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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case1.『マンティコア』
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00.序章

 長きにわたる水源を巡る大戦により、国家は衰弱し、統治能力を失った。

 残存する企業や軍隊は国家から独立し、彼らによる世界の再構成が為された。そんな中、企業合同体が運営する『ユニオン』では傭兵が一つの職業として確立され。企業に属さずとも、大金を手に入れることを可能となり、一攫千金を夢見る根無し草が、そこには集っていた。

 そして、大企業がその拠点を置く上層街の路地を、足を引きずって歩く傭兵も、その根無し草のひとつであった。


「クソッ! 絶対に報酬は倍以上貰う、じゃなきゃ割に合わん」


 そんな悪態をつきつつ、鉛のように重い足を引きずりながらザッカーマンはEZフロント社を目指していた。


 ――時は遡ること、一か月程前


「あなたがザッカーマンですか?」


そう問われた大柄な男は、窓際で佇む女性を指さす。


「隊長は彼女ですよ、タイラーさん」


下層街の薄汚れた事務所には場違いな、高級スーツに身を包んだ、タイラーという男は油汗を拭きながらザッカーマンに向き直る。


「貴女がザッカーマンでしたか、失礼し――」


タイラーの言葉に振り向いた、彼女の姿が明確になると、思わず彼は言葉を詰まらせてしまった。


「お待ちしていましたよ、EZフロント社のタイラーさん」


そう言ってはにかむ彼女は、左頬から左手にかけて酷い火傷の跡が白い痣となって残っている。


「あ、あぁ。今回はよろしく頼みます」

「どうぞ、お掛けください。それで、大手の銃火器販売企業が何故こんな事務所に依頼を?」

「元々、プロテクト社に依頼をしていたのですが。何せ、『競り』に関するモノですから――」


 プロテクト社と聞いた彼女は、一瞬だがこめかみをひくつかせる。


 古巣め、また面倒臭い仕事をこっちに回したのか。


 ちらりと、部下であるジンの方を見ると小刻みに首を振っている。

 それを確認しつつ、タイラーに向き直る。


「すみませんが、『競り』への企業の介入は違法行為です。そのような依頼は、受けかねます」

「えぇ、分かっていますよ。しかし、貴女も現状の『競り』は異様なほど、低い報酬で落とされているのをご存じのはずです」


 ユニオンの企業らは私兵を持ち、金属や水源の確保のための戦闘を繰り返している。しかし、全てを所有する兵士で遂行できる大企業は片手で数えられる程しかない。

 そこで企業は、ユニオンに集う傭兵達に向けた依頼を、報酬金額をかけた『競り』によって募集している。報酬金額は、市場の自浄作用で決定するものであり、企業がそれに介入することは違反行為だった。

 他に傭兵が依頼を受けるとしたら、非効率で金も掛かるがタイラーのように、企業が傭兵個人に直接依頼を持ち込むことが殆どだった。


「タイラーさん、ルーキーの多いこの時期は、報酬の低下は珍しいことではありません。それに、報酬額の健全化をしたところでEZフロント社になんの利益があるんですか?」

「確かに、報酬の低価格化は我々企業にとってはうれしいことですが。それは短期間での話です。EZフロント社は、傭兵向けの銃火器も販売していますので、顧客がいなくなるのは困るんですよ」


 さりげなく彼女は、懐のホルスターに突っ込まれた古風な回転式拳銃に目をやる。


 まぁ、EZフロント社の比較的に廉価な金属弾が無くなるのも困りものね。


「分かりました、依頼の詳細を教えてください」


 一呼吸置いて、タイラーは依頼内容を語り始める。


「プロにこう言うことは、失礼だと分かってはいますが。依頼の達成により得た情報は、他言無用でおねがい致します」

「えぇ、勿論。それに、心配するのも当然のことです。今回の依頼は、公けになればユニオン本部に追われることになる依頼ですから」


 タイラーは、額に滲む油汗を拭きながら、じっくりと頷く。


「依頼内容は、競りに介入している企業の正体を暴くことです。もしも、企業が介入していないことを示す証拠が十分にあれば、それでも結構です」

「経過報告の義務や、調査についての行動制限、それに報酬額は?」

「経過報告は必要ありませんが、期限は二か月以内でお願いします。行動制限については――」


 そう言いかけると、タイラーは口をつぐみ、肘をついて考えこむ。


「どうぞ。お口に合うかは分かりませんが」


 ジンが気を遣って、飲料水が封入されたペットボトルをタイラーに差し出す。


「いや、結構です。行動制限は、ありません。いかなる手段を用いても構いません」

「で、肝心の報酬額は?」

「300万クレジット、一年は仕事をしないで済む大金ですよ」


 ヒューと、ザッカーマンは口笛を吹くが、ジンはタイラーが断った飲料水を、彼のデスクで飲みながら顔をしかめている。


「企業が手を焼く程の厄介ごとならば、我々、ザッカーマン傭兵事務所にお任せあれ」

「おぉ、では依頼を受けてくださるのですね!」

「勿論ですよ、タイラーさん」


 そう言いながら握手を交わす二人を、頭を抱えてジンは眺めていた。


お読みいただきありがとうございます。

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