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第三十八話

第三十八話です。

 白猫から女神アイラスの声が聞こえた。

 抱える腕の中で、女神の存在を感じ取った俺はその場で悲鳴を上げた。


「うわああああああ!?」

「ガチ悲鳴!?」


 迫真の悲鳴にさすがの奴もショックを受けるが、こちらとしては不意に受け取った猫が、実は邪神の皮を被った怪物だったようなものだ。

 思わず放り投げられ、地面に着地した白猫に俺はガチの嫌悪感を抱く。


「気持ち悪ッ!」

「気持ち悪いって何よ!? 私女神よ!?」

「悍ましいわ! このボケ!!」

「悍ましいって言いすぎじゃない!? もう普通に話せないって思ったから、頑張って1から猫の体作ったのよ!? もっとねぎらいとかあってもいいと思うのだけど!?」


 もう二度と話せなくてもオッケーだったんだよォ!

 なのになんで無駄なやる気を出してんだこの野郎……!


「人間は、猫好きでしょ!」

「猫は好きだが、お前は嫌いだ!」

「ねぇ、アイラ。この気持ちなんなのかしら。女神として生まれて初めてこんな感情抱くわ……」

「まあまあ……」


 露骨に落ち込む白猫を抱えたアイラは、その場に腰を下ろす。


「女神様も反省しているようですし、許すとまではいいませんが話だけならしてもいいのでは?」

「……はぁ。全く、アイラに感謝しろよ」

「この人間なぜにこんな上から目線なんでしょう……!」


 ぴくぴくと目じりをひくつかせる白猫を指さしながら俺も原っぱに腰かける。


「君は大丈夫なのか?」

「なにがですか?」

「その邪悪の権化が傍にいて」

「そろそろ泣いていいかしら? いいのかしら泣いても?」


 なぜかここで挑戦的に見上げてくる女神。

 泣くなら勝手に泣けば? といった目で見下ろすと、白い猫は口を開いた。


「古来から、神の涙で洪水が起こるものよ?」

「お前、何しても惨事しか招かねぇのな」


 女神の言葉は無視する。

 事実、アイラは女神によりその人生を捻じ曲げられている。

 女神に作られた人間といえども、それは彼女にとってもあまりいいことではないはずだろう。


「……最初は怒りましたけど、やっぱり私が今こうしていられるのは、女神さまが私を作ってくれたからなんです」

「……」

「だから、怒りはしましたが、許しました」

「……君は強いんだな」

「強くなれたのは、イズミさんのおかげですから」


 女神の力に操られた時とは違う、彼女の本来の心からの笑み。

 思わず見ぼれかけながらも、俺はなんとか相槌を返す。


「私はもう女神としての力はほとんど操れません。そうしてくださったのは、イズミさんとここにいる皆さんのおかげです」

「……おい女神、アイラから女神の力は抜けたんだろうな?」


 一応の確認のために白猫に問いかけると、こくりと頷いた。


「ええ、試練を正式な基準で突破したから、もうこの子は私の力に振り回されることはなくなったわ。……あ、でも彼女本来の女神由来の防御スキルは健在よ? 襲おうものならただじゃすまないレベルで」

「……まあ、それくらいなら大丈夫か」


 まさしく絶世の美少女なのだ。

 よからぬことを考える人がいてもおかしくはないから、自衛手段はあった方がいい。


「君は、これからどうする?」

「もうちょっと、皆さんと一緒に生活していたいです。もちろん、迷惑かもしれませんが……」

「いや、そんなこと思う奴は一人もいない」


 むしろ歓迎してくれるだろう。

 アイラ自身、まだ自分の現状に戸惑っているはずだから、その部分も俺達で助けられたらいいなと思う。


「私、これからがとても楽しみなんです」

「これから?」

「皆さんとの交流が、生活を通して、これまでとは違った色々なものに触れられると思うと、もう楽しみで仕方がないんです」

「まあ、たしかにうちの面々は色々な方面に秀でてるからな……」


 むしろポーションを飲むだけの俺は地味とさえいえる。

 ポーション持ちの美奈と組んでこそ、俺はようやく一人前といってもいいのだ。


「それに、最初の私の願いも適いましたし」

「友達が欲しいってやつだっけ?」

「はいっ!」


 俺を見て嬉し気に頷くアイラ。

 そうか、ようやく彼女自身が友達と呼べる人を見つけられたんだな。


「よかったな……アイラ」

「ええ、私にとって初めてのお友達で、一番大切な人です!」

「そこまでなのか……?」

「はい!」

「なんでしょう、この会話。ものすごいすれ違いを感じるわ」


 女神がなんか呟いているが無視。

 彼女はもう、ダンジョンなんかに潜らなくてもいい。

 普通の人生を歩むことを許されているのだ。


「これから、皆さんのお手伝いします」

「俺もクラスの皆に心配をかけたお詫びに手伝わなければいけなくなったからな。文字通りに馬車馬の如く働かされることになるぜ」

「一緒に頑張りましょう! 私は、力仕事とかはできませんが、お皿荒いとかお裁縫とかも頑張りますから!」


 クラスの皆ならアイラの存在を受け入れてくれるだろう。

 まあ、俺はこれからアイラとは違って、クラスの皆にこき使われることになるのだが、どちらにせよポーションをのむことしかできない俺にとっては、願ってもないことだ。


「おーい、アイラちゃーん」

「はい?」


 すると、宿舎の方からアイラを呼ぶ声が聞こえる。

 そちらを見ると、瑞希さんと青葉さんがいる。


「お取込み中のところ悪いけど貴女の服を作るからサイズちょっと計らせてー」

「あ、はーい! では、イズミさん、女神様、また後で」

「ああ、また後で」


 女神様、の部分だけ小声で呟いた彼女はそのまま笑顔で瑞希さん達の元へ走っていく。

 ああやって彼女は僕達の仲間になっていくんだな、と感慨深い気持ちになっていると、俺の前に白猫が移動してくる。


「嬉しそうねぇ」

「ようやくあの子は自由になれたんだ。……もう変なちょっかいとか出すなよ?」

「出さないわよ。あの子がああなるのは、私も望んだことだし」


 俺はこいつが嫌いだが、アイラに向けている気遣いの感情だけは嘘ではないのは分かった。


「お前はまだまだ俺に付き纏うんだろ?」

「当然じゃない。だって、貴方って面白いもの」

「はぁぁ……」

「でも、前ほどは悪意のあることはしないつもりよ。当分は、貴方が友人たちに振り回される姿を見て楽しまさせてもらうわ」

「悪趣味だな、マジで……」


 実際、振り回されるのだろう。

 俺は幾分か常識人ではるが、クラスメートはどこかぶっ飛んだすごい奴らだ。


「貴方も、この世界を楽しむべきよ。きっと貴方の元居た世界よりも楽しいわよ?」

「……お前に、なにが分かる」

「退屈はしないし、させることはないから」


 女神の言葉に俺は次の言葉を口にすることができなかった。

 この世界で散々な目にあってきたが、それはこの世界のせいではない。

 強いて言うならば、全て女神のせいといっても過言ではないだろう。

 でも、今後女神が変なちょっかいをかけてこないというのなら……。


「この世界のことを、理解するのも悪くないかもな」


 どのような文化をしているのか。

 どのような生活をしているのか。

 まずはそれを知っていきたい。


「あ、それならこの王国で闘技大会とかやってるんだけど、イズミ参加してみない? 参加したら絶対面白いと思うのよね。私、人間同士が争っている姿を見るのも好きなの!」

「やっぱお前邪神だろ!!」


 能天気そうに語る白猫に怒鳴る。

 理解するのもいいが、まずはこの女神がいる限り、精神的な安寧は訪れないかもしれん……!



とりあえず第二章は終了となります。


こちらの作品でもこの先作りたい話もありますが、今は別作品の方に集中しますので一旦更新の方は停止することになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ...ポーションメーカーの狂人より、まともにヒロインしてない?この女神の分身...
[良い点] 読んで楽しい会話のドッヂボール(顔面推奨) [一言] ここにキャットタワーを建てよう。
[気になる点] 誤字報告:お皿荒い
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