10.露見
「アリシア。ニュースになってるソレ、お前らがやったんだろ?」
親しげにザッカーマンの下の名を呼ぶ白衣を着た男は、血の付いたゴム手袋を捨て、彼女の隣に腰を下ろす。
古い型のテレビには、『ニューエイジ社、地盤沈下により倒壊か?』と銘打たれたニュースが映っている。
「だったら何よ。それより、シンユエの容態はどうなったの、ユーリ」
「腹に開いてた穴は塞いだよ。目は覚ましてないが、容態は安定してる。ジン・ユーベルト殿の的確な応急処置のおかげでな」
ユーリと呼ばれた男は、後ろのデスクに座るジンの肩をトントンと叩く。
「あまり気落ちするなジン。君のおかげで、彼女は今も生きている」
「ありがとうございます、先生…」
ジンは振り向いてユーリに礼をすると、データの解析作業に戻る。
「しかし、久々にここに呼び出されたな」
「そうね。前は――」
そう言いかけて、ザッカーマンは話題を戻す。
「ユーリ、悪いけど今は旧交を温めてる場合じゃないの。疲れがとれたら、シンユエの事を見守ってあげて」
「はいはい、分かってますよ。お前も、あんまり気張るなよ」
ユーリは立ち上がり、隣の部屋で仮眠を取り始めた。
『ユーリ・ヴァシレフスキー』、彼は下層街で医者をやっている。本人曰く、元々はシンビオーシス。つまり、大戦で生き残った軍隊が作った街、そこの衛生兵だったらしい。ユニオンと敵対するシンビオーシスから、どうやって流れ付いたのかを、彼は語りたがらない。腕は確かで、彼を頼る傭兵は多く。あえて、ユーリの過去を探ろうとする者はいなかった。
「未だ、下水道の瓦礫の撤去は終わらず――」
元々、ニューエイジ社のあった場所は瓦礫の山と化していた。
兵士の死体が見つかったという、報道はされていない。
証拠隠蔽のために、建物を倒壊させたのだろうか。
「尋常じゃない。一体、何に首を突っ込んだんだ」
統一された装備と大量の銃火器、そして大部隊を送り込むことができる勢力。
始めはPMCの関与も疑った。ただし、ユニオン内部であれほどの銃撃戦を、迷いなく行えるのは大企業の私兵部隊しかいない。
彼らは、利益のためだったらなんだってやる。例え、相手が企業合同体に属する者であったとしても。
イカれてる。この世界も、それを享受する私達も。
時々、全てが嫌になり、自己嫌悪の螺旋に堕ちる。
だが、今はそんな事をしている場合ではない。
敵はデータの奪取のために、こちらを探しているに違いない。
迅速に動かねば、死ぬだけだ。
「ジン、まだ見つからないの」
「隊長。丁度、隠しファイルを見つけました」
ジンは立ち上がり、ノートパソコンをザッカーマンに手渡す。
その画面には『一般職員閲覧禁止』と銘打たれたファイルが映し出されていた。
それをクリックして開くと、中には遺物の回収作戦のファイルが入っていた。
遺物回収作戦のファイルを作成時期でソートし、ブロウに高額報酬が支払われた3年前と、それが一致するものを探す。
『マンティコア』
3年前に唯一、作成されていたファイルには、その名前が付けられていた。
――マンティコア回収作戦、結果報告書
緯度30.257 経度-160.603に位置する汚染地帯での作戦行動。
部隊人数、ニューエイジ社の歩兵15名、PMCブロウ社の歩兵20名。
使用車両数、牽引用大型ホバークラフト3台、護衛用ホバークラフト10台。
生還人数及び車両数、ニューエイジ社歩兵全滅、PMCブロウ社歩兵4名生還、車両全滅。
作戦結果、マンティコアの回収に成功。
生還者の部隊長に聴取を行ったところ、やむを得ず遺物を起動したとのこと。
以下、聴取内容を記述する。
「では、聴取を始めます。■■■(PMC隊長の名前)さん、これは取引先に提出する重要な情報となります。なるべく詳細をお話ください」
「あぁ、分かった。どこから話せばいいんだ」
「プレベントとの交戦開始時からお願いします」
「そこからか…あれは、遺物を引き上げて牽引の準備をしていた時だった」
――3年前、緯度30.257 経度-160.603にて
「ニューエイジ社の部隊員は、牽引機体に搭乗してくれ!」
号令に合わせて、各員がホバークラフトに乗り込む。
ニューエイジ社がすんなり、命令指揮権を渡してくれて助かった。
これで牽引は任せて、こちらは護衛に専念できる。
「しっかし隊長、スゴイもん掘り出しましたね!」
「無駄口を叩くな、■■■(部下Aの名前)。早く護衛機に乗り込め」
部下Aの尻を叩き、自分も同じ護衛機に乗り込む。
しかし、彼が興奮するのも分からないわけでもない。
遺物回収依頼は何度も受けているが、ここまでの大物はお目にかかった事が無かった。
超高密度のポリマー素材を使った装甲。シンビオーシスの戦車に積まれたレールガンとは、比べ物にならない程、大口径の電磁砲。そして、遠隔操作の可能な小銃が、前方に2門、後方にも2門。さらに、ニューエイジ社の技術兵が言うには、発電システムが搭載されており我々の使用する燃料を供給すれば、すぐにでも起動して一か月は補給を必要としないらしい。
「確かにバケモンだな」
「どうやら、マンティコアって言うらしいですよ」
「ふん、人喰いの怪物ってわけか」
マンティコアには牽引用のロープが装着され、まるで鎖に繋がれた怪物のようだった。
「それじゃ、牽引を開始し――」
――キュラキュラキュラ、ドゴンッ!
号令は、突如、瓦礫の影から現れた戦車の砲撃によって遮られる。
牽引用のホバークラフトが被弾し大爆発する。
「マズイ、プレベントに嗅ぎつけられたか」
「どうします隊長!」
既に敵の装甲車が、後方から退路を塞ぎに掛かっている。
瓦礫の影からは、砲撃した一台に加えて戦車がもう二台現れていた。
「全部隊、前方の廃ビルに向けて集中砲火を開始しろ!」
牽引機と護衛機に搭載された砲台が一斉に火を噴く。
その間にも、戦車の砲撃は続き、3台の護衛機が犠牲になる。
ガラガラガラ!
砲撃によって廃ビルは倒壊し、突出していた戦車を一台巻き込む。
後方では、パワードスーツに身を包んだ敵兵が展開し、銃撃戦が始まっていた。
敵兵のガトリングが一薙ぎするごとに、そこかしこで爆発が起きている。
味方の数はどんどん減り、もう半分しか残っていない。
無線を開き、副隊長に連絡を試みる。
「おい!■■■(副隊長の名前)、生きてるか!」
「どうにかな!ただ、このままじゃ全滅だぞ」
「一か八かだ、マンティコアに乗り込め!」
二台の護衛機が前線から離れ、マンティコアへと近づく。
「隊長、コレ動かせるの」
「操作方法が戦車と同じ事を祈るんだな、■■■(部下Bの名前)」
護衛機の燃料を移し終えたマンティコアへと乗り込む。
幸運にも、操作盤は戦車のそれと同じようだ。
システムを起動すると、操縦室の全面に外の光景が映し出された。
――キュラキュラキュラ
履帯の音が聞こえたかと思うと、部下Aが叫ぶ。
「5時の方向、敵戦車二台が瓦礫を越えてきます!」
超信地旋回によって牽引ロープは引き千切りられた。
敵に狙いを付け、トリガーを引く。
ズンッ!
鎖から解き放たれた怪物の一撃が、敵戦車を貫いた。
次弾装填が、自動的に速やかに行われる。
ギュイーンッ!ズンッ!
敵戦車の砲撃は装甲に弾かれ、こちらの砲撃が敵戦車を串刺しにする。
後方を確認すると、すでに味方は全滅し、敵歩兵がこちらを包囲し始めていた。
「小銃で薙ぎ払ってやれ!」
号令と共に小銃が火を噴き、熱したナイフでバターを切るように、パワードスーツが裂け、死体の山が出来上がる。
不利と判断した敵兵は、撤退を始めたのだった。
「――と、こんな感じだな。」
「そうですか。ご協力ありがとうございました、■■■(PMC隊長の名前)さん」
以上、聴取内容を記す。
我々の回収した『マンティコア』は、貴社の求めるスペック以上の代物です。
是非とも、購入をご検討ください。
EZフロント社開発部門長、マルク・ハーゲンベック殿
お読みいただきありがとうございます。
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