02.庇護
「さてと、ここならあの事について話しても大丈夫かしら」
「問題ない。尾行も無いからな」
窓の外を警戒するイレネオは、例の話をすることを許可した。
ここまで用心するとは、一体レイゼン家とは何なのだ。
その謎に答えるようにザッカーマンの正面に座る、ヒルダ・ファン・レイゼンが口を開く。
「まず、報酬の話の続きをしましょう。私の友達『ヒューゴ・ギャレット』を見つけた暁には、レイゼン家の守護者の地位を差し上げます」
「ヒルダ様。その『守護者』になると、我々は一体どんな利益を得られるのでしょう」
「ヒルダで構いません、それに敬語でなくて結構です。そうですね…結論から申し上げますとプレベント内にあるわが家への出入りが自由になります」
「は?」
余りにも突飛な話に、隣に座っていたジンが素っ頓狂な声をあげる。
「ですから。守護者の肩書を得ると、あなた方はプレベントへの自由な出入りが可能となるのです」
「確認ですが…いや、確認だけど。君の言うプレベントとは、唯一の残存国家のこと?」
ジンの問いに、ヒルダは頷く。
『プレベント』、壁に囲われた唯一の残存国家であり、彼らのことは汚染地帯からの遺物回収でしか、見かけることはない。ユニオンやシンビオーシスに所属する者からすると、隊列を組み汚染地帯を闊歩する姿は、死を招く不吉の象徴でしかなかった。
目の前の少女は、異邦者には決して開くことはない壁を越えて、プレベントに入国することが可能となる肩書を与えようというのだ。
そんなモノを報酬として支払えるレイゼン家が、彼の国で重要な役割を果たしていることは想像に難くない。
しかし、こんな話を聞かされても、ザッカーマンはあくまで冷静だった。
「守護者の特典は分かった。しかし、そういったモノには対価が必要なのでは?」
「レイゼン家…細かく言うと、私。ヒルダ・ファン・レイゼンに危機が迫った際は、要請があれば、それを退ける義務があります」
「なるほど。因みに、守護者は無償で要請に応えなきゃいけないのかしら」
「それは庇護契約を結んだ者…つまり、守護者の地位を与えた者しだいです。私は、要請に応じて貰えれば対等の報酬を支払うことをお約束します」
応じて貰えれば、と言うことは要請を断ることもできるのだろう。
その結果、ヒルダの身に何か起こり、守護者の地位をはく奪されるかもしれないが。
「ヒルダ、君のお父様に相談せずに、勝手に庇護契約だったかな。ソレを結んでいいのかい」
「心配なく、ジンさん。プレベントでは、外の世界と関わりを持つことを役割とされた家系の各人が、自身の裁量で異邦人と庇護契約を結び、守護者の地位を与えることを許されていますから」
国を壁で囲んだプレベントが、何故に外界と関わりを持とうとするのだろうか。
話を聞いていたザッカーマンは、そこら辺が気になった。
「隊長。そういえば、世界の食料供給を一手に担う中立機関『ライフマター』は、プレベントが運営しているって噂ですよ」
「彼の言う通りです。そしてソレを管理運営することが、レイゼン家の役割なのです」
『ライフマター』、それはザッカーマンが自我を持ったときには、既に当たり前のように存在していた。彼らはクローン技術による、安定した食料生産を売りにして、ユニオンとシンビオーシスへ食品を供給している。ライフマターが存在しなければ、世界には恐らくプレベントしか残っていなかっただろう。
中立機関と言われているが、彼ら自身が宣言したのではなく。組織間で協定を結び、ライフマターに手を出さないことを決定した結果である。
そんなライフマターからユニオンの企業は、食料品を買い取って市場へ流通させていた。
ただヒルダは、金銭での取引は禁止されていると言っていたから、物々交換で取引を成立させているのだろう。
「だから、アナタには最高の護衛が付いているのね。納得だわ」
「お褒めの言葉をどうも」
窓際に立つイレネオが、ぶっきらぼうに返事をしてきた。
「色々と聞きたいことがあるけど、それは守護者になったときに取っておくわ。そろそろ、行方不明になった男の子について、教えて頂戴」
「分かりました。私の友達であるヒューゴとは、下層街の南西にある露天市場でいつも待ち合わせをしていたのです。前日には、秘密の場所に連れて行ってくれると約束していたのですが」
「待てど暮らせど、ついにヒューゴは現れなかったと」
ザッカーマンの言葉に、ヒルダが頷く。
下層街は決して治安がいいとは言えない。
恐らく、ヒルダの言う通り、何かしらの事件に巻き込まれたのだろう。
そう思案していると、ジンがヒルダに問いかける。
「ヒルダ、答えずらいかもしれないけど。ヒューゴは、ストリートチルドレンだったのかい」
「彼は…私に両親の話をしてくれたことがあります。彼を守るために、彼が小さい頃に亡くなってしまったと…。その話を聞いてからは彼の身の上について、色々と聞くことができませんでした」
「両親がいないか、だったら路上生活をしていた可能性が高いな」
ヒルダには言えないがザッカーマンとジンは、行方不明になった子供の末路をよく知っている。
プロテクト社の任務で何度も出くわした、人身売買や臓器密売。
これらは、企業の医薬品や娯楽品の販売と競合するため犯罪行為と指定されていた。
そして、その犯罪行為の犠牲者の殆どは、街から居なくなっても問題のないストリートチルドレンだった。
ヒューゴが一週間前から、行方不明になっているという点を考慮すると、かなり危うい状況にある。
ジンも、それが分かっているのだろう。こちらに目配せをしてきた。
「ヒルダ。あなたの予測が正しいなら、ヒューゴはかなり危うい状況に置かれています。今すぐに、現場に向かいましょう」
「分かりました。早速、露天市場まで行きましょう」
ヒルダから不安の色は消えないが、友達を救うため凛然とした顔で立ち上がったのだった。
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