第四話
第四話です。
「わ、本当に熱くない! おお、文字が浮き上がってきた……」
本当に怖いもの知らずだな。
最早、俺にとっては見慣れた奇行なので、そのまま状況を見守る。
美奈から紙片を受け取ったアウルさんは、緊張しながらも文面に目を移す。
「ポーション作成……『その者、毒を以て毒を制する狂気からいずる存在。その力、人への救いか、はたまた悪へ堕ちる先駆けか。導き出される答えは、その者が信ずるたった一人の理解者の運命に委ねられるだろう』」
「ポーションかぁ。なんだか微妙だなぁ。まあ、面白そうだからいっか!」
「ちょっと待てや」
おいこら、お前のスキルの説明文不穏すぎじゃねぇ!?
なんでポーション作成というスキルの説明にそんな危ない文面が載せられているの!? しかも、たった一人の理解者って誰だ!? もしかして俺!?
「いやー、いつもイズミ君には迷惑をかけちゃうね」
「なんで嬉しそうなの!? なんでお前の救世主ルートと悪堕ちルートの運命を委ねられなきゃいけないの!?」
「だって、イズミ君しかいないからねぇ」
にへら、と笑みを向けられ、こっちも脱力してしまう。
これは……もう、受け入れるしかないか。
「あ、あの! 私も美奈ちゃんと同じスキルでした!」
「あ! 真昼ちゃんとお揃い? 二人で楽しく毒々しいポーション作ろうねー!」
クラスメートの中から、手を挙げながら出てきたのは、委員長……ではなく、椎名真昼さんであった。
スキルが重複することってあるんだなぁ。
美奈の物騒な発言は無視し、紙片の最後の一枚を手に取る。
「俺の才能ってなんだろうな……」
もしかしたら、魔法なんて目覚めちゃうかもしれない。
そうなったらどうしようかなー、なんて考えながら青い炎に紙片を近づけ、炙る。
すると、これまでと同じように紙片に文字が浮かんだところでアウルさんにそれを渡す。
「お願いします」
「はい、読みますね。……対毒スキル? 初めて見るスキルですね……えーと『その者、あらゆる毒を防ぐ』」
……。
「……え、それだけですか?」
「は、はい。おかしいですね、普通ならもっと説明文があるのですが……おかしいですね……」
あ、あれれー、なんか雲行きがおかしいぞぅ。
笑みを引き攣らせていると、紙片に目を凝らしたアウルさんが嬉しそうにこちらを見やる。
「あ! 後から付け加えたように文字が浮き上がってきました!」
「な、なんですか!」
「『熟練度に応じて、毒の許容量に限界が存在する。超えれば、しばらくの間行動不能になる』」
「……」
デ、デメリットが付け加えられたんですけど。
なんか俺の説明だけ雑じゃねぇ? なんかこれまでの「彼の者」とか「悪に堕ちる」とかいう仰々しい口調じゃなくて、ただただスキルの説明されただけなんだけど。
「あ、で、でも! マユズミ様とシイナ様のポーション作成とは相性抜群ですよ! ほ、ほら! 二人の作ったポーションに危険がないか試飲で……き……る……」
そこまで言って、自分の発言の意味に気づいたようだ。
うん、必死に慰めの言葉をかけようとしてくれているのは分かりました。
ええ、分かりましたとも。
ですが、ですが、一言だけいってもいいですか?
「恨むぞ! 女神ィィ!」
「スキルでも相性いいなんて、やっぱり私達ってコンビなんだよねー」
「あ、あの、イズミ君だって辛いだろうから……」
あぁ、悪魔と天使の声が聞こえる。
王国の人々を含めた周囲の人々とクラスメート達に哀れみの視線を向けられながら、俺は慟哭するしかできなかった。
俺達の異世界転移生活一日目は、あまりにも俺に優しくはなかった。
●
『イズミ、元気出せよ。きっとなんかいいことあるって……』
『イズミ君、いつでも相談に乗るからさ……その、辛い時はいつでも頼ってよ……』
『だ、大丈夫だって! ポーションなんて体にいいサイダーみたいなもんだって! だからそんな悲観することないって!』
『そ、そうよ! 黛さんはちょっと不思議なこともあるけど、イズミ君を信頼してるから!』
「……うん」
クラスメートに慰められながら、俺は食堂のテーブルに突っ伏していた。
あの後、俺達には王国から男女別の宿舎と、食堂が与えられた。女神からの神託では、王国は俺達を助けなくてはいけないということなので、ここまでしてくれたらしいけど……それを含めても、ここの人々は純粋に俺達の身を案じてくれている感じがした。
しかし、しかしだ。
「はぁ……中毒度」
その言葉と共に、俺の手の甲に白い文字で『0』という数字が映し出される。
スキルはその種類によって、表示方法が異なっている。
魔法はスキル解析の時に用いた紙片に呪文などが表示され、それ以外のほとんどのスキルは手の甲に熟練度が表示される。
俺のスキルで表示できるのは、中毒度。
毒にどれだけ体が耐えられるかを表示する、不吉すぎる数値だ。
王国の学者さんに説明を受けたところ、俺以外にも毒スキル持つ者はいたらしく、中毒度の目安は常人では、1~30が安全域でホワイトゾーン、31~50が警告域でイエローゾーン、51~80が危険域でレッドゾーン、81~100は即死域でブラックゾーンだそうだ。
熟練度を上げれば、耐えられる数値も変わるんだろうけど……それを上げるのには毒を食らわなければいけないという、なんとも鬼畜な仕様となっている。
しかし、100を超えるとどうなるのだろうか……。
見たところ、上限が決められているわけじゃなさそうなんだよな……。
「はい、これイズミ君」
「ん? ああ。ありがとう」
手の甲の数値を見ながら、横から何気なく差し出された飲み物を口にする。
なんだこれ、甘くもあり、ちょっとした苦みもある。お酒っぽい。
手に取ったコップを見て首を傾げながら、手の甲を見ると――、
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「ゴファ!?」
文字が白から赤色に染まってる!?
思わず口に含んだ飲み物を噴き出しながら、これを差し出した隣人の顔を鷲掴みにする。
「美奈、貴様ァ!」
「あば!? ご、ごごご、ごめんごめんごめんよぉ!? さっき初めてポーションつくったから試しにイズミ君に飲んでもらおうとおもってぇぇぇぇ!?」
「中毒度がレッドゾーンに入ったぞ! なんてもの飲ませるんだこの野郎!」
「た、ただの強壮作用のあるポーションだよ! 私なりのアレンジを加えて、効果も三倍くらいになってるだろうけど!」
「初めての試みでアレンジを利かすんじゃねぇぇぇぇ!!」
どうりで感覚が鋭くなっていると思ったわ! 今なら空飛ぶ蠅さえ箸で掴めるわ!?
冴えに冴え切って大変なことになっているぜ!
「あ、あのイズミ君!」
「なんだい椎名さん!」
「ひっ!?」
「すいません! こいつの薬のせいでテンションが抑えられなくなっているんで!」
駄目だ、声を抑えようにも抑えられない。
本当になんてものを飲ませてくれるんだこいつ。
手の甲を見れば、徐々に中毒度は下がっては来ているが、薬の効能は下がる気がしない。どうやら無効化できるのは、毒だけであって体にプラスになるものは防げないらしい。
「あの、これを……」
「これは!?」
「ひぅ、薬の成分を打ち消す……ポーションです。あの、良かったら……」
「いただきます!」
「即決!?」
こんな天使からのポーションを拒めるはずがない。
速攻で喉に流し込むと、今まで鋭敏になってた感覚と上がり切ったテンションが収まった。
中毒度は流石に消えないが、それでも椎名さんの毒消しならぬ、薬消しポーションは有効だった。
「ありがとう。椎名さん……君のおかげで助かった……」
「役に立ててよかった……」
天使かな?
委員長で天使かな? 実際は、体育委員の天使だけども。
そんな馬鹿なことを考えていると、アイアンクローから解放された悪魔が椎名さんに抱き着いた。
「やったね真昼ちゃん! 初めてのポーション作成成功だよ! ポーションの名前はマックステンションX1でいいいだだだだだだ!?」
「少しは懲りないかなぁ、お前はぁ……」
「ご、ごめんよぉ! で、でも新発見もあったから!」
「ほう、なんだ言ってみろ」
とりあえずアイアンクローから解放すると、美奈はドヤ顔で俺と椎名さんの首に手を回した。
「私たちが組むと最強になれるってことだよ!」
「……」
「え、ちょ、やめ、いだだだだだ!?」
俺は無言で美奈の頭を鷲掴みにした。
クラスメートが集まる憩いの場に、一人の少女の悲痛な叫びが響き渡った。
ドーピング系主人公爆☆誕
とりあえず四話まで更新いたした。
以降は午後十八時頃に、毎日更新を予定しております。