11.決断
『マンティコア』回収作戦ファイルには、購入者がEZフロント社と記されていた。
何度見直したところで、その事実は変わらなかった。
「これは一体、どういうことだ」
ザッカーマンの声は怒りに震えている。
依頼者であるタイラーはEZフロント社の人間だった、それは間違いない。
何故だ。何故、依頼した。
他の企業に情報を奪われないためか…?
違う。だとすれば、依頼内容はデータ抹消だったろう。
わざわざ、競りに介入する企業の正体を暴かせるように、差し向けた意味があるはずだ。
「クソッ!」
悪態をつき、ローテーブルを蹴り上げる。
バキッ!パラパラ…
それは真っ二つに折れて壁に打ち付けられ、テーブルの上に載っていた書類が宙を舞った。
その中の一枚が、ハラリとザッカーマンの足元に落ちる。
「ん?」
手に取ってみると、それはタイラーと交わした契約書であった。
依頼者名には、EZフロント社経営部門長タイラー・ハリソンと記されている。
たしか、遺物の購入者は開発部門長マルク・ハーゲンベックだったはずだ。
二人の所属する部門は異なり、それぞれが部門長の地位にいる。
ここに何か答えがあるハズだ。
「隊長。ユーリ先生が寝てるんだから、落ち着いてください」
「もう大丈夫だ。それよりも、遺物の購入者名を見てみろ」
「え…、EZフロント社!?」
「そうだ。ただ、依頼者のタイラーと購入者のマルクは属する部門が異なる。私達がナニに巻き込まれたか、見極める必要がある。お前は、EZフロント社の経営状況を調査しろ。私は、開発部門長を調べてみる」
デスクに腰を下ろし、ノートパソコンを開く。
検索エンジンにマルク・ハーゲンベックと打ち込むと、あるネットニュースの記事が検索トップに現れた。
『兵器開発の鬼才、EZフロント社が引き抜く』と銘打たれた記事には、マルクの略歴が載っていた。彼は、元は大型兵器を開発するゼロベース社に勤め、シンビオーシスとも対抗できる高機動のホバークラフトを開発していた。彼の開発した機体は、他企業の機体を市場から追い出し、ゼロベース社は市場の独占に成功した。
そこで事件は起きる。成果に対し給料が見合わないと主張し、マルクは開発部門を挙げてボイコットを始めたのだ。ゼロベース社の経営陣は、それを諾とせず、徹底抗戦の構えを見せていた。そこにEZフロント社が割り込んで、ゼロベース社の開発部門を丸ごと引き抜いたらしい。
「隊長、調査終わりましたよ」
「そうか、報告を頼む」
「EZフロント社は、元は小銃の販売を主力とした中堅企業でした。ただ、あるときから兵器開発にも乗り出し、一気に売り上げが増大します。小銃と兵器販売の二足の草鞋で、大企業といっても過言ではないほどの資産を築きました」
兵器開発に乗り出した時期は、恐らくマルクを引き抜いた時期と一致するだろう。
「ですが、ここ最近の売り上げを調査したところ。面白いことが分かりました」
彼は、3本の折れ線が上下するグラフを画面に表示する。
「EZフロント社の、生産品ごとの利益率を大雑把にまとめたグラフです。赤が小銃、青が兵器、緑が装備品や民需品等、その他の生産品です」
ジンの説明を聞き、ザッカーマンはもう一度グラフを見直す。
始めの内は右肩あがりの赤と青の線が、一年半程前から赤の線が徐々に下がり、ある地点で二色の線は交差した。そして、最近では赤の線は水平を辿るのに対し、青の線は上昇の一途を辿っていた。
「我々傭兵からすると、EZフロント社は大手小銃販売店の印象が強いのですが。最近では、その事業は下火になっていて、他企業への兵器販売が主力となっているようです」
「極めつけは、PMCの介入で競りの報酬額が低下したことによる客離れか」
「えぇ、ここ数か月で小銃の販売数はガクッと落ちています」
なんとなくだが、全貌が見えてきた。
タイラーが、私達を体のいい捨て駒にして、データを消去しようしたわけではないだろう。
そうであれば、彼に通信を掛け、居場所が逆探知されるなんてことも無いハズだ。
あとは、本人に直接答えを聞くしかない。
ザッカーマンは、ポケットから通信デバイスを取り出した。
「タイラーに結果報告を?」
「あぁ、コレが最善だろう。身を守るためにもな」
そして、タイラーに教えられた通信チャンネルを開く。
ツーツー、ガチャ
「ザッカーマンさんですか!?良かった、ご無事だったんですね」
タイラーは、開口一番にそう告げる。どうやら、予想は当たったようだ。
「タイラーさん、一つ確認したいのですが。ニューエイジ社を倒壊させたのは、貴社の私兵ですか」
「はい。部分的には合っています」
「では、言い方を変えます。開発部門長、マルク・ハーゲンベックの手先ですか」
「そうです。まさか、そこまで調べ上げているとは恐れ入ります」
「はい、貴社について色々と調べさせて頂きました。あなたは、マルクの違法行為を止めるために、我々に依頼をした。間違いありませんね」
「えぇ、マルクは小銃の販売から我が社を撤退させ、兵器開発に予算を全て回させるつもりなのです。ですが、経営部門としては事業の多角化で、リスクを分散させたいのが本音でして」
彼女の中で絡みついた紐が解けていく。
全貌が明らかになると、実にユニオンの大企業らしい依頼であった事が分かった。
「それでは、調査内容をまとめたデータを送信し、依頼完了でよろしいですね?」
「いえ、大変申し上げにくいのですが…」
「まだ、証拠が足りませんか」
「証拠は十分です。そうではなく、調査結果を我が社の重役会議で報告してほしいのです。勿論、こちらから信用できる部隊を送り、お迎えにあがりますよ」
タイラー、侮れない男だ。
道中での襲撃を予測して、迎えを手配しているのだろう。
彼は会議でのザッカーマンによる発言が、マルクへの致命的な一撃になると確信している。だからこそ、出迎えまでして確実に、EZフロント社まで来させようとしているのだ。
これを断れば、いずれマルクの送り込む襲撃部隊により抹殺される。
だからこそ、こちらはタイラーの提案を受けざるを得ない。
「分かりました、迎えの場所はコチラで指定しても?」
「勿論です」
「では、競り市場の入口までお願いします。あそこなら、すぐに銃撃戦になることは無いでしょうから」
「なるほど、確かにそうですね。では、明日の12時丁度にお迎えに上がります。健闘をお祈りしていますよ」
そう言うと、タイラーの通信は切れた。
「健闘ね。ふっ、望むところよ」
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