残し、閉じられたシャッターを押し上げて、路地の雑踏に消えた。


お読みいただきありがとうございます。

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