約束
その日明日が待ち遠しくて、眠れない夜になった。
明日また光さんに出会えるからだ。
光さんにこの感謝の気持ちを伝えたい。
そして次の日、居間に行くと、父さんと母さんと妹がすでにいた。
「おはようございます」
「うん。おはよう」「お兄ちゃんおはよう」「アツジおはよう」
順に父さんと妹と母さんが朝の挨拶をしてくれる。
「アツジ、今日も図書館に行くのか?」
「うん、そうだけど」
「図書館も良いけれど、勉強もおろそかにしちゃダメだぞ」
父さんは言う。
「分かっているよ。僕昨日は図書館で勉強していたんだから」
「図書館は捗るか?」
「うん。昨日来た光さんに勉強を教えてもらったりもしたよ」
「そうか、あまり光さんと言う人にあまり迷惑はかけないようにな」
「大丈夫だよ」
「そうか」
そこで母さんが「アツジ、とりあえず朝ご飯を食べなさい。これから図書館に行くんでしょ。お弁当も作ってあげるから」
そう言われて、僕は戸惑ってしまう。また光さんの友達の敬子さんにパンを分けてもらう事が出来なくなってしまうことに。
お弁当を受け取り、朝ご飯を食べて外に出て自転車にまたがり、いざ図書館へと向かう。
図書館に到着すると、光さんは入り口手前ではき掃除をしていた。
「光さん」
「あら、あっ君おはよう」
「おはようございます」
「あれから両親とは和解できた?」
「はい。おかげさまで」
「そう。良かった。昨日はすき焼きごちそうさまって両親に伝えておいてね」
そう言って、図書館の中に入っていってしまった。
何か素っ気なさを感じて、僕の気持ちはモヤモヤとした。
図書館に入ろうとすると、光さんが「まだ開校時間じゃないから、もうちょっと待っていてくれないかな」
「はい」
昨日は開校時間一時間前に入れてくれたのにどうしてしまったのだろう?
光さんとの距離が凄く遠くなってしまった感じがした。
何か心に大きな穴が空いてしまったかのように、虚しく感じてしまった。
そうだよね。光さんは僕の居場所を提供して、僕に居場所が出来たのだから、もう光さんは僕には必要ないと思ったのだろう。
仕方がない事だろうね。
仕方がない事なんだろうけれど、なぜ涙が流れて来るのだろう。
もう家族に虐待をされる事はない。もう僕をいじめる奴がいる学校には行かなくても済んだんだ。
でも光さんは僕の心を奪っていった。
開校時間になり、僕とその他の年寄り何かが入ってくる。
勉強しているときも、マンガを読んでいる時も、光さんの方をちらちらと見ていた。
これじゃあストーカーじゃないか。
光さんに助けてもらったのに、僕は光さんに大事な物を奪われてしまった。
それは僕の心。
今すぐに光さんに僕の心を返せって罵ってあげたいが、それはいくら何でも理不尽な考え方だ。
頭の中は光さんでいっぱいだった。
光さんには感謝をしなきゃいけないのに、僕の中に光さんを恨む自分がいる。
僕を助けてくれたのに僕は何を考えているんだ。
まだお昼前だと言うのに、僕は図書館を出てどこか誰もいないところに行きたかった。
辿りついた先は以前光さんとジョギングをした河川敷の道路だった。
僕は自転車を激しく動かして、叫んだ。
もう図書館には行けないな。
やっぱり僕には引きこもっていた方がお似合いなのかな?
そんな時だった、僕のスマホから着信音がなった。
画面を見てみると光さんからだった。
「もしもし」
「もしもしあっ君?」
「そうだけど、何か用ですか?」
「急に図書館からいなくなったから、心配しちゃったよ」
「それよりも何の用ですか?」
「あっ君学校に行っていないんだよね」
「だから何なの?」
「さっきからふてくされた態度をとっているところを見ると、私に距離を置かれて不機嫌なのよね」
「・・・違うよ。そんなんじゃないよ」
「明日、プラネタリウムに行くんでしょ。私と」
そういえばそんな約束を以前していたのを覚えている。
「本当に一緒に行って良いんですか?」
「約束したからね。だからふてくされてないで、図書館に戻っていらっしゃい」
「はい」
僕は全速力で自転車をこいで図書館に戻った。
図書館の中に入ると、「あっ君」と小声で僕の名前を呼んだ。
「光さん」
「今日は私お弁当だから、あっ君の分だけ、パンを分けてもらえるように敬子に言ってきてあげようか?」
「いえ、僕もお弁当を持参しているので、あの、その、なんて言うか・・・」
「一緒に食べたいんでしょ」
「はい!」
お昼ご飯は図書館に隣接する公園でご飯を食べることとなった。
二人でお弁当なんて、まるで本物のカップルみたいだ。
光さんのお弁当を見てみると、ご飯にふりかけがかけられているだけの質素な物であった。
僕のお弁当を開くと、唐揚げやら、卵焼きにミニトマトが添えられていた。
「おいしそうなお弁当だね」
「良かったら唐揚げ一つ食べます」
「じゃあ、いただいちゃおうかな」
「どうぞ」
僕のお弁当箱から唐揚げを一つ、箸で摘んで口元に運び租借する。
「んんー」とおいしそうにうねりをあげる光さん。
「おいしいですか?」
「おいしいよ」
おいしいと言われて良かったと思えた。
まあでも僕が作ったのではなく、家のお母さんが作ってくれたんだけどね。
お弁当も食べ終わり、僕は学童の子供達に、人形劇をするように頼まれた。
もちろん僕は引き受けて、題名はトムソーヤの冒険に決まった。
僕はトムソーヤの冒険を知っているので、やりやすかった。
ちなみに何人で劇をやるかは僕と光さんしかいない。
僕はトムをやり、後のギャラリーは光さんが請け負った。
光さんはキャラごとに声色を重ねて、主人公のトム以外のギャラリーをすべて演じきったのであった。
学童の子供達に大評判だった。
僕は初めての事で緊張したが何かやりきった感があって、とても充実した。
「お疲れ様、トム」
光さんは言う。
「あっはい!」
「トムソーヤの冒険の事を知っているみたいだね」
「はい小学生の頃に読まされましたから」
「そうなんだ。あっ君って小学校の時はかなりの読書家なんだね」
「そうでもないですよ。僕は小説よりマンガを読んでいた方が楽しいですから」
「うふふ、私も同じだよ」
そういえば、この人形劇だが、以前夢で光さんと人形劇をした夢を見たっけ。
それで子供達は大喜びで、僕が演じるトムとその他の役をみんな引き受けた光さん。
僕は最初は緊張したが、光さんの演技に負けていられないと思ってトムを演じきった。
そして日は暮れて、閉館の時間になってしまった。
閉館時間は今日は祝日なので五時で終わる事になっている。
「じゃあ、光さん明日プラネタリウム、一緒に行きましょうね」
「うん。分かっているよ」
笑顔で答える光さん。
今日は色々な気持ちにさらされた。
光さんに距離を置かれていて、ふてくされたが、そうではなかった。
光さんは忙しくて、僕の相手を出来なかったんだ。
ちなみに明日と明後日は図書館がお休みだ。
それに明日は光さんとデート。
待ち遠しい。早く明日になってくれないだろうか?
でも光さんは本当に僕の事をどう思っているんだろう?
今日は避けられたと思ったら、そうではなくただ忙しかっただけ。
それに僕は忘れていたが、光さんと明日プラネタリウムに行く約束をしていた。
これって、光さん、僕のことをまんざらでもないんじゃないかな?
神様、お願い。光さんの気持ちを知るにはどうしたら良いんですか?
そんな事を願いながら、僕は家に帰り、晩ご飯を食べてお風呂に入り、布団の中で、昨日と同じように眠れなかったが、何とか寝付いて、明日になった。






