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エイトマン再び

 新聞配達の仕事が終わり、僕と菜々子さんは「また、明日」と言って、それぞれの帰りの分岐点にさしかかり帰っていった。


 菜々子さんは言っていた。『小説がんばろうね』って。


 僕は『うん』と言って、光さんを踏み台にして、何か心にチクリとくる心配だけはされなかった。


 僕は小説を書きたい。でもなぜか、先ほど図書館にて、いつも女神様スマイルの光さんは僕達が小説を書いていると知ったら、その表情を曇らせた。


 菜々子さんはそれに気がついているだろうか。


 小説の続きを描こうとすると胸のあたりがチクリとして描ける状態ではなかった。


 こんな事、菜々子さんに相談しようとしたが、何か話がややこしくなりそうなので、やめておいた。


 だったら光さん本人に聞いてみようとしたが、図書館の女神様事光さんはきっと嫉妬しながらも僕達を応援してくれる。


 僕達は自由だ。でも光さんを踏み台にしているみたいで、何か快く小説を描く事が出来なかった。


 僕は床に倒れ込み、考えごとをしてしまう。

 先ほどの僕達が小説を描いている事を知った時の光さんの苦笑いはやっぱり嫉妬を表していたように感じる。


 本当に僕達は小説を書いて良いのだろうか?


 うわーまた悩んでしまう。

 僕はその悩み事に殺されそうになる。


 とにかく明日も早いんだ。早く寝て、早く起きて、またしんどいが新聞配達の仕事に行かなければいけない。






 ******   ******





 明朝、僕は朝起きて新聞配達の仕事に向かう。

 シャワーを浴びて、ベーコンエッグとパンを焼いて、食べた。

 でも悩み事一つ僕の中で蟠っていた。


 配達所に到着して、菜々子さんはもうすでに到着していて、菜々子さんの目がぎらりと光るように僕を見つめてきた。


「おはよう。また、何か悩み事?」


「おはよう。菜々子さんにはかなわないなあ」


「とにかくその悩み事は後でちゃんと聞くから、さっさと仕事を終わらせましょう」


 新聞一部一部にチラシを織り交ぜて、新聞を自転車につぎ込んで新聞を配達しに行く。

 菜々子さんに何て言えば良いのだろう。

 そうだ。小説で息詰まったと言えば信じてくれるかも。

 その手が合ったか。


 新聞配達を終えて、今日は僕が菜々子さんよりも先に到着して、賭は僕の勝ちだ。


 五分後に菜々子さんは到着して、「今日は僕の勝ちだね」


「何を言っているのよ。今日の賭は無効よ」


「えっ?どうして?」


「あんたが悩むとこちらまで影響が出てくるじゃない。だから無効」


 横暴すぎる。


 朝の新聞配達を終えて、配達所を出て、自転車で帰りながら、話をした。


「ねえ、さっきから何を悩んでいたの?」


「いや、小説でいきなりスランプになってしまって」


「それは嘘、本当の事を言わないと、この川からつき落とすわよ」


 本当にやりそうで怖かったので僕は正直に話すことにした。

 そして、僕は悩んでいることを光さんに伝えた。


「あんたまさかそんな事で悩んでいたの?」


「そんな事って、僕と菜々子さんは光さんを踏み台にしようとしたんだよ」


「踏み台とは言わないわよ、そういう事」


「だって、僕達が小説を書くって言ったら、光さん、凄く嫉妬した表情を見せてきたんだよ」


「あたしにはそういう風には見えなかったけれど」


「じゃあ、今日、直接本人に聞いてみよう」


「そんな事本人に聞いたって仕方が無いことだわ」


「どうして菜々子さんは仕方がないって言い切れるの?」


「だって、本当の事なんだもん。光さんが私達に嫉妬したからって、私達がしている事に口出しする義務は無いわ」


「それじゃあ、光さんがかわいそうだよ」


「かわいそうじゃない。そういう風にかわいそうだと思うアツジがかわいそうだよ」


「僕がかわいそう!?」


 憤る口調で僕は菜々子さんを罵った。


 すると、菜々子さんは自転車を止めて「あんたあたしとやるの!?」


「女の子の菜々子さんに暴力なんて振れないよ」


「あんたぐらい泣かすの屁でもないんだけれども」


 そんな事を言われて、僕の腹は煮えくり返りそうになって、横っ面を叩いてしまおうと思ったが、相手は女の子だ。そんな事は出来ない。

 だから僕はいったん深呼吸をして、その煮え返りそうな怒りをこらえた。


 何を見て、そう思ったのか?菜々子さんは「あんたらしいね」と意味深な事を言っていた。


 とにかく僕はもう、誰かが傷つく姿を見たくない。

 僕達に嫉妬してしまった光さんに謝っておかないとな。


 とりあえず、怒りをこらえて、菜々子さんと別れて、再び、図書館に集合となった。


 図書館に到着すると、光さんが自動ドアの前で僕達に笑顔で挨拶をくれる。


 そこで菜々子さんは「光さん。アツジが話があるみたいですよ」


「なあに、あっ君」


 光さんの女神様スマイルが発動されている。

 そんな輝かしい笑顔に、僕達に嫉妬の微塵も感じられていなかった。


 うわーいざとなると何も言えなかった。


 僕は目がうつろんで、光さんの顔もまともに見れなかった。


 そこで菜々子さんは「光さん、アツジが光さんが抱いている小説家の夢を真似して、書いていたら、光さんが嫉妬していると、悩んでいたみたい何ですよ」


 すると光さんは「フフッ」と笑って「確かに嫉妬したわ、でも私にライバルが出来るなんてうれしかったけれどな。菜々子ちゃんとあっ君の関係に私も混ぜてもらえて」


「本当に嫉妬していたんですか?」


 驚く菜々子さん。


「ええ、したわよ。でもあなた達にやりたいことが見つかって私は嬉しかったけれどな。

 それに私はあなた達みたいな人たちに私の小説を読んでもらって、夢と希望を持って生きて欲しいって言うのが私の夢なんだけれどな。

 でもあなた達には私の小説を読んでもらわなくても私の思いが伝わって嬉しかったんだけどな」


 そこで僕が「じゃあ、今度光さんの小説読ませてくださいよ」


「えーっ!!?恥ずかしいよ」


「僕、光さんの小説を見てみたい」


「あ、あたしも!」


 菜々子さん。


「じゃあ、あっ君と菜々子ちゃんの小説が出来上がったら、お互いに見せあいましょう」


「はい。光さんは小説は書いているんですか?この忙しい日々の中」


 僕が聞くと光さんは「ええ、何冊か書いているわよ。賞にも応募したけれど、すべて一時審査で落選よ。まだまだ私には修行が足りないって感じ。

 でもいつかは賞を取って、出版して、あなた達みたいな子達に夢と希望を持ってもらいたいなと思って私は書いている」


 光さんは意気揚々にそれでも諦めないその姿勢がかっこ良く見えた。


 僕達も負けていられないと菜々子さんの目が合って、菜々子さんの瞳にはギラリと光る何かが見えた。


「それとあなた達、勉強もおろそかにしちゃダメよ」


 光さんが僕達に忠告する。


「「はい」」


 と僕と菜々子さんの返事がハモって、その事で僕達は笑ってしまった。


 さて図書館の入り口玄関が開かれる。

 まるで僕と菜々子さんの勝負の幕が切って落とされるような感じで、心が燃え上がるように今にも小説を書きたいと意欲が満ちてくる。


 僕と菜々子さんは早速勉強室に行き、並んでいる机の席に座り、僕と菜々子さんの闘志がぶつかりあっているような感じで、小説を書き始めた。


 凄いやる気に満ちてくる。

 この僕が書いている小説は面白いかは僕が決めるのではなく、決めるのは最初に見せる光さんと菜々子さんだ。

 そう昨日YouTubeで小説の書き方講座を見たら、本当に面白い小説を書くには自分が決めるのではなくて、人に見せなければ分からないと言っていた。

 それでライバルでもあり、恋人でもある菜々子さんに負けるわけには行かない。ついでに光さんも入れておくしかない。


 何となく光さんの方を見てみると、光さんを見ている何かが感じた。

 何だ?この気配は?

 見渡して見ると、光さんのストーカーであり、以前そのストーカーがスマホで僕達が小柳に痛めつけられてレイプされそうになった所を撮ってくれていた人だ。

 僕達はそのストーカーをエイトマンと呼んでいる。


「菜々子さん。菜々子さん」


 図書館なので大声は出せずに、小声で菜々子さんに呼びかける。


「何よ、今良いところ何だから」


「それどころじゃないよ」


「じゃあ、何?」


「エイトマンが現れたよ」


「何ですって!」


 エイトマンは長袖の緑色のシャツの背中に8と描かれている服を着て、それで僕達は彼の事をエイトマンと呼んでいる。


 エイトマンは相変わらずにスマホで司書の仕事をしている光さんに向けて動画を撮っている様子だ。


『早く止めないと』と思って小説を一時中断して光さんの方に向かっていった。


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