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いじめを受けて良かったと思っている光さん

「じゃあ、あっ君、お姉さんがただで食べられるところを紹介しよう」


 とりあえずちょっと悪いと思いながら僕は光さんにつれられて、とある商店街に到着した。


 そのパン屋に向かおうとしているところ、光さんと話し合った。


「君、ニュースを見て図書館に来たって言っていたわよね」


「はい」


「あれは私がテレビ局に言った言葉だったんだ」


「えー!そうなの!?」


「そうよ」


 光さんを見ると、まだ十代後半にしか見えない。


「光さんはいくつなんですか?」


「私は十六歳、通信制の高校に通いながら図書館の本の整理をしてアルバイトをしているの」


 通信制の高校かあ、聞いたことはあるが、毎日レポートを家でやり、学校は二週間か一週間に一度に行くだけだと。

 光さんの立場がうらやましいとさえ僕は思った。


 そしてパン屋に到着して、パン屋の裏側に回り、スマホで何か連絡している。


「あっ敬子、いつものお願いできないかな?

 あっ悪いね、今日は二人前で」


「いったいこんなところまで来て何をしようとしているんですか?」


「喜びなさい、今からあっ君をお腹いっぱいにして上げるんだから」


 裏口のドアが開いて両手にパンを抱えた光さんと同じ年頃の女の子が現れた。


「お待たせ」


「あっ敬子いつも悪いわね」


「まあ良いよ、どうせ失敗したパンは捨てられる運命にあるのだから」


 敬子さんとやらが僕の顔を見て、「君は?」いきなり女の子に呼ばれて僕は「あっえーと」と言っている間に光さんが「この子あっ君」


「へえーかわいい子だね。もしかしてあんたがニュースで言った事を聞いて来た子?」


「相変わらず察しが良いわね。そうよ。この子は私がニュース番組に訴えた事で来た子?」


「他にはいないの?」


「今のところはこの子一人だけだからね」


「まあ、あなたが人が良いというかとにかく程々にしなさいよ」


「わかっているよ」


「じゃあ私は仕事があるから。じゃあね」


「うん。ありがとバイバイ。仕事頑張ってね」


 そういって敬子さんは仕事に戻っていった。


「ほら、おいしそうでしょ」


 袋の中にパンがぎっしりと入っている。


「おいしそうですけれど、僕こんなに食べられませんよ」


「大丈夫、残ったら私の夕食に回すから」


 僕と光さんは図書館の前に設置されている公園に向かった。

 そこでベンチでパンを食べることになった。


「ほら、あっ君チョココロネおいしいよ」


 と言われて僕は受け取って食べた。


「おいしい」


「私もさあ、生活がギリギリなんだ。やばいときは敬子に助けられてばかりよ」


 そこで僕は疑問に思うことを光さんに言った。


「どうして僕のような不登校にこんな事までしてくれるの?」


「ん~ほおっておけないからかな?あっ君って学校が嫌で図書館に来たのでしょ」


「そうですけれど」


「敬語は良いよ。タメ口で喋って何か落ち着かないから」


「うん。じゃあ、そうだけど」


「私はさあ、中学の時、いじめにあってさ」


「えっ?光さんもそうなの?」


「うん。そう。便器で洗ったモップを顔面につけられたり、蝉の抜け殻を口にほおり込まれたりして、仕舞には私が進学校を受けるつもりだったんだけど、いじめる連中は私に受験日の日に、絡まれて、試験を受けさせて貰えなかったわ」


「それで親や先生は?」


「先生はいじめを見てみない振りをして、親には、通信制の高校に行くと言ったら家を追い出されてしまってね」


 笑い事でもないのに、光さんは明るい声で僕につらい経験を語りかけている。


「でも私は今の生活が楽しいよ。いじめてくれた人に感謝しても良いと言っても過言じゃないわ」


 光さんは明るい笑顔で僕に言った。

 僕はそんなかわいくて前向きな光さんがうらやましいと思ったし、胸が張り裂けそうな程の鼓動が脈をうった。

 何て素敵な人なのだろうと。


 お昼ご飯も済んで、光さんは司書の仕事に戻って、僕はドラゴンボールの続きを読み続けた。


 本当に夢中になれるほどの面白さだ。


 そんな時、夢中で読んでいると、僕は今日は学校に行かなかった事に恐怖した。


 もしこの事が父親にばれたら、僕は大目玉を喰らってしまう。

 今朝お皿でコメカミにつけられた痛みがうずきだした。


 本当にどうしよう?


 僕は学校や家には帰りたくない。

 いや帰る場所がない。

 僕はどうなってしまうのだろう。


 光さんの方を見てみると、光さんは子供達に紙芝居を披露していた。


 僕はちらりと遠くで見ていたが、光さんが輝いて見える。


 学校に行かずに図書館に来たのは良いが、僕は帰ったら父親に大目玉を喰らってしまう。


 そう思うと急にお腹が痛くなって涙がこぼれ落ちそうだった。

 泣いている姿なんて見られたくないので、僕はトイレに言って泣いていた。

 そこで僕は後悔してしまうんだ。

 図書館に行かずに学校に行けば良かったと。

 でも学校に行けば雑巾の水を飲まされたりして、殴る蹴るの繰り返しに僕は耐えなきゃいけない。

 涙が止まらなかった。

 僕はどうすれば良いのだ。


 トイレにどれくらい居たのか分からないが、僕は泣いていた。

 すると掃除のおばさんが、「ちょっとあなた大丈夫」長い間トイレに居たせいか、こんな僕の事を心配してくれている。


 僕は涙を拭ってトイレから出て「大丈夫です」とあまり迷惑はかけられないので、そういって、トイレから出て図書館から出た。


 時計は午後六時を示していた。


 図書館は天国だった。


 でもこれから僕は地獄に行かなくてはいけない。


 僕は制服を着たまま、家の前まで来て、そこで右往左往していた。


 帰りたくない帰りたくない。

 帰れば父親の大目玉が待っている。


 家の辺りをうろうろして、今どれくらいの時間が経ったのか分からないが、僕は歩き続けていた。


 だんだん歩くのもつらくなり、お腹が痛くなって、道ばたで嘔吐おうとしてしまった。


 こんな事になるなら、図書館に行かず、学校で潔くいじめを受けて居れば良かったのかもしれない。

 光さんのせいだ。

 いや光さんのせいじゃない。

 僕が悪いんだ。

 図書館で働いている光さんに相談していれば良かったのか?でも光さんが迷惑をかけてしまうだろう。


 スマホを見ると家の電話番号でうめ尽くされている。

 そんな時電話が鳴り響いた。


 光さんからだ。


 そういえば食事をしている時、スマホの連絡先を交換したんだっけ。


「もしもし」


「あっ君?今家?」


 と聞かれて、僕の頭の中で考え事をして、家と言えば、光さんは安心するだろうし、そうじゃなかったら、光さんに迷惑をかけてしまう。


「どうしたの?あっ君、答えなさいよ」


 そして僕は思わず言ってしまった。「助けてください」と。


「今、どこに居るの?」


「いえ・・の付近・・・を右往左往して・・・います」


 情けなくも涙を流しながら言った。


「なるほど、学校に行かなかった事が原因で家に戻れない状況なのね」


「はい」


「今から私が行って上げるから待っていてくれるかな?」


「そんな、迷惑ですよ。僕なんかの為に」


「でも帰りたくないんでしょ。私があっ君の親に事情を話して上げるからさ」


「どうして?」


「どうしてって?」


「どうして今日あったばかりの僕にそこまでしてくれるの?」


「ニュースで見たんでしょ。図書館にいらっしゃいと、それは私が言ったことだから私の責任でもあるから。そこで待っていて、スマホの電源を切らずにGPS機能であなたの居場所を特定しているから」


「じゃあ、お願いします」


「待っていてね今から行くからね」


 そういって通話が途切れた。


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