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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case2.『ハーメルン』
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07.媒介

 ジンは一人事務所で、メモリー端末の復元をしている。

 端末がジャンク品であったため、録音された音声データが破損していたのだ。

 そして数時間の作業の末、断片化したデータのサルベージをやっと終わらせた。


 所々、抜けてる部分があるけど、これ以上は無理だな。


 読み込みができるように、データを再構築するソフトウェアを起動した。

 半時もしない内に完了するだろう。

 疲れを取るためジンは、ソファで仮眠を取り始めた。


――ポタッ


 何か冷たいものが額を伝い、目を覚ます。


「雨か、珍しいな」

「そうですねぇ。でも、これから突入ってことを考えると嫌な天気です」


 微睡むジンの視界には、雨に打たれる隊長とかつて同僚たちが映っている。


「ジン、敵に動きはあるか」

「いいえ。拠点内に引きこもったままです」


 自分の意思とは関係なく、口が動く。

 

「タイチョー、絶対バレてますよ」

「ロイ、黙れ。そんなこと、誰だって分かる」

「ベスの言う通りよ。だから、私達が陽動部隊に抜擢されたの」


 ロイにベスも…懐かしい。


「おい!ぼさっとするな!」


 体がグイッと引っ張られる。

 いつの間にか場面は変わり、廊下にいた。

 先にある曲がり角では、先行したロイとベスが敵と交戦している。

 そして、ジンの手には自動小銃が握られていた。


「二人の援護に回る!お前はここでカバーしろ!」


 そう言うと、ザッカーマンは走り出す。

 すると、彼女が通り過ぎた扉から、敵兵が顔を覗かせた。

 自分の意思とは関係なく、銃口が敵に向いていく。


 ダメだ撃つな!


 その思いも虚しく、引き金が引かれる。

 放たれた固形燃料弾は敵に命中し、部屋の中にも吸い込まれていく。

 突如、その部屋から爆炎が噴き出しロイとベス、そしてザッカーマンを飲みこんでいった。


「みんな!」


 金縛りから解かれたジンの目には、いつもの事務所が映っている。

 額滲む玉のような汗を拭き、あれが夢だったことを理解した。

 デスクに置かれたパソコンには、再構築完了の表示が映し出されている。

 鬱々とした気分を紛らわせるために、音声データを開く。


『誰が聞いているの―ザザッ―ないが、願わ―ザザッ―の知り合いに渡っていてくれ』


 ノイズ混じりであったが、何とか聞き取れる。

  

『これが―ザーッザザッ―との取引は失敗したのだろう。だが、保険は掛けておいた―ザザッ―を取引現場で鉢合わせにする。上手くいけば、生きて――プツッ』


 音声が途切れて再生が終わる。

 誰と取引したのか、どんな保険を掛けたのか、肝心なところにノイズが混ざっている。

 隊長が言っていたのが本当なら、テラフォーミング装置の情報を取引しようとしたのだろう。

 だったら取引相手は企業だ。それなら、あの私兵から情報が得られる。

 こっちで解析するべきは、取引現場に誘い出された保険の正体だ。


 他の企業を呼んだのか。

 いや、露天市場の感じだと一つの企業しか動いてない。

 であれば、ストリートチルドレンが伝手あるいは因縁のある相手だ。


「そういえば、ヒューゴの両親は彼を守るために亡くなったと、ヒルダが言ってたな…」


 そこら辺の事情とも、今回の一件と関係が有りそうだ。

ある程度の予測は付いた。

 後は、音声解析で可能な限りノイズを消すだけだ。

 

「ヨシッ!あと一息だ」


 ジンは自分の頬を叩き気合を入れると、再度パソコンに齧りついた。

 

――数時間後、深夜の事務所にて


「ただいま。まだ、作業続けてたのね」

「ん、お帰りなさい。隊長の方も割と時間かかりましたね」

「想像以上にタフな奴だったよ。でも、情報は得られた。企業名は『リンパール』で部隊長名は『ビル・ヤーコブ』だ」


 リンパール社は、確か空調関係の大手企業だ。

 旧坑道の空気が清浄されたから、取引相手にリンパールを選んだのだろうか。

 だとすれば、実に子供らしい発想だ。


「それで、そっちの成果はどうなの」

「データを復元したところ、取引現場に保険として何者かを誘い込んだ事が分かりました」

「なるほど、ただ罠に嵌りに行ったわけじゃ無かったのか。で、その正体は分かったのか」

「それは…今から分かるかもしれません」


 そう言ってジンは、音声ファイルをクリックした。


『だが、保険は掛けておいたハーメルンを取引現場で鉢合わせにする』


 ノイズが取り除かれた録音は、『ハーメルン』という単語を露わにした。


「聞いたことの無い名称だな。個人を指すのか、あるいは組織なのか」

「露天市場のストリートチルドレンに聞けば、何か分かるのでは」

「無理だな。あそこは既に、リンパール社にマークされてる」

「なら、これからどうします。隊長」


 ジンの問いには答えず、彼の座るソファのひじ掛けに身を寄せる。

 すると、そこからソファに仰向け滑り落ち、彼の膝に頭を乗せてきた。


「明日の事は、寝ながら考えておくわ」


 顔に掛かる吐息が、少し酒臭い。

 普段は一滴も呑まないのに、何かあったのだろうか。

 そう思案している内に、ザッカーマンは寝息を立て始めた。


 顔に残っている火傷の跡が痛々しい。

 それを見る度に、今でも胸が締め付けられる。


「皆…本当にすまない」


 ザッカーマンの首を痛めないように、クッションを枕替わりにする。

 慎重に立ち上がり、上着を脱いで彼女に掛けると、ジンは事務所を後にした。 


お読みいただきありがとうございます。

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