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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case2.『ハーメルン』
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01.僥倖

 ジンは、イレネオとヒルダの二人を連れて下層街の路地裏を進んでいる。

 拳闘試合に入り浸るザッカーマンに、依頼を受けたことを報告するため、高架下の小さな広間を目指していた。

 すれ違う住民たちは、ヒルダを好奇の目で追うが、二人の屈強な男に守られた彼女に手を出す者は誰一人いなかった。

 

 ワアァー!

 

 歓声が遠くに聞こえ始める。

 それから数分もかからずに、フェンスに囲まれたリングが設置された広間に辿り着いた。

 群衆が取り囲む中央に、ザッカーマンはいた。

 これから試合が始まるのだろうか、背丈が倍もある大男と対峙している。


「アンタ、最近話題になってるみたいだが、ここのボスは俺だ。調子に乗ると、痛い目に合うことを教えてやるよ」


 男の挑発は無視して、構えを取る。

 それが気に食わないのか、男は耳まで紅潮させた。


「いい度胸だな!俺に挑んだことを後悔させてやる」


 言うや否や地面を蹴り、巨体に見合わず素早い動きで間を詰める。

 強烈な加速から、低い姿勢のタックルが繰り出された。

 体格差を生かせる組み技に持っていく算段だろう。


 ジンとの模擬試合で、その対策は既に出来上がっていた。 

 左足を引き、右手を下げダラリと脱力する。

 激突の瞬間、目にも止まらぬ速さでフックが放たれ、男の顎をとらえる。

 

 巨体がグラつき体勢が崩れた。

 進路のそれたタックルを、軽く躱し、すれ違う瞬間に足を掛ける。

 地面に倒れた男にとどめを刺すために、振り上げた拳を頭蓋に叩きつけた。


 ワアァァー!


 決着がつくと一段と大きな歓声があがった。

 

「スゴイ!彼女がザッカーマンさんなんですね!」


 会場の熱にあてられたのか、ヒルダはぴょんぴょん飛び跳ねながらジンに尋ねた。

 もしかすると、こちらが本来の彼女なのかもしれない。

 ジンが頷くと、尊敬と興奮の入り混じった眼差しで、リングの中央に立つザッカーマンを見つめる。

 

「なるほどな。彼女は、早撃ちが得意なのか」

「え、なんで分かったんですか」

「フックを放つ動きを見れば分かる。脱力から入り、即座に銃を抜き、急所目掛けて撃つ。その一連の動作が重なったからな」


 イレネオはリングでの戦いを一度見ただけで、彼女の得意技を見抜いたのだ。

 やはり、只者ではない。

 そうこうしていると、ファイトマネーを受け取ったザッカーマンが、こちらに気づき近づいてきた。


「ジン、彼らは依頼人か?」

「はい。30分程前に――」


 そう問われたジンは、彼女にヒルダの依頼をかいつまんで説明した。


「なるほどな、行方不明の男児を探してほしいわけか」

「そうです。ですから、隊長と合流して今から現地に行こうと――」

「待て。お前が現地調査に向かうのは構わないが、私に同行して欲しいなら、一つ質問に答えろ。報酬額は、いくらなんだ」


 言いにくそうにしているジンの代わりに、ヒルダが彼女の質問に答える。


「すみません。ザッカーマンさん、私の暮らす所ではお金による取引が禁じられてるのです」

「ほぉ。でしたら、友のために貴女は何を、対価に差し出せるのでしょうか」

「レイゼン家の守護者として――」

「おっと、そこまでだ。ヒルダ嬢、その話をするには、ここじゃ人が多すぎる」


 何かを言いかけたヒルダとの間に、イレネオが割って入ってきた。


「レイゼン家…?聞かない名前だな、一体どこの」

「それ以上、その名を口にするな。まぁ、要約するとだな報酬として、格別な名誉が与えられるってことだ」


 依頼人でもないイレネオが口を挟むのは気に食わないが、ブロウ社の師団長が言っているのだ。ここで「レイゼン家」という話題を出すのは、得策ではないのだろう。

 ザッカーマンは、しばし考えた後に、口を開いた。


「普段なら、どんな理由であれ。報酬金の無い依頼は受けないだが、今は懐が暖かいからな」


 不安そうだったヒルダの顔が、パッと明るくなる。 


「そ、それじゃあ!」

「はい。依頼をお受けしますよ、ヒルダ様。ただ、先に例の話が聞きたいのですが、構いませんか」

「勿論です。報酬を曖昧にしたままでは、あなた方に不平等ですから」


 少女を依頼人と見なしたのだろう。

 ザッカーマンの口調は、仕事のときのソレに変わっていた。


「では、二度手間になってしまいますが、事務所に戻りましょう」

「おい!ちょっと待て!」


 帰路へ就こうとした矢先、ザッカーマンの肩を誰かが鷲掴みにする。

 振り向いてみると、さっきまでリングで伸びていた巨体の男だった。


「イレネオさん。この男はヒルダ様にとっても、危険な存在だと思うのだけれど」

「はぁ!?ナニ言ってんだおま――」


 イレネオが軽く手を挙げると、男が突然、地面に崩れ落ちた。

 

「あの、彼は一体…」

「心配ありません。無理して動いてたようで、小突いただけで倒れこんでしまいました」


 ヒルダからは、ザッカーマンが壁になって見えていなかったが、頸椎の辺りから一筋の血が流れていた。

 倒れた男には意識があるようだが、目を見張るだけで体に動きはない。

 恐らく、神経を傷つけられたのだろう。もう起き上がることもできまい。

 それにしても、彼が片手一つ挙げるだけで、こうも簡単に敵が排除されるとは。

 イレネオは、思ったよりも厳重にこの子を護衛しているようだ。


「これで満足かな、ザッカーマン殿」

「ふふ、勿論。さぁ、今度こそ事務所へ戻りましょう」


 ザッカーマンを先頭にして、4人は路地裏へと消えていった。

お読みいただきありがとうございます。

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