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第五話

 あのハイテンションポーション中毒事件から三週間が過ぎた。

 あれからクラスの皆は、自分でも驚くくらいに異世界のでの生活に慣れてきていた。

 元手芸部所属の『裁縫』スキル持ちの二人の女子は、一日の間に何着ものコスプレ服を作り上げ、優利を追いかけまわした。

 元から料理が得意であった『料理』スキル持ちの二人の男女は、たった二人でクラスメート十八人分の料理を作り上げ、食堂を任されるに至った。

 農耕スキルを持つ和也は、宿舎の裏手にいつのまにか農園をつくり、王国から頂いた種と、ポーション作成に用いる薬草の栽培を始めた。

 そんな彼を、園芸部所属の『植物観察』というスキルを持つ女子が手伝っている。


 戦闘面においては、魔法の使い手である竜宮君と明石さん、そして剣術スキル持つ剣道部の部長と、弓術スキルを持つ弓道部のエースが、各々のスキルを磨いていた。

 そんな彼らの助けになるべく、戦闘を補助するスキルを持つクラスメートもそれぞれの頑張りを見せている。


 俺? 俺は――、


「ぐあああああ!? 体が焼けるぅぅぅぅ!?」

「きゃああ!? イズミ君の体から尋常じゃないほどの熱が!?」

「あ、いけね、配分間違えちゃった」

「またかぁぁぁ、貴様ァァァァ!!」


 燃えだしそうな熱さの中で、必死に頑張っています。

 今日は『代謝を高める』ポーションのはずだった!

 それがなんで、体の熱を高めるポーションになるんだよぉ!? いや『オーバードライブダブルX(エーックス)』という名前の時点でおかしかったけどさぁ!!

 中毒度を見れば、案の定76。

 明らかなレッドゾーンであった。


「ぐ、うぅぅぅぅぅ!」


 心臓が鼓動する。

 心の中で声が聞こえる。

 まるで、発進を待つかのように震える心臓……もう走り出したい、この熱を冷ますために走り出してぇ!


「でも明らかに、人間が出して言い熱量を超えているね。……外傷もないし、もしかしたら……」

「イズミ君、これを飲んでぇ!」

「ヒャッハー! 我慢できねぇぜぇ!」

「きゃぁ!? って、あ、ああああ! イズミ君、そっちは外――」


 高鳴る心臓のまま、足を踏み込む。

 瞬間、ギュンッ! という予想外の加速と共に、俺の体が開けられた窓から飛び出し、窓から二〇メートル以上離れた茂みに突っ込む。

 しかし、それでは勢いが収まらず、ごろごろと転がり、最後に見覚えのある修練上の地面へ築地のマグロの如く誰かの足元へ滑り、ようやく止まる。

 フシュゥゥゥゥ、と排熱するかの如く、俺から大量の熱が放出される。


「い、イズミ?」

「イズミ、君……?」


 困惑す声に気づき、顔だけを上へ向ければ、そこには木剣で模擬戦をしている竜宮君と、剣道部主将の荒巻一翔(あらまきかずと)君がいた。

 少し離れたところには、明石さんと、弓道部のエース、遠藤与一(えんどうよいち)さんが、あんぐりと口を開けて倒れ伏した俺を見ていた。

 彼ら以外にも、王国の騎士さん達と、ガタイのいい壮年の騎士さんがいた。

 ゆっくりと状況と、自身の中毒度が『54』になっていることを確認した俺は、かろうじて動く右手でポケットに入っている美奈印の強力回復ポーション『ハイポーションZ』を喉に流し込み、回復を試みた。

 中毒度32という常人にとって驚異的な毒性を持つ回復薬を口にした俺は、何事もなく立ち上がり、深くお辞儀をした後に、その場からの離脱を試みる。


「……では、お邪魔しました」

「「「「いやいやいやいや!!」」」」


 戦闘スキル持ち4人が一斉にこちらに詰め寄ってくる。

 竜宮君に至っては半泣きだ。


「本当に大丈夫か!? さ、さっき普通じゃない勢いで飛んで、煙だしてっ! おまっ、なんでそんなっ!」

「なにをされているのか正直に言いなさい! 力になれるから!」

「あまり無理をするんじゃない! お前の献身は十分俺達の力になっている……!」

「いや、それよりどうしてあんな勢いで飛んできたのか、気になるんですけど……」


 唯一、遠藤さんだけが引き攣った表情でそう呟いたが、他の三人は必死に俺の身を案じている。

 俺はいいクラスメートに恵まれたなぁ、と思う反面で、どうしてこうなってしまったんだろう、と思う。


「飛んできたのは、あれだ。美奈のポーション。確か……『オーバードライブダブルX』という名前で……凄いんだ……体が燃え上がって、ギューンって飛ぶんだぞ。中毒度さえ抑えれば、とんでもない代物になるはずだ!」

「イズミ……くっ……」


 見てられないとばかりに、目を背ける面々。

 空元気で場を和もうとしたら、余計に深刻な空気になってしまった。

 騎士さん達も目線を合わせてくれない。


「だ、大丈夫! 俺はほら、対毒スキル持ちだから、全然無理なんてしてないって!」

「じゃあ、二週間前の王国全力疾走事件は?」

「美奈の『フィジカルブーストX1』の効力で、体力が有り余ってたから走り回ってただけだな」

「一週間前の、訓練場の魔力暴発事件は?」

「美奈の『マジカルチャージB』で溢れた魔力を掌から放出しただけだな」

「二日前の、イズミ君マッスル事件は?」

「美奈の『マッスルグレートΣ1』の効力で一時的に筋力がアップしちゃって、それを偶然見られただけだな」

「荒巻君、与一ちゃん。判決は」

「「ギルティ」」

「なぜだぁ!?」

「当たり前でしょ! なんで一人だけ投薬実験で生まれたヒーローみたいなことになってるの!? しかも当人が問題にしてないのがびっくりよ!? 見てよ、明を! ショックのあまり気絶してるじゃない!」


 あ、本当だ!? 上を向いたまま男泣きしながら気絶してる!?

 まさか、椎名さんの薬で消しきれなかった薬の効能を消費している間にそんな事件になっているとは思わなかった。


「あのねイズミ君。貴方は大丈夫とは思っていても、傍で見ている私たちは――」

「あの……アケイシ殿?」


 そこで俺達以外の第三者が声をかけてくる。

 そちらを見れば、いかにもいかつい風貌の鎧騎士が、微妙な表情で俺に視線を向けていた。

 明石さんは、思い出したように額を押さえた。


「イズミ君、貴方の話はあとできっちりするわよ。私たちは今からちょっと大事な話を聞かなくちゃいけないらしいから……」

「は、はい、姉御」

「うん、よろしい……って、誰が姉御よ!? はぁ……アキラ、起きなさい!」

「っ! あれ! なんで俺寝て……ぐぇ、引っ張るなよアカリ!」


 一瞬で目覚めさせられた竜宮君は、明石さんに連れられていく。

 一翔君と遠藤さんも、一緒についていったことから戦闘班に関係する話のようだ。


「これは……今日の夜、なにかありそうだな」


 俺達がここへ連れられてきた本来の目的は『未知を切り開く』ことだ。

 この三週間で行ってきたことは、あくまで準備期間に過ぎないならば――女神が求めるは、もっと別のことのはずだ。


「い、イズミくーん! 大丈夫ー!?」

「新ポーションの効力はどうだったー?」


 宿舎の方から、大量の中和薬を抱えた椎名さんと、満面の笑顔の美奈が駆け寄ってくる。

 ……あまり難しく考えてもしょうがないか。

 現状、俺にできることは戦いに赴くかもしれない友達の為に、ポーションを試飲するしかない。


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