03.踏査
下層街の南西の採掘跡地にある露天市場では、食料品や医薬品といった日用品から、護身用の武器まで様々なモノが売られている。下層街にも、それらを売る店舗は存在するが、傭兵や上層街で働く技術者が主な利用者である。それに対し、露天市場は破落戸や日雇い労働者でごった返していた。
ザッカーマン達は、そこに繋がる長い坂道を下っていた。
「さてと、まずはどこから当たりますか。隊長」
「ヒューゴがストリートチルドレンなら、一匹狼ってことは無いハズだ。散開して、市場にいる子供に聞き込みするのが一番手っ取り早い」
「あの、私はどうすればいいですか」
友達の捜索ための力になりたいのであろう。
ヒルダは、方針を決めたザッカーマンとジンの二人にそう問いかける。
「君はここで、市場全体を見張っていてほしい。何か見つけたら、無線を使って報告して」
そう言って、ジンはヒルダにフィールドスコープと無線を手渡す。
彼女を危険に晒さない、最善の手段だろう。
それに広大な市場で連携を取るなら、観測手がいたほうが好都合だった。
「分かりました。二人ともどうか、よろしくお願いします」
ヒルダは、自分が足手まといになることが分かっているのだろう。
露天市場に向かう二人に、丁寧にお辞儀する姿は、少し痛ましい。
だからと言って、無法者が跋扈する地に、ライフマターの令嬢を連れていくわけにはいかなかった。
二人は坂道を下り、市場の入口までたどり着く。
ジンは後ろを振り返り、無線でヒルダに方向指示の仕方をアドバイスしてる。
一方でザッカーマンは、露天市場の雰囲気に違和感を抱いていた。
所どころに、企業の私兵が散見される。
本人達は変装しているつもりだろうが、服装が小奇麗すぎる。
それに買い物客とは身振りが違う。
何かを探しているように、辺りを見渡していた。
「ヒルダ、私の立っている場所から、10時の方向。弾倉やアタッチメントを並べる露天の前に、青いシャツを着ている男がいるでしょう。確認できる?」
「10時の方向…はい。視認しました」
「アイツをずっとマークして貰えると助かるわ。誰かと合流したり通信していたり、したら無線で報告してほしい」
「了解です。何かあったら直ぐ報告します」
ザザッと無線が切れた。
これで奴のことはヒルダに任せて、ストリートチルドレンの捜索に集中できる。
ジンに5時方向から捜索を始めるように指示し、自身は9時方向へと進んでいった。
ストリートチルドレンぐらい、すぐに見つかるだろうとザッカーマンは踏んでいた。
だが、捜索からもう一時間は経っている。
ヒルダからの報告もなく、未だヒューゴ発見のための端緒さえ掴めていない。
そんな時、前方から怒号が聞こえてきた。
「あっ、待ちやがれ!クソガキ!」
人混みを掻き分ける男の先には、自動小銃を抱えて走る男の子がいる。
ザッカーマンも追いかけようとすると、ヒルダから通信が入る。
「ザッカーマンさん、男が誰かと無線で連絡を取っています!」
「了解、そのままマークを続けて」
報告を聞き、彼女は走り出すのを止め、見失わない程度の尾行を始める。
男の子は何とか店主らしき男を撒き、瓦礫の隙間に潜り込み旧坑道へと逃げ込んだ。
露天市場のある採掘跡地には、壁に無数の使われなくなった坑道が口を広げている。
ただし、そのどれもが崩落や陥没、はたまた有毒ガスの発生により進入禁止の表示が掲示してあった。
住む所が無かったとしても、ここに入るのは自殺行為だ。
男の子が逃げ込んでから少し経ったところで、店主とは違う男が旧坑道の入口にやってきた。
恐らくは、企業の私兵であろう。
観察を続けていると、誰かに無線で連絡を取り、そこから去っていった。
それを確認し、ヒルダに無線を繋ぐ。
「ヒルダ。マークしている男に動きはない?」
「ザッカーマンさん、丁度よかった。いま男が市場の出口に、向かっているところなんです」
「そうなのね。なら、監視は止めて11時方向の壁際。瓦礫の山がある旧坑道入口が見えるかしら」
「しばしお待ちください。あっ、見つけました」
「その周辺を見張っておいて。あと、ジンに連絡を入れて彼にを合流させて頂戴」
無線を切り、瓦礫の山に近づく。
それには、進入禁止の掲示板や木片が混ざっている。
崩落によって、入口が閉ざされてしまったのだろうか。
掲示板の一片を手に取って見る。
『――ス発――禁―』
掠れた文字の中で、その3文字だけ読み取れた。
「毒ガス発生進入禁止…なるほどな。これを見て撤収したのか」
掲示板を放り投げ、おもむろに瓦礫に手を掛ける。
すると、パラパラと小石が落ちてきた。
ザッカーマンは頷くと、一度、露天市場のほうへ戻っていった。
そして辺りを見渡し、武器を広げている露天商へと近づき店主に問う。
「手榴弾は売ってるか」
「そんな上等なモンはないよ」
「なら、固形燃料弾とそれを撃てる銃は」
店主は、弾の詰まった弾倉と拳銃を指さした。
「なら、弾倉全部と拳銃を買うわ。1000クレジットでいいかしら」
「太っ腹だね。900にまけるよ」
「あら、ありがとう」
「へへ。アンタ、火傷女だろう?恩を売るのも悪くない」
ザッカーマンは不敵にほほ笑むと、クレジットを店主に渡した。
商品を受け取ると、その足で旧坑道の入口まで戻る。
買った拳銃に弾倉を装填し、残りは瓦礫の山にバラまいた。
そして、十分距離を取り引き金を引いた。
パンッ――ドガンッ!
ばら撒いた弾倉が誘爆し、瓦礫は崩れ去り、旧坑道内への道が開かれた。
爆発音を聞きつけたのか、ジンが走ってやってきた。
「隊長、強引すぎますよ!」
「これは撒き餌なのよ、ジン。それよりも、シンユエから貰ったガスマスクまだ持ってるんでしょ」
「あ、ありますけど」
ジンがポーチの口を開き、携帯型のガスマスクを取り出した。
彼女はそれを受け取り装着すると、漏れが無いか確認する。
「少し大きいけど、問題ないわね。じゃあ、行ってくるわ」
そう言うと、ジンに入口を監視するように指示して、旧坑道の内部に踏み込んでいった。
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