いじめが犯罪になる日に僕は生きているのだろうか?
「同じベットの上で眠るなんて、ちょっと光さん女子としてのたしなみを大事にした方が良いんじゃないですか?」
「ごめんね、ベットは一つしかなくて」
「そうなんですか」
「それよりも朝のジョギングにつきあってよ」
光さんは僕の前でネグリジェを脱いでスポーツブラとスポーツパンツが露わになり、僕は息をのんで頭に血が上ってしまった。
「光さん、何を」
「何をって?」
そう言いながらジャージを着る。
「僕は一応男性ですよ」
「別に私は気にしていないよ」
笑顔で答える。続けて、
「それよりもジャージに着替えたことだし、あっ君もジャージに着替える?私の分がもう一着あるけれど」
「はい」
僕は何も考えず着替えることにした。
外は夏休みが終わってもまだ暑い。
「あっ君私についてきて」
と言ってジョギングをする。
光さんのペースは速くて、僕はついていけなかった。
「あっ君は体力がないのね。部活とかはしていないんだ」
そうだ。僕は体力がない。夏休み中パソコンの画面に向かって、ユーチューブばかり見ていたからな。
「じゃあ、ゆっくりで良いから私の後に付いてきて」
男の僕が女性の光さんよりも遅いなんてレッテルを貼られるのは悔しいので僕は光さんの後に付いていった。
「あら、もう息が上がっているよ」
「大丈夫です。これぐらい」
「無理しちゃダメよ」
そう言われたが、男としてのプライドとして、光さんには負けたくなく、僕はちょっと無理をしてしまったのかもしれない。
今僕と光さんは河川敷の道路を走っている。
車が通らず、中には僕達みたいにランニング姿で走っている人もいたし、犬の散歩なんかをしている人も何人か見受けられた。
どこまで走るんだ、光さんは?
すると光さんは橋の下で立ち止まり、「今日はここまでにしよう」
「ここまでって、いつも・・・どれぐらい・・・走っているんですか?」
「あそこの岬の向こうまでよ」
その岬の向こうは見渡してみると、ずいぶん遠くまで感じられる。
「ゴメンねあっ君、私に負けたくないからって、無理をしたでしょ」
「・・・」
図星なので情けなくも黙ってしまった。
「大丈夫だよあっ君、体力が無くてもあっ君の事、私気に入っているから」
息が上がりそうなのに、僕の事を気に入っていると言われて、心臓が破裂するぐらいに鼓動が高鳴った。
「さて、あっ君、帰ったら、朝食にして、図書館に行きましょう。私の仕事が終わったら、またあっ君の両親に聞き込みに行くから。
きっとあっ君の両親は心配していると思うから」
「・・・」
心配なんてしていないよ。と言いたいところだが、これ以上光さんに迷惑をかけたくないので、僕は黙っていた。
「そんな顔をしなくても、君の親は心配しているから大丈夫よ」
僕の不安が表情に出ていたのか?光さんに心を読まれてしまった。
「さて、引き返して、朝ご飯にしましょう」
僕はすごい汗だくだったが、光さんが使っているタオルを渡されて、僕は大量に流れる汗を拭いた。
光さんの女の子特有のいい匂いがするタオルだった。
光さん家のアパートに戻り、光さんは僕にパンと目玉焼きとサラダをもてなしてくれた。
「私はシャワーを浴びてくるから、あっ君先に食べていて」
光さんはシャワーを浴びている。
想像しちゃダメだ。
僕は食べることに集中して、光さんが今シャワーを浴びている姿を想像しないようにした。
光さんが俗室から出てきて、塗れた髪をドライヤーで乾かしている音が聞こえる。
ドライヤーの音が収まり、光さんはスーツに身を包み、晴れやかな姿で僕の前に現れた。
「あっ君。もう食べちゃったの?そうだ。あっ君もシャワーを浴びてきなよ。すごい汗だくじゃん」
言われたとおり、僕は光さん家のシャワーを浴びた。
昨日もそうだったが、光さんは特別なシャンプーやボディソープを使っていない。
どれも百円ショップで売られているような代物ばかりだ。
なのに何であんな良い香りがするのか。
俗室から出て、タオルで体と頭をふいて櫛で髪を整えて、服を着た。
「じゃあ、図書館に出かけましょうか」
「はい」
光さんは僕にこんなにも優しくしてくれる。
もしかしたら光さんは僕に気があってやっているのか?分からないが感謝はしている。
図書館に到着して、図書館は九時に開くのだが、光さんはその司書で今現在は八時を示している。
「私は司書の仕事があるから、あっ君は適当に座ってマンガでもライトノベルでも読んでいなよ」
「本当に僕にここまでしてくれるのはなぜですか?」
「それはあなたがニュースを見て、学校に行かずに図書館に来てくれたことだからだよ」
「そうですか」
「とにかく気に病むことはないでしょ。だから好きな本でも読んでいて、今日もパンをお昼にご馳走するから」
図書館の中は誰もいない。
それはそうだ。まだ開いていないからな。
僕はドラゴンボールの続きが気になり、続きを読んだ。
ドラゴンボールは本当に面白い。
そこで僕は気になることを思いついた。
僕も中学を卒業したら、通信制の学校にいけないだろうか?
もし行けるとしたら、光さんのように図書館の司書として働けないだろうか?
光さんは今パソコンで何やら作業をしている。
何の作業をしているのか気になったが、僕の出る幕はなさそうだ。
僕も光さんの力になりたいと思っていた。
その前に、僕の家族は本当に心配しているのだろうか?
学校にも行かずにこんなところでマンガなんて読んでいて良いのだろうか?
僕は鞄から英語の教科書を取り出して、勉強をした。
光さんは一生懸命に仕事をしているのに僕だけ遊んでいるのはいささかおかしいと思ったからだ。
勉強をするスペースはある。
今日も午後から、受験勉強や宿題をしに来る学生でいっぱいになるのだろう。
僕が英語の勉強をしていると光さんが僕の様子を見に来て「あれあっ君勉強しているの?偉いわね」
「偉くないですよ。とにかく一学期の時に僕をいじめる連中は、期末試験の時に零点をとるように強制された。僕は学校の勉強が嫌で学校が嫌いじゃない」
「ここはお姉さんが教えてあげようか?仕事もひと段落ついたことだし」
「ええ、良いんですか?」
良いわよ。僕が開いた教科書をのぞき込む。
「あら受動態能動態ね」
光さんは僕に勉強を教えてくれた。
本当に丁寧に教えてくれて、分かりやすかった。
光さんって頭がいいんだな。
そう言えば光さんも中学の時にいじめられ、将来に関わる受験勉強をしたのにいじめる連中は受験を受けさせないようにされたんだっけ。
どうしてそんなに人間はいじめをするのか?
僕も光さんも何も悪いことをしていないのに、どうして僕達を自殺に追い込まれそうになってもやってくるのか?
そう言えば今日朝ご飯を食べながら見たニュースでは本当に九月一日に全国の中高生が一番自殺をするのが統計で分かっている。
親も先生もそれを見過ごしている。
でもいじめは犯罪になると、言われている。
とある中学でいじめにあった人が自殺をして、いじめた側に何千万円と言う請求が命じられた。
だから僕も死んでしまえば、誰かが泣いて、裁判に訴えて、お金になるのだろうか?
家の親も先生も僕のいじめを見て見ぬ振りをしている。
僕はこんなにも辛いのに・・・・。
そう考えると涙がこみ上げてきた。
「どうしたのあっ君」
僕を心配する光さん。
「どうして僕や光さんはいじめにあっているのに、親や先生は知らぬふりをするんでしょうかね」