妹のカレーライス
胸の鼓動を二人で互いに感じ合い、ゆっくりと互いに離れた。
何だろう。こうして菜々子さんと抱き合うと心の底から未知なるパワーが漲ってくる。
「そろそろ新聞配達の仕事だね」
と菜々子さんは言う。
「じゃあ一丁頑張りますか!」
菜々子さんがいなければ、僕は不安であった一人暮らしなんて出来なかっただろう。
父親にも母親にも形だけの愛情を受けて僕は生きたくなかったのだ。
そんな僕に光さんが「覚悟があるなら一人暮らししてみない?」と言われて僕は一人暮らしをしている。
僕は色々な人にもらってばかり入る。
いつかその思いを返していきたいと思っている。
僕と菜々子さんは光さんに挨拶をして、新聞配達の仕事へと行った。
僕も菜々子さんも新聞配達の仕事は大変だけど、その時もライバルになるんだよな。
早く仕事を終えた方がジュースおごりってね。
そして仕事も終えて僕達は互いに同僚のみんなに挨拶をして、帰っていくのだ。
「今日は菜々子さんが負けたから、ジュース菜々子さんのおごりでね」
菜々子さんは舌打ちをしつつ、自動販売機へと向かった。
すると菜々子さんは暖かいお汁粉を選んで、僕に差し出した。
「ちょっと僕お汁粉なんて言っていないよ」
「あら、そう、飲まないなら飲まないで結構だけど」
「飲むよ」
お汁粉を受け取った。
負けると嫌がらせをしてくる菜々子さん、でも憎めない。
僕は文句も言えず、お汁粉を飲んだ。
何だかんだ言っても今の季節にはちょうど良くおいしかった。
菜々子さんに「おいしい?」と言われて「うん。おいしいよ」と素直に返答すると菜々子さんは、「今度あたしが負けたら、あんたはブラックコーヒーね」と言われて「そんな勘弁してよ。ブラックは飲めないんだよ」すると菜々子さんは微笑んだ。
その菜々子さんの微笑みが今僕達の幸せを呼び寄せている。
時計は十九時を回っている。
「あたしもそろそろ帰って、お母さんの食事の手伝いをしなきゃだから、帰るね」
と言って、自転車をこいで自宅へと帰っていった。
僕もそろそろ買い物をして帰ろうか。
するとスマホに着信が入り、妹の桃子だった。
「お兄ちゃん。今日はあたしが料理を作りに行ってあげようか?」
「ええっ?良いの!?」
「お兄ちゃん何が食べたい?」
「やっぱり今日はカレーでしょ」
「またカレー!?」
「だって桃子のカレーおいしんだもん」
「よし分かった、今からお兄ちゃんのところに行くから、待っていてね」
それで通話は途切れる。
今日は何て良い日なのだろう。菜々子さんと初めてキスして、それに帰ったら僕の大好きな妹の桃子特性カレーが食べられるなんて。
このような事が幸せなんだよね。
帰ると、妹が台所でカレーを作っていた。
「お兄ちゃんお帰り」
「ただいま桃子」
「お兄ちゃん、どうしたの?何か良いことでもあったんでしょ」
「まあな」
「何があったか教えてよ」
「別にそんな事はどうでも良い事じゃないか、こうして桃子がカレーを作りに来てくれる事が良い事だよ」
「そうなの、なら、毎日とは言わないけれど、度々お兄ちゃんにカレーを作りに言ってあげるね。それに桃子、ハンバーグを作れるようになったんだよ」
「そうか、桃子、今度お兄ちゃんの為にハンバーグも作りに来てくれよ」
「了解です」
と桃子は敬礼の挨拶をする。
父親や母親は来てくれないけれど、こうして僕の唯一の家族である桃子は僕を心配して来てくれる。
父親と母親は世間体しか考えていないエゴイストだ。
そんな連中に僕は世話になりたくない。
でも桃子は別だ。
こんな僕でも愛嬌を振りまいて、ご飯を作りに来てくれる。
でも桃子と菜々子さんを会わせた時、一度だけ、二人は不機嫌になった事もあった。
その時僕は菜々子さんに『このシスコン』と言うレッテルを貼られてしまった。
僕は妹に、「何か手伝えることない?」と言ったら「お兄ちゃんは座って待っていて」と言われた。
ニュース番組を見て、待っていると、カレーの香ばしい匂いが漂ってきて、食欲がそそられる。
ニュースは中学生がいじめられて自殺してしまった報道が流れていた。
こんなニュースを見ると、その自殺した生徒も学校が嫌なら図書館にでも行けば良いのにって思ってしまう。
でもその先生も親も、学校に強制的に行かせるようにしているのだろう。
どうしていじめ殺されてしまうまで学校に行かなきゃいけないのか?
そういえば、ちょっと前、英明で、ある高校生が入ってきた。
その子もいじめられて、先生に自殺するほど辛いと行ったら、すぐに退学処分を受けてしまい、行き場をなくした人がいたっけ。
でもその人は英明に来て良かったと言っている。
その人の学校側は、自殺されたら、学校のメンツにかかってくるからって退学にするのは滑稽だと思った。
僕の場合は大人しくしていたのに小柳達にいじめの的になってしまった。
でも小柳は鑑別に入って、出てきたら、逆恨みされたらと思うと怖くなってくる。
でも僕は一人じゃない。
こうして、光さんや桃子に菜々子さんまで入る。
それとこの時間、どうしてニュースは残酷な報道しかしないのか?
ストーカーにあった女性が殺されたなど、刑務所を脱走した人間に懲罰が加えられたなど、視聴者を不安がらせる内容しか報道されていない。
色々と考えていたら、カレーは出来上がり、妹はカレーとツナサラダを盛って居間に持ってきた。
「お兄ちゃん出来たよ」
「サンキューサンキュー」
妹のカレーおいしいんだよな。
妹の桃子も同じようにカレーを盛って、共に食べることになった。
「「いただきます」」
二人で手を合わせて、最初は箸を取り野菜から食べる。
桃子も同じように箸を取り、野菜から食べる。
そして桃子特性のカレーをスプーンを取り食した。
「やっぱり桃子のカレーは世界一だな」
「そんな世界一だなんて大げさだよ」
「本当においしいよ」
すると桃子は目つきが変わり、「あの菜々子さんって人何なの?」
「あれ、言ってなかったっけ、お兄ちゃんのこれだよ」
と小指を突き刺して、恋人をイメージさせた。
すると妹は驚いて「嘘、お兄ちゃんの彼女だったの?」
「そうだよ、お兄ちゃんの彼女だよ」
「桃子以外の女の子がお兄ちゃんの彼女だったなんて、しかもあの目つきの悪い、菜々子さん?」
「桃子目つきが悪いだなんて失礼だろう」
「失礼じゃないよ。あんな女とは縁を切っちゃいなよ。何かあの菜々子さんと言う人を見た時、あたし怖かったもん」
「桃子、菜々子さんの事を知りもしないのに、そういう事は言わないの?」
と僕は注意した。
「あたしは認めないから」
そういってカレーをいそいそと食べて、荷物を持って出ていこうとしたところ、僕は「もうちょっと、ゆっくりしていけば良いじゃないか」
「お兄ちゃんの女ったらし」
と僕に罵り、妹は作ったカレーを残して帰ってしまった。
そんなに菜々子さんの事が気に入らないのか?
菜々子さんは良い人なのになあ。
何でお兄ちゃんである僕の彼女を認めてくれないのか?
菜々子さんいつもきつい顔をしているのは、周りの人に同情されたくないからだ。
でも心は純粋で、僕以外の人には笑顔を振りまいているが、僕にはその笑顔を滅多に見せてはくれない。
菜々子さんは僕にライバル意識を持った恋人なんだよね。
ライバルって言ったら敵じゃんって言うけれど、恋人同士って菜々子さん言っていたけれど、そういった殺伐とした雰囲気も必要だと言っていたっけ。
桃子も初めて菜々子さんに会った時、ちょっぴりビビっていたっけ。
でもその内、桃子も菜々子さんの本当の優しさを知って、僕と菜々子さんの関係を認めてくれるだろう。
それにしてもカレーはおいしいが、一人で食べていると、何かわびしい。
たまにだけど、菜々子さんも料理を振る舞ってくれるときがあるが、菜々子さんの肉じゃがやおでんおいしかったな~。




