05.変遷
旧坑道の奥底、その岩壁から顔を覗かせる、謎の金属製の部屋。
そこには、寄る辺の無い子供たちが、身を寄せ合って住み着いていた。
部屋の住民たちの質問攻めを耐え抜き、座って一息ついたザッカーマンは本題を口にした。
「それで、あなた達はヒューゴが何処にいるか知ってるのかしら」
また一斉に喋り出しそうな子供たちを制し、代表してコータに話をさせる。
「ヒューゴ兄ちゃんの居場所は知らない。でも、なんで居なくなったのかは分かるよ」
「なら、失踪した理由を教えて頂戴」
「アレだよ、僕たちは文字が読めないから分からないけど…お姉さんなら分かる?」
コータが壁際に設置された、操作パネルを指さす。
立ち上がって近づいてみると、それは自動で起動した。
表示されたステータスを確認する。
――テラフォーミング実行中――
・酸素濃度…活動可能レベル
・大気浄化…0.1%完了
・地層浄化…装置破損
・水質改善…装置破損
・外敵検出…機能不全
―――――――――――――――
余りの衝撃に、言葉が出ない。
灯台元暗しとはまさにこのことだ。
汚染地帯ではなく、まさかユニオンの直下に惑星再生の切り札が埋まっているとは、夢にも思わなかった。
「こ、これをどうやって動かしたんだ」
「知らない。ヒューゴ兄ちゃんは、元から動いてたって言ってたよ」
この装置が毒ガスを浄化し、旧坑道内を酸素で満たしているのだろう。
だからこそ、彼らはここで生活できている。これで実績も十分だ。
肝心の地層浄化と水質改善のシステムが、装置破損により起動していないが、これを掘り出せば汚染された大気はどうにかなる。
だとすると、企業の私兵がいた理由も推測できる。
恐らく、ヒューゴは金になると踏んで、危険を承知で企業と情報の取引をしたに違いない。いや、私兵が引き返したところを考慮すると、『取引しようとした』という表現が正しいだろう。
この装置のことは気になるが、今はヒルダの依頼完了が第一だ。
「ヒューゴは、いなくなる前に何か言ってなかったか」
「ちょっと、近くに来て」
コータの背丈に合わせるように、ザッカーマンは屈みこむ。
そうすると後ろの子供たち聞こえないように、コータが小さく耳打ちしてきた。
「実はいなくなる前に、コレを渡されたんだ」
そっと手を開き、メモリー端末を見せて来た。
「もし、帰ってこなかったら。信頼できる人に渡せって…だから、お姉さんにあげる」
コータはザッカーマンに、それを手渡した。
ヒューゴは死を覚悟していたのだろう。
私兵が捜索を継続しているということは、まだ一縷の望みはある。
彼女は端末を受け取り、コータの目を真っ直ぐ見つめて頷いた。
「ヒューゴのことは任せなさい。それじゃ、帰り道を教えて」
コータが部屋の端まで歩き、壁の一部に手を触れる。
すると、入って来た場所とは違う出口が開いた。
「真っすぐ行って坂道を上って。その後は、穴から落ちれば戻れるよ」
「ありがと。あなた達、なるべく外に出ないようにね」
別れを惜しむ子供の頭を撫で、部屋から出る。
コータから言われた通り坂道を上がってから、しばらく歩くとポッカリと穴が開いていた。
そこに向けてライトを照らすと、下に地面が見える。
今度は、背中を痛めないで済みそうね。
先に、ライトを放り投げ着地点を照らす。
地面に突起などの危険はなさそうだ。
それを確認し、飛び降りる。
前回りに受け身を取って、着地の衝撃を和らげた。
顔を上げると、前方から微かに光が差し込んでいる。
光に向かって歩みを進めると、旧坑道の入口に辿り着いた。
突如、無線が入ってきた。
「隊長。隊長、応答願います」
「どうした、ジン」
「隊長が入って行った入口に、企業の私兵が集結してます」
「別の場所から地上に戻ったんだ、今から合流する。私兵が突入するようなら、もう一度報告しろ」
「了解」
無線を切って、辺りを見渡し現在地を把握する。
どうやら、反対方向から出てきたようだ。
数分程疾駆して、どうにかジンと合流できた。
「奴ら、何かを話合ってます」
「突入か否か、はたまた増援要請だろうな」
「露天市場に企業が大々的に介入なんてしたら、ココは戦場になりますよ」
「そうだな。だが、今は動向を見守ることしかできん」
十数分経ったところで、別方向からやって来た一人が合流した。
その手には、ガスマスクが握られている。
「突入するみたいですね」
「露天市場のガスマスクを使うなんて、自殺行為ね。でも、こちらにとっては好都合だわ」
彼らは二人を見張りとして残し、旧坑道へ踏み込んでいった。
ザッカーマンはそれを見届けると、たむろする適当な破落戸に声を掛けた。
「あなた達、ちょっといいかしら」
「なんだい。娼婦なら間に合ってるよ」
「つまらない冗談はよして。ココに500クレジットがある。これで、あそこで喧嘩してくれないかしら」
そう言って、彼女は旧坑道の入口近くを指さす。
「本気で喧嘩してほしいなら、倍は出すんだな」
「700。じゃなきゃ、他を当たる」
「800にしろ」
「750が限界よ」
破落戸のリーダが、手のひらを差し出してくる。
その手に、財布から出した750クレジットをくれてやった。
彼らは気だるげに立ち上がり二組に分かれると、指示した場所へと近づいていく。
やり取りを見ていたジンと目配せをして、左右に展開した。
「なにガンくれてんだ?」
「んだとテメェ!」
指示通り、喧嘩が始まり野次馬が集まってくる。
見張りの一人が、持ち場を離れ、彼らの動向を監視し始めた。
すると、近づいてきた私兵を人垣から伸びた手が掴み、喧嘩する破落戸たちの元へ突き飛ばした。
彼らは絶好のカモが現れたとばかりに、私兵を袋叩きにする。
「おい!何してるんだ、直ぐにやめろ!」
暴行を止めようと、もう一人の見張りが制止の声をあげて、持ち場を離れようとする。
その背後からザッカーマンが近づき、足払いをした。
すっ転んだ見張りの頭を掴み、地面に強打する。
後頭部から血が流れ出し、ピクリとも動かなくなった。
ザッカーマンは立ち上がり、野次馬を掻き分けていく。
「おい、そこまでだ!」
案外素直に破落戸たちは暴行を止めて去っていく。
野次馬も興ざめしたのか、三々五々に散っていった。
そこには、身ぐるみを剥がれてボロ雑巾なった男だけが取り残される。
「まだ、息はありますね」
「そうでないと困る。ほら、荷運びはお前の仕事だぞ」
「分かってますよ」
ジンが男を担ぎ上げるのを見ながら、ヒルダに無線を入れる。
「ヒルダ。今日のところは、お帰り願いたいのですが」
「でも、その男はどうするんですか」
「ご令嬢には、申し上げにくいのですが…」
「いいえ、構いません。仰ってください」
「拷問のプロを手配して、情報を吐き出させます」
しばし静寂が続き再度、無線越しにヒルダの声が聞こえてくる。
「では、ヒューゴの行方の手掛かりを見つけたのですね」
「はい。ですが、確信とまではいかないので、彼から聞き出そうと思いまして」
「分かりました。何日程掛かりますか」
「明日には結果をお伝えしますよ」
「では、明朝にお会いしましょう」
無線が切られた。恐らく、イレネオと共に帰路に就いただろう。
ザッカーマンもジンに目配せして、長い坂を上り始めた。
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