09.破砕
ジンがナノマシンの制御盤と格闘し始めてから数分後。それを使ってサーバーにアクセスし、内部の情報を彼のデバイスに送信する手段を、見つけることが出来た。
本来ならば、ナノマシンはグループごとに命令を受け取り行動を実行する。
ただ、それでは保有することのできる情報量が、サーバーに収められているソレに対し圧倒的に足らなかった。数グループに、指定したフォルダのデータの送信を命令することもできたが、目的のデータが何処にあるか分からない以上、根こそぎ情報を奪う必要があった。
そこでジンはまず、グループ分けのコードを書き換え、全てのナノマシンを一つに集約した。そして、彼の利用するオンラインストレージに、暗号化したデータを送信させた。しかるのち、手元のデバイスで暗号化キーを使えば、データの閲覧が可能となる算段だ。
わざわざコードを書き換えて、ナノマシンのグループを一つに集約することでデータ送信量が増大し、ものの数分で作業は完了した。
「ここにもう用はありません、撤収しましょう」
「チョット待つネ」
シンユエはジンを脇に避け、サッと何かの液体を操作盤にかける。
それは白煙を上げながら、操作盤を溶かしていった。
「これで、コイツらの別働隊も、手出しできないネ」
床に横たわる死体から、武器と弾薬をはぎ取りながら彼女は言う。
「どうするんですか、ソレ」
「小遣い稼ぎネ、後で適当に捌くヨ」
そんな彼女は放っておき、索敵のために小型ドローンを取り出す。
階段の前まで行き保全室まで戻ってくるが、敵影は一つも無かった。
「うんうん、満足ネ。さぁ、エレベーターで手っ取り早くフロントまで戻るヨ」
シンユエは両手に銃を持ち、ベルトポーチがパンパンになるまで弾倉を詰め込んでいた。
そんな彼女に苦笑いしながら、ジンは搭乗口まで歩みを進める。
忘れずにジャマー起動し、エレベーターに乗り込み、無事に一階までたどり着いた。
異変が起きたのは、その時だった。
――ブゥーン
多数のホバークラフトの駆動音が聞こえてくる。
異常を察知した二人は、フロントまで駆け、受付に身を隠す。
数秒の後に、ホバークラフトのフロントライトによって、受付は照らされた。
「会社の警報は鳴ってない、だとすると…」
「クソッ、アイツら増援呼んでたネ」
「マズイ、警備室は敵が占領してます。いくら銃音がなったところで、警備会社が飛んでくることもありません」
二人が相談する間にも、兵士がホバークラフトから降りてくる音が聞こえる。
足音の感じからすると、かなりの数が集結している。
「ここは、ワタシが何とかするヨ。ジン君は、スカルドに連絡してプランBを発動させるネ」
「私もここで、一緒に時間を稼ぎます」
「なに言うネ。銃使えないなら、逆に足手まといヨ。これで、サーバー室の扉を開錠しておくネ」
シンユエは、液体の入った小瓶とスポイトを押し付けて、ジンを地下に続く階段へと押しやる。
それと同時に受付から半身だけ身を晒し、奪った銃で固形燃料弾を撃ち放つ。
ガラス張りの窓は砕け散り、数人の体が吹き飛び、一台のホバークラフトの燃料タンクが誘爆する。
夜の静寂は打ち破られ、ニューエイジ社は燃え上がる炎に染め上げられる。
そこは瞬時に戦場と化した。
ダダダッ――
戦闘が始まったのだろう。
無数の発砲音を頭上に聞きながら、ジンはザッカーマンに通信を入れる。
「隊長!今すぐプランBを実行してください!」
「了解だ。こちらまで戦闘音が聞こえているぞ。シンユエはどうした」
「シンユエさんは、一人で敵の足止めを――」
そうジンが言い切る前に、建物が大きく揺れる。
目の前にある扉の覗き窓から、サーバー室の冷却水が凄まじい勢いで減っていくのが確認できた。
扉の下まで冷却水の水位が減った事を確認し、施錠部にシンユエから渡された液体をかける。
――ギギッ
施錠部が溶解し、自然と扉が開いていく。
「隊長、扉は開きました。今から、シンユエさんを呼んできます」
「分かった、気を付けろよ」
通信を切りながら階段を駆け上がる。
銃撃は続いており、受付は穴だらけになっていたが、なんとかシンユエは持ちこたえていた。
「シンユエさん!こっちに!」
ジンは爆音にかき消されないように声を張り上げる。
それに気づいたシンユエは、弾倉の詰まったベルトポーチを外に向かって放り投げる。
ドカンッ!
流れ弾が当たり、固形燃料弾が装填された弾倉は誘爆を繰り返し、爆炎を上げて敵の視界を遮った。
その隙を見逃さず、シンユエは駆けだすが一瞬顔を歪め、瓦礫に足を引っ掛けて転んでしまう。
すかさずジンが近づき、彼女を抱えて、なんとか階段へと逃れた。
「うぅ、手間かけるヨ。ゴメンネ」
力なく呟く彼女をよく見ると、腹部が赤く染まっていた。
「シンユエさん、しっかり!」
その声に呼応するかの如く、もう一度建物が大きく揺れる。
サーバー室の入口までたどり着くと、その理由が分かった。
サーバー室があった場所には、大きな穴が開いており、それは下水道まで貫通していた。
「ジン、これを使え!」
その声が聞こえたかと思うと、下からロープが投げ込まれた。
下水道には、冷却水から身を守るための防護スーツを着たザッカーマンが立っている。
ジンは崩落せずに残っていた扉の手すりにロープを結び、強度を確認すると、シンユエを抱えながら降下を始める。
――ダダダッ
残り三分の一といったところで銃声が鳴り響き、握っていたロープが切れてしまう。
「うぐっ」
シンユエを庇うため、ジンは背中から地面に落ちた。
痛みはあるが、何とか立ち上がることはできる。
バズン!バズン!
防護スーツを脱ぎ捨てたザッカーマンが、回転式拳銃の銃撃により敵をけん制する。
「走れ!」
アタッシュケースをボストンバッグに突っ込み、ザッカーマンが駆けだす。
ジンは、シンユエを抱えなおし、その背中に追いすがった。
数十秒後、爆音と共に熱風が駆け抜ける。
3人の背後では土煙が上がり、瓦礫の山が下水道を埋めていた。
「これで時間稼ぎはできた、セーフハウスまで撤退するぞ!」
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