13.強襲
日は傾き太陽が水平線に沈み始め、茜と蒼とが混ざりあい不吉な空模様を織りなしている。
プロテクト社でヒルダを降ろした二人は、その足で上層街にあるブロウ社へ向かった。
プロテクト社と同様に塀に囲まれた基地のようだが、こちらの方がより堅牢で広大だ。二人が検問所を無事通り抜けると、車両基地から顔を覗かせる何機ものホバークラフトに、兵士達が武器を積み込んでいた。分隊支援火器にグレネードランチャー、さらには迫撃砲や無反動砲まで見える。
ハーメルンの規模は不明だが、彼らが虎の尾を踏んだことは確かだった。
基地の中に兵士達を指揮するイレネオの姿を見つけ、ザッカーマンが声をかける。
「大盤振る舞いね。採算は取れるわけ」
「俺たちの依頼人である、ヒルダ嬢のお父上に報告をしたのさ。そうしたら、報酬を上乗せするから地上からハーメルンを抹消しろと、契約書に付け足されてね。使った弾薬や損耗した機体の部品まで、提供して下さるとさ」
「ちょっと、ヒューゴまで消し炭にしないでよ」
「分かってるよ。ああいう物騒なモンは、あくまで突撃前の支援砲火や、敵機の破壊にしか使わないさ」
肩越しに指さす方向には、ミサイルポッドが搭載されたホバークラフトがあった。
明らかに過剰な武装だ。本当にハーメルンを塵一つ残さずに消し去るつもりなんだろう。
「イレネオ!準備が終わったぞ、いつでも出発できる」
「おう、分かった。それで、そっちの準備はできてるのか」
「当たり前よ、さぁ行きましょう」
ザッカーマンとジンは報告に来たガーランドに先導され、隊長機らしき機体に乗り込む。
そこには、セーフハウスに居た面々が揃っていた。
その内の一人、マーカスと呼ばれていた男がザッカーマンに握手を求めてくる。
「イレネオ隊長から聞きました。貴女が彼の有名な火傷女さんだったんですね!同行できて幸栄です」
「黙れマーカス。大人しく座れ」
「うわわ!」
どうしたものかと思案していると、マーカスの隣に座っていたカリナが、彼の首元を掴んで強引に座席に引き戻した。だが、彼は懲りずに隣に座ったジンにも声をかける。
「あっ!その拳銃、R&S社の新商品じゃないですか。いいなぁ、僕も欲しいんですけど、高くて手が出せないんですよ。って、その腕に着けてるデバイスは――」
一人でずっと喋り続けるマーカスに、ジンは気圧されて苦笑いしている。
その様子を見て、ガーランドとカリナはため息をついた。
「はぁ。マーカスの事は気にせんでくれ、あんたは作戦内容を聞いてるのか」
「メールで見たわ。包囲後、爆撃で突破口を確保、そして数にモノを言わせてすり潰す」
「そうよ。単純で確実な作戦」
「恐らく、あんたの出番はないだろうな。ハハハ!」
「そうはいかないわ。私だって、ヒルダから依頼を受けているのだから」
「お喋りはその辺にしておけ、そろそろ出るぞ」
助手席に乗っているイレネオが、パイロットに合図する。
ブゥーン
機体が浮き上がり、窓から見える外の景色が動き出した。
1時間程で目的地に到着するはずだ。
本当なら精神統一でもしたところだが、目の前に座るお喋り男が黙ることはないのだろう。
彼女は窓の景色を眺めながら、無心になるように努めた。
――拘束椅子に縛り付けられた少年のもとに、一人の兵士が近づいていく。
ゴスッ!
頬を殴られた痛みで、ヒューゴは覚醒した。
この部屋に閉じ込められてから、何日経ったのかすら思い出せない。
数日前だったか、あの日に薬を投与されてから記憶が曖昧だ。
「おい!お前の言っていたプレベントの令嬢は、誰に守られているんだ!」
目の前に居る男が、怒鳴り声をあげる。
あぁ…僕はヒルダの事を口にしてしまったのか。
「ごめん、ヒルダ…」
「クソ、だから自白剤はやめろって言ったんだよ」
バシャ!
冷水を掛けられ、あまりの冷たさに四肢の震えが止まらなくなる。
その代わりに頭に掛かったモヤが、少しだけ取り払われた。
コイツは、まだヒルダの情報を欲しがっている。ということは、彼女はまだ無事なのだろう。恐らく、イレネオとかいう男が、ハーメルンの襲撃から守ってくれたんだ。
それに、あの装置の事を聞かれないってことは、まだそっちの情報は言っていないらしい。
だとしたら、まずは一安心だ。
「ハハッ!」
「何笑ってやがる。ついにイカれちまったのか」
「違うよ、僕にはまだ運が残ってた。それが嬉しいだけだよ、クソ野郎が!」
「チッ、相変わらず反抗心の強い奴め。ギャレット家の乗っ取りに失敗したときに、殺しておくべきだったなっ!」
バキッ!
自動小銃の銃床で、顔面を思いっきり殴られた。
鼻が折れ、血が垂れてくる。
ただ、痛みよりも後悔の念が胸を強く締め付けた。
ギャレット一家…彼らは僕のことを取り換え子だと知っていて、愛してくれた。
本当の子供のように接し、色々なことを教えてくれた。
だから、ハーメルンの事を伝えた。
それなのに彼らは、自分たちが逃げてしまうと僕の身が危険になると言って…。
結局、目の前で奴らに殺されてしまった。
敵討ちのつもりで、家に火を付けて自分が死んだことにした。
この行動で、財産は僕に行渡らず、ハーメルンを追われることになった。
だから、あの坑道でテラフォーミング装置を、見つけたときは歓喜した。
あぁ…神様、私に彼のクソ野郎共を殲滅する機会をくださり感謝しますと。
だが、当てにしたリンパール社は腰抜けだった。
たかだか下層街の犯罪組織相手に、尻尾を巻いて逃げ出すとは。
しかし、まだ神様は僕のことを見捨てていなかった。
こいつらがヒルダに手を出したなら、もうハーメルンに未来はない。
今更、イレネオが運営する会社の名前を知ったところで、どうしようもないだろう。
「そんなに知りたいなら、教えてやるよ!ヒルダはな、ブロウ社の社長が直々に護衛してるんだよ!」
「なっ、なんだと!」
ドゴォン!
突然の爆発音の後、建物が激しく揺れ、天井から剝がれ落ちた石片がパラパラ降り注いできた。
――同刻、ハーメルン拠点にて
無反動砲により、建物を囲む塀の一部が破壊された。
騒動に気づいた敵兵が、内部から湧き出てくるが、迫撃砲の絨毯爆撃により次々と吹き飛ばされている。
「圧巻ね、映画のワンシーンみたいだわ」
口笛を吹きながら、その光景をザッカーマンは眺めていた。
まるで地獄の業火に焼かれる、罪人たちのようだ。
「イレネオ隊長、かなり怒ってましたからね。ホント、昨日は何回どつかれたことか」
彼女の隣で、同じくそれを見ていたマーカスが口を開く。
それはお前のせいだろと誰もが思ったが、面倒くさいので言葉にはしなかった。
塀の内側にあるガレージが開かれ、機関砲を積んだ機体が続々と現れた。
「支援部隊は一旦下がれ!機甲部隊前に出ろ!」
イレネオの号令で、一斉に陣形が変わり、複数台の重武装のホバークラフトが前線を張る。
装着されたミサイルポッドから、何発もの小型ミサイルが飛び出していき、敵機を爆砕してく。
やっと形勢不利と理解したのか、敵兵は建物内部に撤退し籠城の構えを見せた。
「敵拠点は外からの見立てだと、三階建てですね。どう部隊を振り分けるつもりですか」
「ジン、細かい振り分けなんてしなくていいのさ。一階を支援部隊以外の歩兵で掃討後に、各階への階段を抑える。地下があれば、部隊を半分に分けて上下に同時侵攻させるだけだ」
大雑把だが数でも武装でも勝る軍隊が、細やかな作戦を立てる必要はない。
平押しすることが、一番被害が少なく勝利することができるだろう。
「だったら、私とジンは一階制圧後に、地下のほうへ行く部隊と合流させてもらうわ。誘拐後の子供を監禁するなら、地下の牢獄と相場が決まってる」
「構わない。好きにしろ」
全部隊の待機が完了し、イレネオが手を挙げると一方的な虐殺が始まった。
一方で、地下の拷問室に閉じ込めらているヒューゴは窮地に陥っていた。
足元には大量の爆薬が置かれ、目の前の男が起爆装置を握っている。
「敵の狙いは、恐らくお前だろう。だ、だったらお前を人質に取れば…」
起爆装置を握る手は、小刻みに震えている。
自分が何に手を出してしまったのか、今更気づいたのだ。
「おいおい、やめてくれよ。そんなんじゃ、間違ってボタンを押しちまうぞ」
「この期に及んで、生意気な口を聞きやがって!」
「うっ、むぐぐっ!」
男は、荒縄でヒューゴの口を塞ぎに掛かってきた。
そうこうしている内にも、銃声はコチラに近づいてきている。
バズンッ! ドンッ!
唐突に扉が打ち破られ、兵士の死体が中に転がり込んできた。
入口には、顔に残る火傷跡が目立つ女傭兵が立っている。
「おい!そこを動くんじゃねぇ、俺の手に――」
バズンッ!
男が何かを言い切る前に、ザッカーマンの回転式拳銃が火を噴いた。
脳髄が壁にぶちまけられ、男はこと切れる。
手からずり落ちた起爆装置を、彼女は破壊し、椅子に縛り付けられている子供に近づき拘束を解いた。
「あなたが、ヒューゴね。ヒルダに依頼されて、救出しに来たわ」
「え…ヒルダが僕を?」
「あら、意外そうな顔ね。彼女は案外、友達思いなのよ。ほら、ジン!荷物持ちは――」
「はいはい、分かってますよ!」
ザッカーマンが部屋の外に声をかけると、ジンがやって来た。
「君がヒューゴか。少しだけ辛抱してね」
「うわっ!」
彼はヒューゴの体を軽々と持ち上げ、肩に担いだ。
浮き上がったあばらが当たって、少し痛む。
ぐぅ~
安心したのか、ヒューゴは空腹だったことを思い出した。
「ふふ、腹が減ってるのね。なら、まずはココから抜け出しましょう」
爆薬が山積みになった部屋を出るザッカーマンの背に、ヒューゴを担いだジンが続く。
三人は地上に目指して、死体だらけの通路を進んでいった。
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