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1話 不遇の令嬢




ー学園生活中は元婚約者(エドワード)ヒロイン(アリシア)が近くでイチャついていてもガン無視してたのに処刑ルートとか何これ酷い…。


前世が日本人、高城綾奈(たかじょう あやな)だった頃の記憶を持つ転生者であるリリゼットは処刑執行を3日に控え暗くカビ臭い独房で物思いに(ふけ)っていた。


元婚約者のエドワードとは親同士が7才になってすぐ決めたもの、リリゼットは元々彼に対して恋愛感情は一切持ち合わせていなかったので婚約者(リリゼット)がいるエドワードに対して男爵令嬢アリシアが行った貴族令嬢がしてはならないマナー違反をしても咎めるどころかスルーして学園生活を過ごしていた。


それにも関わらず卒業パーティーでのエドワードから告げられた婚約破棄の理由、アリシアへの暗殺未遂全てにおいてリリゼットには身に覚えのないものだった。


卒業パーティーの時は彼女の言い分も聞かずエドワードから一方的に強い口調でアリシアを虐めた件を問われた時はまだ近くにリリゼットの味方でいてくれる者がいたのでまだ耐えられたのだが…。


ーまさかお父様まで私を陥れる証言をするなんて…。


『私は娘が暗殺者にアリシア嬢を暗殺するよう依頼しているのを娘の部屋の外で耳にしました…。このような恥さらしはもう私の娘ではありません』


今世では実父にあたるアルガリータ公ことジェームズ・ロゥン・アルガリータの証言により彼女がアリシアを暗殺者に依頼したと周囲に強く印象付け彼女の処刑判決を後押しする結果となった。


ー私の部屋の前?その日だって浮気相手のところに行ってて屋敷にいなかったくせにどうやって私の部屋の前で盗み聞きができたのやら…。


アルガリータ夫妻の夫婦関係は彼女が物心ついた時には既に冷え切っており、元々お互い政略結婚によるものだったのでリリゼットが生まれてすぐ父は浮気三昧、母親は使用人に生まれて間もなかった彼女の世話を丸投げして茶会と夜会にばかり出掛け常に両親は不在、そしてどちらも彼女には無関心だった。


とっくの昔に無関心だということは気付いていたが実父の裏切り、彼女の心は深く傷つき1日1日と近く死の恐怖も加わりもはや限界だった…。



「なんの為に…今まで生きてきたんだろうなぁ…」


彼女は毒薬が入った小瓶を握りながら涙声で呟いた。


彼女が投獄されてからまいにち欠かさずアルガリータ家に長年仕えるメイド長メアリーがクッキーと手紙を差し入れしてくれるのだがこの小瓶はクッキーの小袋が入ったカゴの中にあったものだ。


この日の手紙には『お嬢様が民衆の目の前で斬首されることを我ら使用人達は耐えられません…。この薬を飲めば眠るように命を絶つことができます…』と(つづ)られていた。


外部からの差し入れには看守の検査があるはずだがそれを通り抜けたということは余程リリゼットの死因関係なく彼女の死は周囲から望まれているのだろう。


彼女は両親から愛情は注がれなかったがその分アルガリータ家の使用人達は彼女と腹違いの弟グレンを可愛がってくれた。


ジェームズは彼女が処刑されるよう後押ししたがメアリー達では投獄された彼女を助ける術がないのでせめて苦痛なく死ねるように毒薬をカゴに忍び込ませたのだろうと容易に想像できた。


ーまさか前世と同じ年齢で死ぬとは思わなかったなぁ…。


彼女はフッと自虐的に微笑むと小瓶の中身を一気に飲み干した。


「うくぅっ…!」


薬を飲み干すと猛烈な睡魔に襲われ彼女はそのまま倒れ込んだ。


倒れると徐々に体が痺れ意識も薄れていくのを感じた。


「シロちゃん…守れなくてごめんね…」


シロちゃんとは彼女が契約している白く綿アメのようにふわふわモコモコの毛を纏った小型犬の姿をした精霊獣、拘束された際に別々にされてしまった精霊獣に彼女は謝罪し…。


ーどうせ処刑されるのだったら"彼"に会ってみたかった…。


彼女が『聖天使アリシア』の登場人物で前世から想っていたのはエドワードでも他の攻略キャラでさえなかった。


彼女の想い人は名前もなくたった一言の台詞しか用意されていない人物。


それでも"彼"の声を彼女は深く愛した。


彼女が悪役令嬢リリゼットとしてこれから処刑されるということは既に"彼"は死んでしまっただろう…。


ゲームに登場した"彼"はそのような役割の人物だったからだ。


彼女は名も分からぬ"彼"を想いながら深い眠りについた…。


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