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旅立ち

 私のステータスが魔虫を操る者だと判明してから1カ月。

 あの日から私のすべてが変わってしまった。

 まずあれだけ私を苦しめていた鬼教師は私から離れない魔虫の姿を見て1日でどこかに消えた。

 その次に屋敷のメイド、家令、その他の使用人たちも私を避けるように。

 どうやら魔虫の嫌われようは私の思っていた以上のものだったみたい。

 それもそのはず、今まで甲虫が好きで調べてこなかったけど魔虫は昔魔族と人間が戦争していた時にと人間を襲いまくっていたらしい。

 全く魔虫を見なくなった現在でもその印象が強く残っているのだ。

 まぁそれがなくともこの姿を見れば皆気持ち悪がって遠ざかるでしょうけどね。


 「どうしましたかミクリア様」


 「……どうしたもあなたが現れてから最悪よ。いい加減私から離れてくれない?」


 「それは無理ですよ! 魔虫にとってあなたは離れがたい、そうベッドのように居心地がいい存在。離れるなんて出来ません」


 「なによそれ……。はぁ、お母様はあの日以来部屋から出てこなくなったし、お父様もどこかよそよそしいし、私の人生終わったわ」


 いっその事殺虫剤でも撒いちゃおうかしら?

 いやダメね、こいつら地面の中に無数にいるんだもの全てを殺すなんて不可能だわ。

 でもこのままじゃ私の人生死亡フラグ立ちまくりじゃない!


 「……こうなれば」


 私はあることを決めると急いで自分の部屋に走った。

 その間に出会ったメイド達が逃げていったのは言うまでもない。


 「ミ、ミクリア様どうしたんですか!?」


 「この家を出るのよ! それでこのステータスを消す方法を探すの」


 「えぇ、そんなことをしたら私と一緒に居れなくなりますよ?!」


 「望むところよ!!」


 えっと、お金に着替え、あとは……。

 そうだ、お父様にもこのことをちゃんと伝えないと!


 「ミクリア、ちょっといいか?」


 グッドタイミング! 私が荷造りをしているとお父様が部屋に恐る恐る入ってきた。


 「……一体何をしているのだ?」


 「実は私この家を出ようと思うんです。それでこの力を消す方法を探そうかと」


 「家を出る!? 何を藪から棒に言い出すのだ」


 「私がこの家にいる限りお母様はあのままです。それに貴族の中じゃ私が魔虫に憑りつかれたと既に噂になっているではありませんか。この家のためにもこの方法が一番です」


 「し、しかしな」


 お父様は何か言いたそうだったが、私は構うことなく手を止めず荷造りを終えた。

 ここまでしてお父様ももう何を言っても無駄と思ったのか小さく息を吐く。


 「……はぁ、お前という奴はこうと決めたら止まらないからな。分かった、行ってこい。ナナには私から話しておく」


 「ありがとうございますお父様」


 「全く、こういう話になるとは思っていなかったのだがな」


 「すみませんお父様」


 お父様は笑みを浮かべると私を抱きしめた。

 ただ右肩にいる魔虫には触れたくないのか腰は引け、左手はあ指先しか私に触れていないけど。

 てかこいつ、こういう感動の場面位気を利かせなさいよ!


 「なにかあればすぐに知らせるのだぞ?」


 「はい、お父様……」


 「ま、待って!」


 「お母様!?」


 お母様の顔、一カ月ぶりに見る。

 どこかやつれているようにも見える、無理もないか一月も部屋に籠っていたんですもの。


 「ごめんなさいミクリア、私が不甲斐ないばかりに」


 「いいんですお母様、私が悪いんですから」


 「どうしても行くというのならこれを持っていきなさい。お金はいくらあっても困らないんですもの」


 お母様が手渡してきた袋の中には金貨が30枚ほど入っていた。

 これだけあれば2,3年は生活できる金額だ。

 

 「こんなに……、ありがとうございますお母様、、」


 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 「ナナ、ナナァァァァ」


 あ、こいつが肩にいることを忘れていた。

 お母様も慌ててたから目に入らなかったんだろうな……。


 「あの、お母様は」


 「……大丈夫、気を失っているだけだ」


 「何かすみませんお父様」


 「いや、お前が謝ることではないさ」


 お父様はお母様を抱き上げるとその場を離れていく。

 そして部屋を出る直前、こちらに振り向き口を開いた。


 「それではなミクリア。見送りをすればお前を送り出せそうにない。必ず戻ってきなさい」


 「……はい、お父様」


 お父様は何かまだ言いたそうだったが、その言葉を飲み込むとゆっくりと部屋を後にしたのだった。

 私もいつまでもこうしてはいられない。

 一日でも早くこの力を消し去って、貴族ライフを満喫するんだから!


 「それじゃあ私達も行くわよ」


 「本当に行くんですか? ミクリア様と離れる方法を探す旅、気乗りしないな」


 「うるさい、早く行くわよ」


 私は荷物を持ち、屋敷の外へと進む。

 私が近づくと殆どの人がいなくなる、当然私が屋敷を後にしようとしている事なんて誰も知らない。

 屋敷の門まで到着し、長年住み慣れた屋敷を後にしようとしたときそこに見慣れた人物がいた。


 「ミクリア」


 「アベルト様」


 「どこかにいくのか?」


 「……はい。少し旅に出ようかと」


 「そうか」


 ……何この沈黙!

 気まずい、気まずすぎる!


 「そ、それでは先を急ぎますので」


 「ま、待ってミクリア!」


 右手を掴まれた私は足を止める。

 アベルト様は何か言いたそうにこちらを見つめている。

 え、もしかしてこれって告白??

 そんな力を持っていても僕は君が好きだ!的な告白に違いない!!


 「な、何でしょうかアベルト様」


 高鳴る鼓動、早く言いなさいよ男でしょ!

 

 「……やっぱり無理だ!!!」


 「へ?」


 「ごめんミクリア! 魔虫がいても君と一緒に居たいと思っていたけど、君の右肩! それを見たらやっぱり無理! 気持ち悪いもん!!」


 えぇぇ……。

 これだけいい雰囲気を出しておいて!

 

 「でもアベルト様甲虫は好きだし魔虫だって」


 「いや、甲虫と一緒にしないでくれ! あれは男のロマンだ。でも魔虫はキモイ! それにいつ寝首を襲われるかもしれないし、そんなのと一緒にいるなんて無理だ。つまりその魔虫と一緒に居るミクリアともやっぱり一緒に居られない!!」


 こ、この野郎……、よくもそれだけ私を傷つける言葉が出てくるわね!

 爽やかな顔してふざけるんじゃないわよ!!


 「……分かりました」


 「はぁ、はぁ……、ミ、ミクリア? ぶへっ!」


 「アベルト様なんて死ねバーカ!!」


 「ぎゃあぁぁぁぁぁ」


 私はアベルト様の顔面に魔虫を押しつけ力いっぱい殴りつけた。

 その衝撃でアベルト様は吹き飛び、一緒に魔虫も吹き飛ばされた。

 まぁ、すぐに戻ってきたんだけど。


 「わ、私は関係ないじゃないですか!」


 「うるさい、あんたのせいでせっかくの告白が台無しよ! はぁ、本当私の人生お先真っ暗だわ」


 「ハハハハッ、大丈夫です。私が付いていますから」


 「それが元凶なのよ」


 もうこいつには何を言っても無駄ね……。

 こうして私の平穏な貴族ライフを取り戻すための旅が人知れず幕を開けたのだった。

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