06.拷訊
「私はいつから拷問のプロになったネ。そんなの、言ったこと無いヨ」
「いいじゃない。報酬も払ってるんだから」
切れかけの電球がぶら下がる地下室に、ザッカーマンとシンユエは居た。
彼女たちの目の前には、手足を拘束されて、目隠しと猿轡をされた男が椅子に座らされている。
こういうのが苦手なジンは、事務所に置いてきた。
「それで、コイツから何聞き出すネ」
「所属する企業名と部隊長の本名。あとは、なんで露天市場に居たのか」
シンユエはその声を背で聞きながら、カツカツと足音を立て男に近づいていく。
「今から猿轡取るヨ。叫んでも無駄だから、余計な事はしないほうが身のためネ」
スルりと、男の猿轡を外す。
自分の置かれた状況を理解しているのか、男は一言も発さない。
「さっき、私達が何をアンタから知りたいか、聞いていたネ。だったら、素直に話したほうがいいヨ」
男は押し黙ったまま、口を開かない。
シンユエはため息をつき、様々な道具の乗せられたワゴンを手元に引き寄せる。
すると、それに載せられたハンマーを手に取り、無造作に振り下ろし男の指を砕いた。
「うぐっ!」
拷問に耐える訓練もしているのだろう、声も上げずに痛みに耐えている。
しかし、患部に当てられた冷たく尖った感触で、さすがに恐怖の色を隠せなくなった。
「ふふ、顔引きつってるヨ。私の手に何があって、次にどんな事が起こるのか想像したネ」
シンユエは、砕いた指に電動ドリルを押し付けながら、男の顔を愛おしそうにさする。
見ている方が気の毒になる。
男の無言の抵抗は、彼女の加虐心をくすぐってしまったのだ。
「今すぐに情報を喋ってくれるなら、やめてあげるヨ」
男は鼻息を荒くするが、決して口を開こうとしない。
「そうネ、そうネ。いい子だから、絶対喋らないと思ったヨ。フフッ、ハハハ!」
笑い声と共に、ドリルのスイッチが押された。
男の悲鳴とシンユエの嬌声を、聞き流しながらザッカーマンは銃の手入れを始めた。
拷問が始まってから三時間程経っただろうか、ついに男の心が折れた。
「ごめんなさい!話すから!どうか、許して…」
「うんうん、いい子ネ。さぁ、コレを取ってあげるヨ」
男の耳元で優しく囁くと、目隠しと手の拘束を解く。
すると目を開いた瞬間、男はシンユエに抱き着き、子供のように泣き始めてしまった。そんな風に泣きじゃくる男を、聖母のような慈愛に包まれた表情で、シンユエはあやし始める。
数回この光景を見たが、未だに慣れない。
それにしても、彼女の人心掌握術には舌を巻かされる。
これで、しっかりと精確な情報も引き出せるのだから大したものだ。
「それじゃ、私が聞きたいこと話してネ」
「うん、分かったよ…」
男の口調は幼子のようだったが、情報は得ることができた。
所属する企業名が『リンパーラ』、部隊長名が『ビル・ヤーコブ』。
露天市場では、取り逃がしたストリートチルドレンを追っていた。
彼は、ターゲットの名前までは、聞かされていなかったらしい。
知りたかったことは、全て聞いた。
ザッカーマンは、シンユエに目配せする。
「頑張ったご褒美ヨ。喉が渇いてるでしょ、これを飲むといいネ」
無色透明な液体が入った瓶を、シンユエが男に手渡す。
「あ、ありがとう」
彼女は、男の血まみれの手を一緒に握ってやり、瓶を口元まで運ぶ。
彼は乾いた喉を潤すように、ゴクゴクと液体を飲み干した。
――ゴトッ
男の手から瓶が滑り落ち、寝息を立て始める。
それを見届けていたザッカーマンは、回転式拳銃をホルスターから抜いた。
「せめてもの手向けだ。痛みも感じず、安らかに眠れ」
バズンッ!
脳天を金属弾が貫く。
男を抱いたままのシンユエは、返り血を全身に浴び、涙を流していた。
そんな彼女の姿は、どこか儚げで神秘的であった。
いつだったか、潜入や暗殺に必要なのは技術ではなく、相手の感情に深く潜り込み同調することだとシンユエから聞かされた。彼女は、本当に男を失った悲しみで、涙しているのだ。
数分程、そっとしておくと、彼女はようやく気持ちを落ち着けた。
涙の枯れた顔は、いつものシンユエに戻っていた。
「死体の後始末は、こっちがやっておくヨ」
「すまないな」
後片付けはシンユエに任せ、ザッカーマンは地下室を後にした。
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