ステータスの正体!
1週間後。
ハッシュフィル家の屋敷内はどこか慌ただしい。
それもそのはず、今日は私の13歳の誕生日なのだ!
この世界の貴族は13歳で成人とみなされる。つまりこれからは1人の人間として独り立ちしないといけないのだ。
と言ってもほとんどの貴族は今までと変わらず生活をしているんだけどね。
しかし! 私はこの日を生まれた時からずっと待っていたのだ!
何故かって? フフフッ、それは今日私のステータスが判明するからだぁぁぁ!!
「なんて言ったってS級よ? 過去の文献にはS級ステータスを持っていた人は千人を誘惑した魔女に伝説の勇者。これは勝ち組決定ね」
「どうしたんだいミクリア、いつにもまして下品な顔をして」
「アベルト様?! これは失礼しました……って誰が下品なんですか?!」
「ハハハハッ、冗談だよ」
こいつ、絶対冗談じゃないだろ。
本当に爽やかな顔してきついことを言うんだから。
私が祝いにやってきたアベルト様と一緒に居ると、お父様とお母さまが一人の老人を連れてやってきた。
あの人、少し老けてはいるけど私が初めてこの世界に来た日に居た人だ。
確か、司祭と呼ばれていたような……。
「アベルト、久しぶりだな」
「これは侯爵様、お久しぶりです」
「ミクリア、紹介しよう。こちらは司祭のハリーマンだ。今日はお前の誕生日を祝うために駆けつけてくれた」
「ミクリア様、ハリーマンでございます」
老人はそう言うと深々と頭を下げた。
「ミクリア・ハッシュフィルです。司祭様、本日はお越しいただき感謝いたします」
「しかしミクリア様はお母様譲りでお美しくお育ちになりましたな」
「まぁ司祭様、お口が上手ですね」
まんざらじゃないわねお母さま……。
私、やっぱり未だにこの人の事を完全には分からないわ。
「では行こうかミクリア」
しばらくするとお父様が私を屋敷の外に出るように促した。
その理由は分かっている、ステータスは発現するまでどういうものか分からない。
だから出来るだけ広く何もないところで発現を待つのだ。
貴族の成人の日なのに、必要最低限の人しか集まらないのもそのためだ。
「まぁ後で死ぬほど色んな家に挨拶に回るんだけどね」
「何か言ったかミクリア?」
「な、なんでもありませんわお父様!」
いけないいけない、また思ったことがつい口に。
私達は先導するお父様の後に続き庭へと移動した。
ここで私はステータスの発現を待つことになる。
普通ステータス発現に司祭が立ち会うなんて聞いたことがないけど、やっぱりS級ステータスとなると一大事なのかしら?
まぁ皆私がS級ステータスを持っていることを知っているなんて思いもしないでしょうね。
生まれたばかりの時から記憶があるのは転生した私くらいでしょうから。
私は庭に置かれた椅子にゆっくりと腰を下ろす。
ステータスの発現はいつになるか分からない。
ただ13歳になった日に発現することは分かっているため一日中ここにいないといけないのだ。
そのため私の周りには本や楽器、更には食事まで置かれ万全の備えがされている。
でもしばらく後、それらは意味の無い物になる。
私のステータス発現が始まったからだ!!
「お、お父様お母様! 始まりました!!」
「おぉついに始まったか。ミクリアの体が光りに包まれていく……」
「このような現象見たことがない……。これがS級ステータスの発現か」
司祭は驚きの表情でこちらを見つめる。
しかしその現象もすぐに収まり、私の体を包んでいた光は消えていったのだった。
……え、もしかしてこれで終わり?
何も変わった気がしないのだけど。
「待てミクリア、まだ立つな!!!」
「え、あ、はい!!」
びっくりした、お父様があんな大きな声を出すなんて……。
「ステータスの内容が分かるのはもう少し後だ。それはお前だけに分かるもの。頭に浮かぶ言葉に集中するんだ」
その言葉通り、しばらくすると頭の中に文字が浮かんでくるような不思議な感覚が訪れた。
これが私のステータス……
[使役 魔虫]
……え? なにこれ??
使役ってことはそのままの意味よね?
魔虫ってあの魔虫? 種類によっては竜の力さえも凌ぐっていう皆の嫌われ者。
嘘でしょ?
私は自分に起きた現実に動くことが出来ない。
だって13年待っていたのよ? あんなことやこんなことが出来ると思っていたのによりによって魔虫使いって!
こんなこと皆にどうやって伝えれば……っは!!
そこで私はお母様にゆっくりと視線を向ける。
お母さまは心配そうにこちらを見つめている。
お母様にこんなこと絶対に言えない! 甲虫でさえあの嫌がりようなのに、魔虫なんて死んでしまう!
でもいつまでも黙っている訳にもいかないし……。
しかし私がいつまでも動かないことを不思議に思ったのか、皆がこちらに近づいていきた。
無論、お母様も。
「どうしたミクリア? それでお前のステータスはなんだったのだ?」
「そうよ教えなさいミクリア。いつまでも黙ってちゃ分からないわ」
いや、そう言われましても……。
その時、足元の地面が盛り上がった。
いや、正確には盛り上がった場所から何かが飛び出してきたのだ。
それを見た全員、特にお母様はみるみる顔色が悪くなる。
それは私の足をよじ登り肩まで移動したのだった。
「ふぅ、何とか到着しました」
「え、えっとあなたは」
「あ、申し遅れました私魔虫と申します」
「あ、これはどうもご丁寧に」
これが魔虫? 大きな目に黒い体。可愛らしい手足。
二足歩行をするものなの魔虫って?
しかし私とは裏腹にお母様の叫び声が辺りに響き渡った。
「ぎゃぁああぁぁぁぁ!!!!!」
「お、お母様!?」
「む、虫!! 気持ち悪い!!!」
「ナナ、落ち着くんだナナ!!!」
お母様はしばらくするとお父様の腕の中で気を失った。
確かに虫嫌いなのは知っていたけどこの子、そんなに気持ち悪いのかな??
「しかしどういうことだ。それは明らかに魔虫の一種、何故このような所に」
そこで司祭が何かに気が付いたように口を開いた。
「まさかミクリア様、あなたのステータスはまさか」
「……ハハハ、どうやら魔虫使いみたいです」
「や、やはり……」
司祭は額の汗を拭うとお父様と何か話始める。
「魔虫使い、まさか実在するとは」
「侯爵様、これは一大事ですぞ! 魔虫は魔族の中でも最強の一つ。使い方次第ではミクリア様は」
「ううむ……、困ったことになってしまった」
困ったのは私の方なんですけど!
よりにもよって魔虫なんて……。これじゃあお母様どころか皆にも嫌われるじゃない。
「……でもなんでお母様は気絶したのかしら? あなた見た目は可愛らしいのに」
「それはあなただけにこの姿と言葉が分かるからですよ! 他の皆さんに見えてる姿はこれです!」
魔虫はそう言うと指を鳴らした。
そこに現れたのは先ほどまでの可愛い姿ではなく、芋虫の姿に何百と伸びた触角、そして口元には奇妙ものがウネウネトしている。
「気持ちわるっ!!!!」
いやそれ何色の体? でも確かにこんな姿お母様じゃなくても卒倒しそうね。
はぁ、他の人にこんな風に見えてるなら余計に嫌われるんじゃ……。
ほら、何も言わないと思っていたらアベルト様も顔が引きつっているし。
「はぁ、最悪の誕生日だわ」
「そう気を落とさないで下さい! 我ら魔虫、あなたのためなら何でも致します! 皆出てこい!」
「え、嘘でしょ? やめて、もうやめてぇぇぇぇ」
地面から更に出て来た無数の魔虫達。
ハッシュフィル家はその日から叫び声の絶えない屋敷と呼ばれることになるのだった。