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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case1.『マンティコア』
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12.奔流

 日が昇り切り、競り市場に面するセーフハウスの外が徐々に騒がしくなる。

 ザッカーマンは競りの喧騒を聞きながら、普段は使いもしない自動小銃まで引っ張り出し、万全の体勢を整えていた。

 

「それじゃ、セーフハウスの警備は任せたぞ」

「隊長、本当に一人で行くんですか」

「お前までここから居なくなったら、誰がシンユエを守るんだ」


 ユーリの施した手術の結果、シンユエの容態が安定したが、未だ目を覚ましてはいなかった。

 彼女と交わした契約書に、『契約違反をしない限りは、最大限の努力を払い契約者の安全を保証する』と書かれている以上、絶対にシンユエを見捨てるわけにはいかない。それが無かったとしても、ザッカーマンは数少ない戦友の一人を見殺しにするつもりは無かった。


「しかし、敵は昨日とは比べ物にならない程――」

「ジン、隊長命令だ。ここを死守しろ」

「…了解です。隊長」


 ドンッとジンの胸を叩き、自動小銃を肩に担いだザッカーマンは階段を下っていく。

 赤錆びた鉄格子を開け、市場に乗り出す。

 途中で何人かの顔見知りとすれ違ったが、彼女の表情が消えた顔を見た彼らは、火傷女(スカルド)に声を掛けることは無かった。ただ一人、ユーリを除いて。


「死地に臨む、殺戮機械って感じだな」

「ユーリ、今日はセーフハウスに来なくていい。襲撃されるかもしれん」

「医者は患者の命を守るのが仕事だ。だから、行かせてくれ。アリシア」

「お人好しの馬鹿真面目が。勝手にしろ」


 そう言うと、セーフハウスの鍵を手渡す。

 代わりに、ユーリが注射器を差し出す。


「持ってきな、鎮痛薬だ」

「すまない、ユーリ」


 鎮痛薬の詰まった注射器を受け取り、再度ザッカーマンは市場の入口を目指す。

 人混みを掻き分け入口までたどり着くと、既にEZフロント社の迎えが到着してた。


「少ないな」


 彼女は思ったことを、そのまま述べる。

 ザッカーマンの目前には、装甲化された大型ホバークラフト一台に、護衛用の二人乗りホバークラフトが4台あった。


「仕方がないだろう、身内を敵に回したい奴なんて少ないんだ」


 隊長らしき男が、ザッカーマンに近づいてくる。


「あんたが、ザッカーマンで間違いないな?」

「ふっ。ここに火傷を負った女傭兵なんて、そうはいないだろう」


 そう言って、彼女は指で左頬をなぞる。

 男は軽く頷くと、大型のホバークラフトを後ろ手に指さす。

 ザッカーマンは男の指示に従い、それに乗り込んだ。

 中には彼女の他に、ドライバーを除く2人の兵士が自動小銃を抱えて乗っている。


――フォックストロット、ハウンドを回収した。そちらへ向かう。


 兵士の無線から、先ほどの男の声が聞こえてくる。

 無線の相手はタイラーなのだろうか。


――それじゃ、出発するぞ。各員、警戒を怠るなよ。


 ザザッと無線が切れると、ホバークラフトが浮遊し走行を始める。

 これで競り市場からEZフロント社を目指すなら、下層街と上層街を繋ぐただ一つのハイウェイを通るしかない。

 そこが踏ん張りどころになるだろう。

 

 しばし、ホバークラフトの駆動音だけが機内に響く。

 数十分後、防爆窓の外にハイウェイが映る。

 貯水基地の上に立つビル群へと続く唯一の道。

 依頼のために何度となく通ったその道が、まるで天へと続く階段のように見える。


 実際のところは、地獄への急坂だけど。


 ザッカーマンは一人でそんなことを思いつつ、コッキングを軽く引き、弾が込められていることを確認する。

 隊列は、その間も進みハイウェイの入口が近づいてくる。


 ダダダッ!ドカンッ!

 

 銃声が鳴り響き、後方から爆炎が上がる。


「来たな」


 ザッカーマンはそう呟くと、天蓋を跳ね上げ身を乗り出す。

 右後方の護衛機の一つが、業火に包まれている。

 建物の影から続々と小型のホバークラフトが現れ、その数は10台まで増えた。

 その一つに狙いを付け、引き金を引く。


 ズガガッ!


 ザッカーマンの自動小銃は的確に、敵兵の頭を撃ち抜き頭蓋が粉々に吹き飛ぶ。

 機体は入り乱れ、銃撃戦が始まる。

 

「掴まれ!」

 

 機内から声が聞こえたかと思うと、機体が激しく揺れる。

 衝撃に耐え身を起こすと、機関銃を搭載した大型のホバークラフトが目に映る。


「おいおい、ここは市街地だぞ」


 そう言うや否や、機関銃が火を噴く。

 たまらず、ザッカーマンは機内に身を引っ込めた。

 数多の着弾音が聞こえるが、耐爆装甲はどうにか銃撃に耐えている。


「ハイウェイに入るぞ!」


 ドライバーの声が機内に響き、ハイウェイ入口のゲートバーを吹き飛ばす。

 偶然にも吹き飛んだゲートバーが、敵の大型機にぶつかり銃撃が途絶えた。

 ザッカーマンはその隙を逃さず、回転式拳銃を取り出すと再び身を乗り出し、機関銃目掛けて射撃する。


 バズンッ!


 放たれた金属弾が装填機構に命中し、機関銃の弾詰まりを引き起こす。

 機関銃が止まったことを確認すると、一気加勢に機内の兵士達が追撃を開始した。

 爆炎が敵機を包み体勢を崩したホバークラフトは、ガードレールを乗り越え高架下へと落下していった。

 なんとか大物を撃破したものの、形勢が不利なことには変わらない。

 今や味方の機体は、ザッカーマンの乗る大型機と、部隊長の乗る護衛機しか残っていない。

 それに比べ、敵機はこちらの4倍の8機残っている。

 

「もう少しで、上層街のエリアに入る。そこまで持ちこたえろ!」


 大型機の隣につけた部隊長が叫ぶ。

 ハイウェイは上層街の頭上にいくらか伸びた後、市街へ繋がっている。

 つま先でも上層街に入れば、正式な届け出の無い銃撃戦は違法行為となり、ユニオン本部の警備隊がすっ飛んでくる。

 昨日とは異なり、今は真昼間。

 いくら何でも、上層街に入れば銃撃をやめるに違いない。


 敵はそうはさせじと、速度を上げてこちらを取り囲もうとする。

 ザッカーマン達の応戦虚しく、3台ほど撃破したところで、数で押され包囲は完成してしまった。


 ドガンッ!バコッ!


 まず、部隊長の乗る護衛機が餌食となり爆発した機体が、彼女の乗る大型機に激突する。

 機体が大きく揺れたかと思うと、突如、浮遊感がザッカーマンを襲い、天井に叩きつけられた。

 

「うがっ!」


 痛みに耐え、何とか窓の外を見ると頭上にハイウェイが見えた。

 かと思うと、座席に激しく叩きつけられ、彼女の意識は遠のいていった。


――熱い


 どのくらい経ったのだろうか、耳鳴りがしてうまく音が聞こえず、頭にはモヤが掛ったようだった。

 ザッカーマンがどうにか目を開くと、彼女の上に何かがのしかかっている。

 数度頭を振り、霞む視界でよくよく見ると、隣に座っていた兵士の死体だった。

 

「ぐぐ…」


 動かすたびに痛む腕で、死体を退けた。

 機体の天地が逆転しているようで、座席が彼女の頭上にある。

 扉の近くに這いずり開けようと試みるが、フレームが歪んでいてビクともしない。

 そうこうしている間に、周囲にポリマーの燃える嫌な臭いが充満してくる。


「クソッ!こうなったら賭けだ!」


 死体から自動小銃を引きはがし、扉に向かって発砲する。

 固形燃料弾が着弾し、破片が飛び散り扉が吹っ飛んだ。

 懸命に手足を動かし機内から這いずり出すと、何とか立ち上がりフラフラと駆けだした。

 その瞬間、爆音が鳴り響き、熱風が彼女を襲う。


「ぐあっ!」


 不意に、ザッカーマンの足に鋭い痛みが走る。

 足を抑えてうずくまると、骨片が太腿に突き刺さっていた。


「死んでんだから、こっちの足を引っ張るんじゃねぇ!」


 怒鳴り声をあげて、乱暴にそれを引き抜く。

 着ているシャツを肩口から引き裂き、止血のためにそれで太腿をきつく縛り付けた。そして、ユーリから貰った鎮痛薬を打ち込む。

  

 一呼吸置き、周囲を確認する。すぐ後ろには、眼下に下層街が広がっている。

 どうやら、上層街の端に落下したらしい。

 ここからなら、一時間も歩けばEZフロント社に辿りつくだろう。

 痛みの引いた足が動く事を確認し、もう一度立ち上がる。


「クソッ、絶対に報酬は倍以上貰う、じゃなきゃ割に合わん」


 そんな悪態をつきつつ、鉛のように重い足を引きずりながらザッカーマンはEZフロント社を目指す。

 

お読みいただきありがとうございます。

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