00.序章
ザッカーマン達が、プレベント内に屋敷を構えるレイゼン家に迎えれてから、二週間は経とうとしている。彼女たちは残存国家での暮らしを経験し、今まで謎だった彼らの文化を知ることができた。
彼らは壁によって作られた、人工湖の中心にある島で生活している。そこには、外では見られない緑豊かな自然が残っており、街でも至る所で草木が見受けられた。路地には並木が植えられ、自動操縦の車両が住民を乗せて往来している。文明と自然が調和した生活も、回収した遺物による技術が、もたらしたモノなのだろう。
そんな島国は、食料管理庁・エネルギー管理庁・軍事庁によって統制されていた。彼らの管理の元では、蛇口を捻れば飲み水が溢れ出て、必要な分だけ食料が与えられる。金銭の概念はなく、皆が平等に生きる権利を与えられていた。
ヒルダが言うには、プレベントでは家系ごとに役割があるらしいが、ソレに縛られるということは無く。国家の利益になるのであれば、誰が何をしてもいいらしい。生を受けた時から、運命の決まっていたザッカーマンにとっては、信じられないことだった。
ただ、無償でモノを与えられる事に慣れない彼女は、ヒルダの父に無理を言って新兵訓練の教官を、滞在中は勤めている。今日も彼女は新兵を前にして、戦場で生きる方法を教えていた。
「いい? 戦場で仲間が死んだとしても、決して動揺してはいけないわ。その死体を、踏みつぶす位の覚悟を持っておきなさい」
「ザッカーマンさん。貴女は外の人だから、そう言えるんですよ。私達の仲間の殆どは、生まれたときから親ぐるみの付き合いなんです。そんな、非情なことは――」
「甘いのね。貴方達は、圧倒的な技術に守られてるが故に、仲間の死に慣れていない。負けるハズが無かったのに、一人の死が感染して部隊を全滅に追いやる。だから、度々プレベント兵の遠征隊が壊滅するのよ」
「じゃあ、どうしたらいいんですか」
そう言う新兵の一人に、ザッカーマンは近づいていった。
「私は、子供の頃に母親を殺したの。元々所属していたPMCの社長の命令でね。クズな親だったけど、唯一の肉親だったから、情が無かったと言えば嘘になる。でもね、『命令』だと割り切ったら楽に引き金を引けたわ。今でも、彼女の最期は脳裏にこびり付いてる…」
耳元で囁かれた言葉に、新兵思わず口で手を覆った。
彼らの育った環境では、そんな事をさせられるなんて考えられないのだろう。
吐き気を催したのか、彼は一言謝って訓練所にあるトイレに駆け込んだ。
本当は母親の顔すら知らないんだけど…彼には悪いことしちゃったわね。
少しだけ罪悪感を覚えながら、残った新兵達に彼女は向き直った。
「貴方達には家系ごとに『役割』があるんでしょう。それを果たすことが、国家のためであり、仲間のためなんでしょう。だったら!死んでいった者を踏み越えてでも、貴方達の役割を全うしなさい!」
パチパチパチ
大仰な演説を終え、ザッカーマンが実技訓練に移ろうとすると、何処からか壮齢の男性が拍手をしながら近づいてきた。
「いやぁ、素晴らしい考えですな。さすがは、傭兵達に火傷女と恐れられるお人です」
「おや、レイゼンさんじゃないですか。此方にいらしてたんですね」
「そんな堅苦しい呼び方はよしてください、気軽にシュルヴェステルと呼んでくれ」
そっちの方が言いにくいんだけど…。
そんなことを思いながら、彼女はいつものセリフを吐く。
「いいえ、レイゼンさん。外界の民である私にとっては、ライフマターを取り仕切る貴方を、名前で呼ぶなんて恐れ多いことできません」
「うーん。いつもそう仰りますが…。おおっと、今日はこんな事を話しに来たんじゃなかった。貴女達に、依頼したいことがあるのです。私共の屋敷まで、戻ってきてくださりますか?」
「依頼ですか。構いませんよ、平穏な暮らしにも飽きて来たところですから」
レイゼンはその言葉に苦笑いしながら、訓練場の出口へとザッカーマンをエスコートしていった。
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