涙で明日が見えない!
図書館ではなく英明塾に行った方が良いのかな?
そんな風に葛藤するぐらいなら、英明塾に行った方がいいだろう。
光さんに「僕英明塾に行くよ」と言った。
「あらそう、その前に今日もパンをご馳走してあげるけれどどうかな?」
「え、良いんですか?」
「もちろんよ」
今気がついたんだけど、僕が図書館に来たのは光さんに会いたかったからなんだなと言う事が分かった。
今日も商店街のパン屋さんに向かい敬子さんにパンを分けて貰った。
失敗したパンだけに形はイビツだけど、とてもおいしい。
光さんにいつものようにお昼をご馳走になり、光さんに英明塾に行くと言って僕は英明塾に自転車で向かった。
英明に到着すると、英明塾の建物の前でボール遊びをしている麻美ちゃん達を見かけた。
「こんにちは」
すると麻美ちゃんは笑顔で「こんにちは」と挨拶をしてくれた。
その他の長塚君に笹森君も同じように挨拶をしてくれた。
僕は麻美ちゃんが笑顔で挨拶をくれた事に安堵の吐息を漏らした。
以前、過去の事を思い出させて泣かせてしまったからな。
ここには色々な人たちがいる。
過去の事を思い出すだけで泣いてしまう人や、菜々子さん見たく勉強に没頭する人や、それにみんな優しい。
僕のうってつけの場所がここだ。
そこで麻美ちゃんが「あっ君もドッチボールしない?」と誘われて少しだけ参加した。
本当に楽しいところだ。
二十分くらいドッチボールに参加して、勉強室に入ると、菜々子さんはいた。
「こんにちわ」
と挨拶をすると「午前中何をしていたの?」
「図書館で勉強していた」
差し支えないので僕は正直に言った。
「フーン、あなた光さんが目当てで図書館に通っているでしょ。それにそのアコーステックギターの鞄を見ると禁じられた遊びの練習の成果を見て貰いたいと思っているんでしょ」
なぜそんな事が分かるのだ?
「狼狽えているところを見ると図星みたいね」
「仮にそうだとしても、菜々子さんには関係ないじゃないですか」
「関係なくない、光さんは私のお姉さん的な存在だから」
「だから何なの?」
「光さんは誰にでも優しいの、その光さんに司書の仕事の邪魔をしているんじゃないか私は心配なの」
「別に僕はそんな事をしていないよ。光さんがいると・・・」
「光さんがいると?」
「勉強頑張れって言われているみたいで、勉強を頑張れるからだよ」
「何よそれ、あなた光お姉さんが大好きなんでしょ」
そう言われて僕は菜々子さんに追いつめられてしまった。確かに僕は光さんの事が好きだが、「そんな事菜々子さんには関係ないじゃん」
すると菜々子さんは嫌らしい目つきで僕を見て「知らないと思うけれど、光さんには彼氏がいるよ」
「えっ!!!」
僕は驚いてしまう。それにショックを受けてしまう。
「あら、相当ショックだったかしら?」
嫌みたっぷりの笑みを浮かべて僕に言う菜々子さん。
気がつけば僕の呼吸が少し乱れていた。
死にたいとさえ思っていた。
光さんに彼氏がいたなんて聞いて僕はどうやら光さんの事が好きだった事に気がつく。
ひどくショックを受けた僕は、勉強室を飛び出して、乗ってきた自転車に乗り、全速力でこいで、いつの間にか人通りの少ない河川敷にたどり着き、僕は大声を上げた。
「何なんだよ畜生おおおおお!!!」
瞳には大量の涙が溢れて、叫んでいた。
「僕は光さんに何を期待していたのだろう。僕みたいないじめられっこが、光さんが好きになる分けないよね。僕はバカだ。クズだ」
拭っても拭っても涙が止まらない。
心が張り裂けそうだった。
いくら叫んでも光さんにはこの思いは伝えられない。
失恋がこんな苦しい事なんて僕は始めて知った。
これはいじめられるよりも苦しいことだ。
光さんに彼氏が入ることに、僕はショックが大きすぎて、止めどなく涙が流れてくる。
何もする気にもなれなかった。
光さんに彼氏が入ることを想像するだけで涙が止まらなかった。
明日から図書館には行けないな。
それよりもこの胸の傷、何とかならないだろうか?
以前よりもマンガなんかで失恋した様子を見て、泣いていた主人公がいた。
その主人公は涙が止まらずに苦しみもがいていた。
その泣きたい意味がようやく分かった気がする。
誰もいない河川敷で隣町が見渡せる。
何だろう、こうしてぼんやりと過ごしていると、心が落ち着いてきた。
ただボーッとしているだけしか出来なかった。
ただボーッとしているだけで、僕は何も考えずに済む。
いつまでもこうしていたい。
そうすれば光さんに彼氏がいた事を考えずに済む。
真実は残酷だ。
その残酷な真実をこの胸に焼き付いて離れてくれない。
僕はどうすれば良いのだ。
今なら死ぬことさえ憧れてしまう状況だ。
本当に死んでしまおうか?
僕は河川敷を跨る橋の前で飛び込もうとしたが、なぜかそんな勇気はなかった。
死にたいのに死ねない。
じゃあ、生きるしかないのか?
どうやら死ぬことを諦めるしかない。
もし僕が死んだら、悲しむ人がいる。
それは紛れもない事実だ。
光さんに彼氏がいることは仕方がないことなんだ。
光さんが僕の恋愛対象になるはずがない。
もし僕がこの橋から飛び降りたら、死んでしまい、菜々子は喜ぶかもしれないが、光さんがその真実を知ったら、光さんを悲しませる事になってしまう。
だから死ぬのはやめよう。
それにしても、この橋から見えるうっすらとした富士山が見渡せた。
その富士山をじっと見つめていると、僕は悲しみに翻弄されることはなくなる。
このまま家には帰りたくない。
帰ったら僕は悲しみに翻弄されて、下手をすればリストカット自殺してしまうかもしれない。
気がつけば空は夕焼けに染まっていた。
今何時だろう?
まだ残暑が残っているこの季節で僕はこのまま眠ってしまいたい。
でもそろそろ帰らないと家族が心配する。
だから僕は自転車に跨り、家路へと自転車をこいだ。
親に心配されるとやっかいだから、僕は元気良く、「ただいま」と挨拶をした。
「お帰り、お兄ちゃん」
妹の桃子が僕の帰りを待っていてくれた。
「お兄ちゃん、フリースクールはどう?」
フリースクールと聞いて菜々子の嫌見たらしい笑顔がよぎったが僕は「楽しいよ」と嘘を言って置いた。
「あたしもフリースクールに行って良いかな?」
「桃子は学校があるだろ」
「学校が合っても放課後なら大丈夫だから」
「好きにすれば良いよ」
と言って、僕は部屋の中へと入っていった。
うわー部屋の中に閉じこもっていると、やはり思い出してしまう。
とにかく思い出さないように、パソコンを起動させ、ユーチューブで癒しの音楽を流した。
何だろう?こうしていると、気持ちがリラックスしてくる。
本当に心が癒されていく。
気持ちのいい音楽だ。
先程までは涙で明日が見えなかったが、明日が見えてきた気さえしてきた。
こんな良い音楽、空腹さえ忘れてしまうくらい気持ちが良い。
よし明日、図書館には行けないけれど、フリースクール英明塾には行こうとさえ考えられるようになってきた。
そうだ。光さんは僕の憧れにとどめて置けばいい。
失恋の傷はまだ癒えていないけれども、僕は明日英明塾に行こうと思う。
菜々子に残酷な真実に突きつけらて、おびえている場合じゃない。
そう思ってギターを取り出して、光さんの十八番の禁じられた遊びの練習をした。
まだまだ下手だけど、とにかく練習したい。
そうして僕の失恋の傷はまだ癒えていないが、明日が見えてきた気さえしてきた。




