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僕達の日常

「桃子ちゃんだっけ、それじゃあ私帰るからね」


 菜々子さんは自分が邪魔な者だと思いその病み上がりの体で起きあがった。


「ダメだよ菜々子さん。病み上がりなんだから」それで桃子の方を向いて「桃子菜々子さんは風邪をひいているからあまり刺激的な事を言わないの?」


「お兄ちゃんは桃子と菜々子さん、どっちが大事なの?」


「そんなの比べられないよ、桃子も菜々子さんも大事だよ」


 僕はありのままの気持ちを言った。


 そこで僕の家にチャイムが鳴った。


「はーい」


 と言って出ると、光さんだった。


「こんばんわ、菜々子ちゃんが風邪をひいていると聞いて馳せ参じました」


 右手には大きな袋を持っていた。


 そこで桃子が「あなた何者よ、まさかお兄ちゃんの愛人だとか言うんじゃないでしょうね」


「こら桃子失礼だろう。この人はお兄ちゃんや菜々子さんがいつもお世話になっている光さんだよ」


「あなたが桃子ちゃんね。いつもお兄ちゃんにお世話になっています」


 お世話になっているのは僕達の方なんだけどな。


 桃子は「出ていけ、二人ともお兄ちゃんの前から出ていけ!」大声でわめく桃子。


 僕は堪忍袋の緒が切れて、桃子にげんこつを食らわせた。


「お、お兄ちゃん、何で、ぶつの?」


 半べそ状態の桃子。


「この二人はお兄ちゃんの大切な仲間なんだ。人のことも知らないでいきなり帰れはないでしょ」


 と僕は桃子を叱ってあげた。


 すると桃子は「うわーん」と泣いてしまった。そして「お兄ちゃんのバカ」と言って出て行ってしまった。


「あっ君ちょっとやりすぎじゃない?」


 光さんは言う。


「だって僕の大切な人達に傷を付けたのだから当然だよ」


「大切な人か。桃子ちゃんもう来なくなっちゃうかもよ」


「それならそれで良いです」


「ダメよ。桃子ちゃんはあなたの大切な妹でしょ。そういった人は大事にしなきゃダメよ」


 光さんの言うことには本当に説得力がある。

 そうだ。僕の唯一の僕の家族なんだ。

 僕が学校に通っている時、いじめられて帰ってきたとき、桃子はそんな僕を慰めてくれた。

 先ほど邪魔者扱いした事を明日でも良いからちゃんと謝っておこう。


「それで光さんは何をしに来たんですか?」


「何をしにって菜々子ちゃんが大事に至ってないか、様子を見て、光さん特性のスパゲティーを食べさせてあげようとしているんだけれども、私、邪魔だったかな」


 舌を出しておどける光さん。


「そんな事はないですよ。むしろ大歓迎です」


「そう。それは良かった」


 菜々子さんが眠っている部屋に行き光さんは「菜々子ちゃん、私が今ペペロンチーノを作ってあげるね」


「ありがとうございます。光さんが来てくれてほっとしています」


「あっ君台所を使わせて貰うわね」


「どうぞどうぞ」


 そこで僕は光さんが料理している間、菜々子さんが眠っている部屋に行き、「菜々子さん、桃子の奴に何を言われたの?」


「そんな大したことじゃないわ。あたしは桃子ちゃんに嫌われているんだろうな」


 確かにそうだ。桃子は光さんや菜々子さんを毛嫌いしている。

 光さんの言うとおり、桃子は唯一の家族と呼んでも良いくらいに僕に尽くしてくれる。

 妹には僕の彼女の菜々子さんと、僕にお世話をしてくれている光さんと仲良くなって欲しい。

 どうすれば仲良くなってもらえるだろう。

 桃子は昔からやきもち焼きだからな。


 光さん特性ペペロンチーノが出来上がって、菜々子さんもベットから出て食卓を三人で囲む。


 いただきますと僕達は言って、食べてみると本当においしい。


「光さん、これ本当においしいよ」


「私が作ったんだから当然でしょ、菜々子ちゃんおいしい?」


「おいしいですよ。おいしすぎて精が出ます」


 精が出ますって何か誤解を生むような表現だ。


「精が出た後には、二人で妙な事をしないでね」


 僕と菜々子さんはぶっと吹き出しそうになったが、何とか堪えた。


「そんな事をしませんよ!」


 しませんと言ったけれど、本当は菜々子さんにその気があって、しようとしていたんだよな、エッチを。

 そこで僕は光さんの事が心配になり、あれ以来エイトマンは来ているのか聞いてみた。


「エイトマン?来ているわよ。

 全くこそこそしていないで、堂々と私の前に現れればいいのにね」


「もしかして、光さん、エイトマンの事が好きなの?」


 すると光さんは吹き出しそうになって、口元をハンカチで拭いて「そ、そんな訳ないでしょ」と狼狽えながら言う。


 その狼狽えぶりを見ていると、光さんはもしかして菜々子さんの言う通り、エイトマンの事をまんざらでもないような感じがした。


 光さんがあのエイトマンにとられるなんてちょっと切なくて複雑な気持ちになった。


 でも僕には菜々子さんと言う素敵な女性がいる。


 食事も終わって、光さんは帰ると思ったら、僕の部屋にあるギターに目を付けて、「あっ君ギター弾けるようになった?」


「はい。禁じられた遊びを弾けるようにはなったんですが最近忙しくて、ギターをほとんど弾いていません」


「なら、禁じられた遊びを弾いて見せてよ。ブランクはあってうまく弾けなくても良いから」


「じゃあ、やってみます」


 菜々子さんと光さんは僕に目を向けて何か緊張する。

 とりあえず下手でも良いから弾けと言っているのだ。

 弾いてみよう。


 僕は禁じられた遊びをブランクにも関わらずスムーズに弾けるようになった。


「凄いじゃないあっ君」


 そこで僕のライバル兼恋人の菜々子さんが「私にだって弾けるわよ」


「ちょっと菜々子さんは病み上がりなんだから無理しない出よ」


 僕が言うと威圧的な視線を向けてきて、かなり怖かったので「どうぞ弾いてください」


 菜々子さんが弾く禁じられた遊びはかなりの腕前で僕と同じようにうまく弾けていた。


「凄い凄い菜々子ちゃん」


 拍手を送る光さん。僕もつられて拍手をした。


 菜々子さんが禁じられた遊びを弾いた後、何だこの胸が締め付けられるような感覚は?

 そうだ。菜々子さんは恋人兼僕のライバルなのだ。

 僕も負けていられない。


「二人共、来週の月曜日に錦糸町の駅前で引き語りしない?」


「えっ?人前で歌うんですか?」


「そうよ。その時には麻美ちゃんや笹森君も来るからさあ」


「でも僕は人前で歌うのは苦手で・・・」


「あたしやりたい」


 と挙手をしたのが菜々子さんだった。


「決まりね、あっ君は?」


 菜々子さんも参加するのか?僕も負けていられない。


「僕もやります」


「そう来なくっちゃね」


 菜々子さんを見ると、目があって、菜々子さんの目から火花が散るように僕も負けてられずに菜々子さんに鋭い視線を向けた。


 まあライバル兼恋人同士も良いが、今は菜々子さんとは休戦であり「菜々子さん。病み上がりなんだから、僕のベットの上に眠っていてよ。光さんのペペロンチーノを食べたんでしょ」


「何を言っているの?これからあたしはギターの練習と小説を書き上げたい」


 僕はカチンと来て、「病み上がりなんだから、無理はするな!!」


 と大声で菜々子さんに向かって怒鳴りつけた。

 僕は菜々子さんの事を思って怒鳴ったんだ。


 すると光さんは「ちょっとあっ君言い過ぎ何じゃない?」


「これぐらい言わないと菜々子さんには通じないんですよ」


 菜々子さんを見ると泣きそうな顔をして怒鳴った僕もこればかりはやりすぎだと、反省させられる。


 だが闘志を燃やした菜々子さんは「悪かったわよ、とりあえずあたしは家に帰った方が良いかもしれないね」


 そうだった。菜々子さんには帰る場所があるし、あまり僕の家にいると、菜々子さんの唯一の母親も心配するだろう。

 だからそれには賛成して「分かった。僕が菜々子さんの家まで送るよ」と言った。


「じゃあ、遠慮なく送って貰おうかしら」


 菜々子さんにしては意外な返事だった。


「じゃあ、私もつきあってあげる」


 と光さん。


 僕には見える。

 病み上がりだが菜々子さんの底知れぬ闘志が、それで無理をしてまた風邪をこじらせないかちょっと心配だった。


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