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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case2.『ハーメルン』
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00.序章

 もう一時間程経ったのだろうか、卓上に置かれた拳銃をジンは睨み続けている。

 モノとしてなら、これを移動させたり掴んだりすることはできる。

 ただ、これを殺しの道具として、使おうとすると話が別だった。

 どうしても、手が震える。


――おい!ぼさっとしてないで、お前も救出作業を手伝え!


 あの光景が鮮明に蘇り、拳銃を取り落とす。

 ユーリ先生に、PTSDの治療を試して貰っていたが、未だ効果は現れていない。

 

――こういうのはな、切っ掛けが必要なんだ。


 ニューエイジ社で無理言ってでも、シンユエと共に時間稼ぎをするべきだった。

 そうすれば、彼女はあんな風にケガを負わなかった。


「いや、それは傲慢か」


 深いため息が漏れる。

 隊長やシンユエさんは、自分の技術を買ってくれている。

 そして、銃を使えないことも受け入れている。

 だとしても、いつまでも現状に甘えていては、いつか破滅するのは明白だ。

 それは、傷だらけでEZフロント社から戻ってきた隊長を、目の当たりしたときに肌で感じたことだった。


 大金を貰って嬉しくないはずがない。

 その言葉と裏腹に、傷の癒えた隊長は、自身を追い込むかの如く、連日のように拳闘試合に参加していた。ときには、自分にも模擬試合を挑んでくる。

 体を動かすためと言ってはいたが、そのとき感じた殺気は本物だった。

 体格差による有利で、模擬試合ではどうにか彼女に勝つことはできていた。

 ただ、日々技術が洗練されており、直ぐに勝つことは不可能になるだろう。


「EZフロント社で、何があったんですか。隊長」


 一度、気分を変えるために事務所の窓を開く。

 生暖かい風が頬を撫で、眼下には終焉に向かう世界が広がっている。

 ここで生き抜くためには、強くなるしかなかった。


 ブゥーン


 ホバークラフトの走行音に気付き下を見る。


「ん、傭兵と…子供?」


 その二人はホバークラフトを降りると、建物の中に消える。

 すると、カツカツと階段を上る音が聞こえ、事務所の前で止まった。


「依頼がある、誰かいないか」


 扉がノックされ、男の声が部屋の中に響く。

 ジンは鍵を開け、扉を開いた。


「依頼内容をお伺いします。どうぞ、中へ」


 子供を連れた傭兵を招きいれ、ソファに座ってもらう。

 男のほうの恰好には、どこか見覚えがあった。

 しかし、どの記憶がその感覚を引き起こしているのか、そこは分からなかった。

 子供のほうは、シャツにズボンといった軽装に身を包んでいる。

 しかし、下層街のストリートチルドレンとは違い、立ち振る舞いに気品を感じられた。

 最も特徴的なのは、まるで人形のように整った中性的な顔立ちであった。


「早速ですが、どのような依頼ですか」

「私の友達を助けてほしいのです」


 男に問いかけたのだが子供のほうが口を開いた。

 呆気に取られていると、男が場をとりなす。


「勘違いさせて悪いな。俺は、彼女の父親から護衛を依頼されたに過ぎないんだ」

「そうです。彼はお父様と交わした契約により、付き従うブロウ社の――」


 そうだ思い出した。

 左腕にナイフホルスターを装備したPMC、彼の装備はブロウ特有のモノだった。


「ちょ、ちょっと待ってください。ブロウ社とは、前の仕事で衝突がありまして」


 彼女…男がそう呼ぶなら恐らく、女の子なのだろう。

 ジンは、女の子の大人びた物言いについ畏まってしまった。


「存じております。彼から直接聞きましたから」


 なんだって…?

 訳が分からなくなってきた。

 大体PMCを雇っているなら、彼らに頼めばいいのではないか。


「生憎、俺の会社は企業からしか依頼を受けない。会社を作るときに、そうすることで面倒事を避けられると、法律家からアドバイスされたからな」

「そういう訳なのです。どうか、話だけでも聞いていただけませんか」


 なんで、男はブロウ社を自分の所有物であるかのように喋るんだ。

 何がそういう訳なんだ。

 ブロウ社は父親からの依頼は受けているのだろう。

 なぜ、彼女は父親を頼らないんだ。

 問い質したいことだけが募っていくのにも関わらず、目の前の可憐な少女は依頼内容について語り始める。


「私は数週間前に、出張するお父様に付いて来て、ユニオンへとやって来ました。異国の文化を肌で感じたかった私は、お父様に無理をいって外出を許可して頂きました。ブロウ社の社長である彼を、護衛に付ける条件付きですが」


 「ブロウ社の社長」

 その単語が理解できなかったジンは、チラリと男のほうを見る。

 そうすると、ご丁寧なことに名刺を差し出してきた。


 『イレネオ・バルツァー』

 名刺にはブロウ社のロゴと、彼の氏名が印刷されている。

 役職名には社長。そして、師団長とも書かれいた。


「そして、俺は直々に彼女の父親から依頼を受けて。ここ数週間、彼女に付き従ってるってわけだ。EZフロント社からも依頼を受けていたんだが、あっちのは俺が出向かなくても問題ない…ハズだったんだがな」


 彼の目から光が消えた。

 唇が渇き、背筋が凍る。

 百以上もの兵士を束ねる男の殺気が、ジンを金縛りにした。


「イレネオさん。話を続けたいのですが」


 少女の一言で殺気はスッと引きイレネオは、にこやかな笑みを浮かべる。


「えぇ、勿論」

「では、続けさせて頂きます。詳細は省きますが、ユニオンを散策する内に、ここで暮らす男の子と仲よくなったんです。連日のように、色々な場所に連れていってもらったのですが」


 大人びた彼女の顔が陰り、少しだけ幼さが戻る。

  

「一週間前から、彼は行方不明なんです。お父様は『彼は普段通りの生活に戻っただけだ』と言って、聞いてはくれませんでした。ですが、彼は絶対に約束を破るような事はしません。何か事件に巻き込まれたに違いありません」

「では、依頼内容はその友達を探すということですね?」


 ジンの言葉に、コクリと少女は頷く。

 友達のために必死になっているんだろう。

 目には薄っすらと涙さえ浮かべている。


 そんな彼女を放っておける程、彼は残酷な世界に染まってはいなかった。


「分かりました。これにサインをして下されば、ザッカーマン傭兵事務所を挙げて、あなたの友達は絶対見つけますよ」


 そう言って、契約書を少女に差し出す。

 瞳に溜めた涙を拭い、彼女は自身の名前を書き記した。


『ヒルダ・ファン・レイゼン』


 この名前が何を意味するかを、ジンはまだ知る由も無かった。


お読みいただきありがとうございます。

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