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第七話

 竜宮君が迷宮へ行くと宣言してから三日。

 俺達がダンジョンへ往く竜宮君たちを全力で助けることを知った王国の人達は、その道の職人、技術者達を指導役として派遣してくれた。

 今の今まで、ほぼ独力でスキルを伸ばしてきたクラスメート達だが、ここに専門的な知識を持つ指導役が加わったことで、皆の日常は少しだけ忙しくなった。

 竜宮君たちをサポートする上で、特に気合が入っていたのは和也と料理担当の二人だった。

 『どんな場所でも質の落ちない保存食を作る』という目的のために、食材の調達と調理に明け暮れている。今日なんて食堂で、指導役として来てくれた王国勤めの料理人と熱い議論を交わしていたのを見かけた。

 剣を作ると宣言した錨君も、派遣された指導役の男性と共に作業場に籠って鉄を打っている。

 他の皆も、街へ繰り出し役立つものがないか、見て回ったり、情報を集めてくれている。

 中でも凄いのは優利であった。

 彼は、あれほど嫌がっていたコスプレ衣装に袖を通し、王国内でダンジョンに関する情報収集を行ったのだ。

 優利の見た目に騙され、いらない情報までゲロってしまう人もいたらしいので、流石は女神と同等の容貌を持つ男だと感心した。

 一方で俺は――、


「み、見える! 見えるぞぉ! 空を漂う光輝! 天空の都で沈黙を謡う神の使い! 傍若無人の美しき女神! そのすべては我らが運命を縛り付ける天上の鎖! しかし、抗うことなかれ! 我らの行く末は苦難と悲哀、そして試練に満ちている! だが往くべき未知の先には必ず確かな未来が待ち受けていることだろう!」

「イズミ君、だいじょーぶ?」

「これは神の啓示、その御心! お言葉であぁる! 邪悪なる者よ! 従え、跪け、隷属せよ! 貴様にはそれ以外の選択肢は与えられることはなぁい!」

「あははー、凄いことになっちゃってるねー」


 いつもと変わらずポーションの試飲をしていた。

 訳の分からない言葉を口にしながら、半狂乱になっている俺に美奈はからからと笑い、椎名さんは混乱している。


「イズミさんの目が白くなっちゃってます!? ど、どどどどうしよう美奈ちゃん!?」

「そこにいますは大天使! 天上の監視者よ!」

「な、なななななにを言っているんですか!?」

「その美しき白銀の翼は見間違いようがない!」


 あああ!? 椎名さんを神聖視する俺の心の声がぁぁぁぁ!

 それ以上、口を開くな俺ぇぇぇ!


「あちゃー、これ見えちゃいけないものが見えちゃってるなぁ。真昼ちゃん、多少毒性あってもいいから薬効ポーション飲ませちゃって」

「はい! イズミ君! ごめんなさい!」

「ごぼぉ!?」


 勢いよく俺の口に瓶を突っ込む椎名さん。

 のど元を通り過ぎるお馴染みの感覚に、一瞬だけ視界が明滅した後に、俺はようやく正気に戻る。


「ハッ……お、俺は一体……」

「多分、あれだね。なんか未来予知っぽいことしちゃってたね。しかもとんでもなく物騒な感じの」

「……駄目だ、なにを喋っていたのかは思い出せるが、何を見たのか思い出せない……」

「また凄いポーション作っちゃったなぁー、私」


 こ、こいつ、人の体で遊びやがって……!

 視覚強化ポーション『メガマックス』って名前の時点で嫌な予感はしていたけど、本当に目がMAXになったわ! しかも、中毒度86って効果の割に中々にやばいレベルのやつじゃねーか! 逆によく作れたな、そんなもん!?

 混乱しながら、暗闇に包まれた外の景色を見やると、まるで昼間のように明るく感じる。

 むしろ、視力も強化されているのか、遥か遠くのものまで見通せる。


「ふむふむ、夜目に効くポーションね。常人レベルに薄めたら、暗闇でも多少見えるようになるくらいかな? 本当の効果が発揮できるのはイズミ君ぐらいだね。あ、真昼ちゃん、そのポーションの名前『ハクチューム』にしておいて。イズミ君は、器具の片づけをお願いね」


 ペンにインクをつけて、新ポーションの本に考察を書きこむ美奈。

 椎名さんは、俺が飲んだポーションの入っているフラスコに黒いラベルを張り『ハクチューム』と書き加え、白、黄色、赤、黒、ときっちりと分けられてい木箱に入れた。

 俺もポーション作成に際して使用した、器具の片づけに取り掛かる。

 意外にも思うかもしれないが、美奈は大雑把な性格ではあるが綺麗好きだ。なので、どこになにが置いてあるのか分かるので、片付けしやすい。

 そして、言わずもがな椎名さんも器具を散らかすような人ではない。


「しかし、相変わらず凄い設備だよな。ここ」


 今、俺達のいるポーション作成部屋を見ましながらそう呟く。

 ここにはポーション作成に必要な器具、水道、そして魔道具と呼ばれる俺達の世界で言う電化製品が全て揃っている。


「王国にあったものを分けてくれたらしいよ。ポーションの作り方が記された本とかももらったし、いやぁ、いたれりつくせりだねぇ」

「本当に気前がいいよな。まあ、女神の神託に従っているだけっつったら、それだけかもしないけど」


 ポーションの作成に必要な薬草、薬品も王国側が納入してくれている。

 いずれは薬草の方は、和也の作ったものを利用するのが理想らしいが、それは当分先の話だろう。


「そいいえば、本とかは文字が読めるのか?」

「この世界にきて、三日目くらいには読み書きもできるようになったよ。まあ、本はパラパラーっと流し見しただけだけどね」

「わ、私は、まだ基本の部分を勉強中。私は美奈ちゃんより、その……賢くないから……」


 自信満々な美奈とは変わり、しゅん、と落ち込む椎名さん。

 こんなマッドサイエンティストに天使を比較するわけがない。むしろ、椎名さんがいなかったら俺はきっともっと大変なことになっていただろう。

 ……よく考えたら美奈は転移初日にろくな知識のないまま作ったポーションを俺に飲ませたのか?

 ……あの時のことは忘れよう、うん。


「俺なんて、まだほんの少ししか理解できてないから気にしなくてもいいよ。このアホがおかしいだけだから」

「うん、あ、ありがとう……」


 顔上げ、にこやかにはにかむ椎名さん。


「天使かな?」

「え」


 おっと、いけないまだ薬の効果が残っているようだ。

 思わず口から出てしまった言葉に、ぴしりと固まる椎名さん。

 慌てて謝罪しながら、器具の片づけを再開させる。手早く、器具を整理、テーブルの上の余りの雑草や薬品を処分し、最後に雑巾で拭いて終わらせたとことで、思い出したように美奈が声をかけてくる。


「あ、はいこれ。イズミ君」

「ん、なんだこれ」


 美奈から20㎝ほどの小箱を渡される。

 中を開いてみれば、仕切りで分けられた枠にいくつかの小さなボトルのようなものが入れられている。


「イズミ君専用のポーション。まあ、なにか役に立ちそうなら使ってよ」

「……使う機会なんてなさそうなんだけど……」


 試しに手に取ってみれば『フィジカルブーストX1』というラベルの書かれたボトル。

 他にも『マッスルグレートΣ1』『ネムクナールA』『マックステンションX2』『ハイポーションZ』『オーバードライブダブルX』『ハナツヨクナール』といった控えめに言って頭のおかしいポーションが入れられていた。

 しかも、それら全てが中毒度を薄めさせていない原液という……。


「あ、でも椎名さんのポーションも入ってるぞ」

「うん、ポーションのの効果を打ち消すポーション『薬殺し』とか、中毒度のない回復ポーションの『癒し水』とかを入れておいたんだ」


 なんで日本酒っぽい名前なの? ラベルの文字も無駄に達筆だし……。

 思わぬところで、椎名さんの意外なセンスを発見してしまった。


「え、これでどうしろと」

「それはイズミ君が自分で考えるしかないなぁ。あ、あともう一つ言っておくことがあったよ」

「なんだ?」

「作れるポーションの種類は、今日のやつで打ち切り」

「……え、そうなの!?」


 意外だ。

 こいつならもっとやばいポーションとか作れてもよさそうなのに。


「正確に言うなら、今の材料で作れるポーションはここまでってことだね。あとできることは、今あるポーションを強化していくだけだけど……それじゃあ、イズミ君以外の人が飲んだら死んじゃうし」

「さらっと恐ろしいこと言わないでくれるか?」


 だけど、これ以上新しいポーションが作れないとなると、俺のできることはここまでってことか。

 いや、皆が服用するポーションの試飲をする大事な仕事があるけど。


「本当はダンジョンってところで取れる珍しい薬草とか、怪物の素材とかがあればいいんだけどねぇ。それはちょっと望みすぎかな」

「それは無理だよ……」


 ……時間が空いちまうな。

 戦いに赴く彼らのために、俺ができること。

 未だに何も頭に思い浮かばない現状に俺は、人知れず拳を握りしめることしかできなかった。

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