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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case2.『ハーメルン』
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12.朝凪

 窓から朝日が差し込み、ヒルダは目を覚ました。

 体を起こすと、服全体に広がる赤茶けた染みを視界に捉える。


「あれは、夢じゃなかったのね」


 余りにもあっけなく、多くの人が死んでいった。

 お父様から話には聞いていたけれど、あれが今の世界の姿なんだ。

 だからこそ、私達が導かなければいけない。

 そのためにも、ありのままの現実を受け止めないと。


「うっ…おぇ」


 脳裏に昨日の光景がよぎり、血の匂いが呼び覚まされ吐き気がする。

 彼らの動きは、どうみても私の誘拐が目的だった。


 私の素性を知るのは、ザッカーマンさん達の他には、ヒューゴしかいない。

 多分、ヒューゴは尋問されて、私について情報を漏らしてしまった。

 彼の持つ重要な機密情報は私の事以外だと、リンパール社との取引についてだろう。

 ザッカーマンさんからは、取引内容については詳しく聞いていないけれど、彼女の様子からするにかなり重大なモノを取引材料にしたに違いない。


 もし、ヒューゴがその事を話していたら…。

 スラム街に居た、隻眼の男が思い出される。

 用済みとなった彼は、躊躇なくイレネオに殺された。


「ヒューゴ、どうか無事でいて」


 異国で出会った少年は、境遇を嘆くことなく未来に希望を持っていた。

 環境に甘えていた私は、彼によって目覚めることができた。

 大きく深呼吸をして、ベッドから立ちあがり、扉を開けた。


「あら、起きてたのね。サイズが合うかは分からないけど、これに着替えるといいわよ」


 セーフハウスの広間には、装備の点検を行うザッカーマンの姿があった。

 彼女の指さすほうには、サイズの小さなシャツとズボンが壁に掛けてある


「あの…ジンさんはどこに? 昨日のお礼を言いたいのですが」

「あいつなら、銃を買い出しに行ってるわ。こんな安物じゃあ、いくら腕がよくても弾が何処に飛ぶかわかったもんじゃないもの」


 そう言って、ジンのデスクに置かれた拳銃を手に取り、指でクルクル回し始めた。


「朗報よヒルダ、ハーメルンの拠点が判明したの。ただ、昨日の事があったから、彼らは拠点の守りを固めているはず。あなたは一刻も早く、ヒューゴの救助に向かって欲しいでしょうけど、襲撃は最も効果的な夜に行うわ。ブロウ社と協力してね」

「じゃあ私も――わっ!」


 突然、ザッカーマンがヒルダに向かって拳銃を放り投げる。

 彼女は驚きながらも、どうにかそれを受け取れた。


「ソレ、使ったことあるのかしら」

「いいえ…」

「だったら近接戦闘の経験は」

「まったく…」


 ザッカーマンが立ち上がり、ヒルダに近づくと目線を合わせるために屈み込んだ。


「貴女を襲撃の現場には、連れていけないわ。残酷なことを言うようだけど、戦えない少女は足手纏いよ。プロテクト社に保護を要請してるから、今日はそこに居なさい」


 彼女の言うことは、覆しようのない事実である。

 無力なヒルダが、彼らについていったところで危険が増すだけだ。

 だからこそ、どうしようもなく悔しくて、胸が締め付けられる。


 プレベントに居たころは、こんなに感情的ではなかった。

 あそこでは、お父様の言うことを、ただ受け入れるだけだった。

 しかし、ユニオンで出会った人々によって、自身が驚く程にヒルダは変わった。

 

 こんな残酷な世界が許せない。

 人命を軽んじる組織を許せない。

 そして何よりも、自分の非力さが許せない。

 感情が入り混じり、涙がとめどなくあふれ出てきた。


「正直、貴女が羨ましいわ。生まれた瞬間に、血に塗れた道を歩むように運命付けられた私と違って、貴女には選択肢があるのだから」

「ひぐっ…う、生まれたときから…?」

「そう、私の母親は奴隷商の下で私を産んだの。そして、母が結んでいた契約により彼女の借金の代わりに、PMCの戦闘兵になるために売り飛ばされた。そこでは、殺人の英才教育を受けることができたわ。そして、初任務の前に女としての弱みも手術で消され、私は彼らの殺戮兵器として完成させられた」


 彼女が何を言っているのかは分かる。

 ただ、ヒルダには理解することが出来なかった。

 なんて惨たらしく、苛酷な人生なんだろうか。


「でもね、ヒルダ。こんなのは、ありふれた絶望なのよ。この世界ではね。ただ幸運な事に、貴女やジンはこの絶望を経験せずに済んでいる。だから、よく考えて行動しなさい。賢い貴女ならできるはずよ」


 ザッカーマンが優しく語りかけると、ヒルダはコクリと頷いた。


「強いのねヒルダは、さぁこれで涙を拭きなさい」


 ガチャ


 彼女がヒルダにハンカチを渡そうとすると、入口の扉が開きジンが部屋に入ってきた。

 彼の腰のホルスターには、新調された拳銃が差さっている。

 ザッカーマンが助言した通りなら、彼女が懇意にしている店で買ったものだろう。


「あっ、隊長!ヒルダになんか言ったんですか」

「別に? ね、ヒルダ」

「はい!私はもう大丈夫です」


 渡されたハンカチで涙を拭い、ヒルダは決意を固めた表情で返事をした。


お読みいただきありがとうございます。

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