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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case3.『カイワン』
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01.招客

 屋敷に戻りレイゼンに応接間に案内されると、既にそこには見知った顔があった。


「ジン。あなたも、呼び戻されたのね」

「ヒューゴ達の様子を見に行ってたところ、依頼の話を聞きまして」


 プレベントに招かれた子供達は、国家に貢献できるように養成施設に通っている。

 そこでは、各人の適性に合った教育を受けているようだった。

 彼らが心配だったジンは、毎日のようにそこに見学に行っているが、今のところは誰もが知識や技術を学ぶべることに喜んでいるらしい。


「それではお二人共、少々お待ちください。依頼人をお呼びいたしますので」


 応接間に二人を残し、レイゼンが居なくなってしまう。

 ジンは、この国に必要な事なら喜んで依頼を受ける。なんて意気込んでいるが、プレベントの住民が外界の人間に依頼するとは、なんだか厄介なことに巻き込まれそうだ。


 ガチャ


 応接間の扉が開かれ、純白の祭服に身を包んだ女性が現れた。


「ザッカーマン様、ジン様。こちらは、『巫女』であらせられるカミラ様です」

「貴方たちが、あの子供達を救ってくださったのですね。ヒルダに課せられた試練にご助力してくださり、感謝いたします」


 彼女が深々とお辞儀をするのに合わせ、二人も立ち上がって頭を下げた。

 カミラと呼ばれた女性を紹介するレイゼンの声が、少し上ずっている。

 この国で宗教信仰をしている者は見当たらなかったが、巫女はどんな役割を果たしているのだろうか。

 それに、ヒルダに課された試練というのも気になった。


「皆様、どうぞお掛けください。コホン、僭越ながら巫女や試練について、私めがお二人にご説明いたします。プレベントは、平時は三庁によって統制されております。ですが例外もあり、古来よりの習わしにより、我々は巫女様の予知夢を、現実にするまたは克服することを第一としております。彼女の予知夢は、国全体を動かす内容から、個人に関わる内容まで様々です。今回のそれは、私の娘に関わるものでした」

「欲と憎悪に塗れた地で、希望の新芽と出会い、外界に生をもたらす者達の若き血脈が目を覚ます。これは、雛の旅立ちであり、親鳥は我が子を見守るのみ」


 レイゼンの説明が終わると、カミラが呪文めいたことを口にした。

 これが彼女の見た、予知夢の内容なのだろうか。だとすれば、レイゼンがヒルダに手を貸さなかったのも納得できる。


「国民達にとって、私の見る予知夢は絶対…。ですが、こんな習わしは、無くなってしまえばよいと常々思っています」

「カミラ様、なんて事を仰るのですか! 我々は現に貴女様の予知夢で――」


 レイゼンはくどくど、彼女の功績を称え始めた。だが、一向にカミラの顔は浮かばない。なるほど、巫女様には彼女なりの苦労があるのだろう。しかし、ザッカーマンはそんな巫女様が携えて来たであろう、依頼の内容のほうを早く聞きたかった。


「失礼ですが、依頼人はカミラ様ということでしょうか」

「ほらレイゼンさん、お二人が困っているでしょう。話はそのくらいにして、三人だけにしては頂けませんか」

「おっと、これは失礼致しました。では、私はこれにて…」


 非礼を詫び、レイゼンは応接間から去っていった。

 彼が居なくなると、カミラは深いため息をついた。


「すみません。お見苦しい所を見せてしまい…」

「いえいえ、お気になさらず。それで、巫女様からの依頼とは一体何なのでしょう」

「宙への使者は翼を捥がれ、牢獄で鉄山に繋がれた。そこに新たな風が吹き使者を乗せて、青き海へと誘っていく」


 虚ろな目をしてそう呟くカミラに、その様子を心配したジンが声を掛けた。 


「それも予知夢ですか」

「はい。本来なら三庁の長に報告するのですが、現在この内容を知る者は貴方達だけです」

「どうして、我々だけに?」

「この予知夢には、続きがあるのです」


――使者は高波に攫われ血の海へ、風は嵐に巻き込まれ、亡者を纏い泥梨(ないり)に落ちる。


 恐らく、風とはザッカーマンとジンだ。使者が何者かは分からないが、鉄山と言えば、金属の生産地を多く占有するシンビオーシスが連想される。彼の軍事組織から『使者』を連れ出し、プレベントへ向かう途中で、泥梨…つまりは地獄を見ることになるのだろう。


「その通りなのです。宙への使者は、国民が待望していた御仁…しかし、貴方達を死地へ向かわせるには――」

「いいえ、プレベントの巫女様。私達には、そのような心配は無用です。見合った報酬さえあれば調査、暗殺、誘拐などなど…どんな依頼でもザッカーマン傭兵事務所は請け負いますよ」


 隣で嫌そうな顔をするジンの事は無視して、ザッカーマンは両手を組んで祈るカミラの手を取りながらそう言った。


「しかし、我々はお金は」

「巫女様、金銭だけが報酬になり得るわけではありません。例えば、ある技術に関する情報とか」

「その技術とは、一体…」


 そう問われたザッカーマンは、カミラの耳元で何かを囁く。


「――ッ! 何故、ソレを知っているのですか」

「ふふっ、その反応。どうやら、勘が当たっていたようね。私の報酬は、ソレに関する情報で構わないわ。ジン、あなたは地獄のような試練の報酬として、何が欲しいのかしら」


 突然話を振られたジンは、思い付いたモノをそのまま口に出した。


「花がいいです。この街に咲いている、あの小さな黄色い花が」

「そ、そんな。本当に、花でいいのですか」

「はい。外では、貴重なモノですから」


 カミラは二人の要求する報酬を聞いた後、それをよく吟味するように瞳を閉じた。しばらく後に、彼女は深呼吸すると意を決したように瞳を開いた。


「分かりました。依頼を達成した暁には、お二人の望むモノを与えます」

「それは良かった。でしたら、ここにサインをお願いします」


 こんなところにまで、持ち込んできていた依頼書をポーチから取り出し、カミラの前にペンと共に差し出した。サインをする習慣がないのか、彼女は慣れぬ様子で『カミラ・レーテ・モルタ』と、契約書に書き込んだ。


「これで契約は結ばれました。それで、肝心の使者とは一体誰なのでしょうか」

「予知夢によれば、ザッカーマンさん。貴方の命の恩人が、彼の事を知っているはずです」


 彼女は戦場で多くの仲間に命を救われているが、シンビオーシスが関わっているとしたら、一人しか思い浮かばない。


お読みいただきありがとうございます。

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