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第三十六話

お待たせしました。

第三十六話です。

 こいつが最後だ!

 こいつで最後であってほしい!

 というよりこいつで終われ!

 そう願いを籠めながら俺は、巨大なドラゴンを前にして思い切り剣を叩きつける。


「ッ!」


 しかし、叩きつけられたはずの剣は黒い鱗により弾かれてしまう。

 尋常じゃないほどの硬度だ。

 あの巨人の比じゃないし、何より―――、


「ジャアアア!」


 大きく振り回された尻尾が振り回され、俺の胴体に叩きつけられる。

 そのまま吹き飛ばされながら、軋み千切れかけている胴体を癒すように、回復ポーションを一口で飲み込む。

 身体が作り変えられていく感覚に吐き気に苛まれながら、思い切り木へと背中を叩きつけられる。


「げはっ……!」


 こみ上げた血を吐き出しながら立ち上がる。

 あの巨人以上のパワー。

 真正面からの直撃は、まずいな。


「ハ、ハハ、ドラゴン退治か……!」


 笑えない状況だが、笑ってやる。

 こういう時こそ、強気にならなきゃやってられねぇ。

 剣を支えにしながら立ち上がった俺は、さらにエマージェンシーミックスXを摂取する。

 肌の色が黒く染まり、力が湧き上がる。


「全力でいってやらァ……!」

「ギュルル……!」


 腕から流れ出る血が剣と斧に滴り、即席の毒の武器を作り出す。

 ぽたぽたと、地面に落ちた血の雫から毒々しい煙が浮かぶ。


「オッラァァ!」


 大きく振りかぶった斧をぶん投げる。

 真っすぐに突き進んだ斧は、黒竜ですら反応できないほどの速さでその胴体に突き刺さる。

 だが、あくまで刺さったのは表面の鱗のみで中までは届き切ってはいない。


「ジャァァ!!」

「来るかよ!」


 怒りの声を上げた黒竜が大きく息を吸う。

 誰が見ても分かるブレスの挙動に咄嗟に近くの木の後ろに隠れた次の瞬間―――周囲は猛烈な炎に包まれる。


「おおおお!?」

「ガァァァ!!」


 こ、こんなの真正面から食らったさすがの俺でも消し炭だぞ!?

 背中の木がじりじりと焼け焦げていく匂いを感じ取りながら、炎が止んだ瞬間を見計らい剣を携え黒竜へと向かって行く。


「一撃でも食らった死ぬ! なら当たらなければいいだけだろう!!」


 ポーションによって超強化された感覚で、黒竜の攻撃を察知しながら剣で斬りつけていく。

 錨君の剣の切れ味が悪いわけではない。

 だが、それ以上にこいつの鱗が堅牢すぎる……!


「硬ってぇ……! ぐぅ!」


 振るわれた爪が地面に叩きつけられ、礫が身体にぶつかる。

 だがおかえしとばかりに、叩きつけられた指の一本を剣で断ち切る。


「ガ、ガァァ!!」

「お怒りかぁ!? 俺も同じ気持ちだよぉ! クソッたれ!!」


 普段は口にしない罵倒を叩きつけながら、上から叩きつけられる尻尾を転がりながら避ける。

 鱗に守られていない部分は限られている。

 目も狙えそうだが、そもそも頭の位置が高いから狙えない。


「なら、狙う場所は――」


 黒竜を睨みつけながら、ホルダーからポーションを手に取る。

 最後のポーションではあるが、ここが使い時だろう。

 黒竜の攻撃を避けながら、全力で前へと踏み出す。


「おおおぉぉぉ!!」


 爪が、尻尾が、礫が、その全てを避け、時には弾き飛ばしながらボトルのキャップの部分を指の力で砕き、その中身を全て剣を持つ右腕へと振りかける。

 ———マッスルグレートΣ3。

 筋力を強化するポーションにより、右腕のみの力を底上げさせる。

 狙うは、斧が突き刺さった胸の中心!

 切れ込みをいれた鱗に、限界の力を叩きつけてやる……!


「食らえぇぇぇ!!」


 振るわれた右腕の剣が斧へと叩きつけられる。

 金属音と共に砕け散る剣だが、斧はさらに深くめり込み。


「オオオォォォォ!!」

「ガ、ギッ!?」


 獣染みた雄たけびを上げながら、右手で斧を掴み取った俺は怪力に任せて斜めに黒竜の胸を切り開きながら、空いた傷に血に塗れた右拳を叩き込む。


「そんなに、俺の血がお望みならたんまりくれてやる!!」


 とんでもねぇ劇毒だけどなぁ!!

 血に塗れた右腕を引き抜きながら、その場を跳び下がる。

 さすがは中毒度に中毒度を重ねた血だからか、目に見えて黒竜は痛みに悶え始める。


「ギ、ガ……グァ……」

「……」


 やっぱ、俺の血ってやばいんだな……。

 一応、俺の血の解毒用のポーションを作ってもらおう。

 だけどこれで、ほぼ黒竜は倒したようなものだ。


「よし、これで―――」

『イズミ君! まだ終わってないよ!』

「……は?」


 美奈の声に我に返ると、周囲の風が黒竜へと向かって行っていることに気付く。

 黒竜を見ると、憎悪の目を向けながらブレスの体勢に移っている奴の姿が見える。

 毒は効いている。

 あと少しで息絶えるはずだ。

 だが、それでも俺を殺したいというただその一心で、こいつは動いている。


「まだやろうっつーのか、こいつ……!」


 正直、もう手がない。

 今から突っ込んでも炎は避けられない……!

 いよいよ駄目かと思ったその時、俺の元に一つのポーションが飛んでくる。


「っと」

『イズミ君! それを使って!』

『イズミさん! 死なないで、頑張って!!』


 ポーションを受け取った僕にかけられる声。

 それを受け、迷わずポーションを一気に飲み干す。


「うっぷッ……!」


 身体の中でなにかが膨れ上がる。

 転がったボトルのラベルには『マジカルチャージB(バスター)』と記されている。

 マジカルチャージ。

 つまりは、魔力を強制的に補給させるポーションである。


「ジ、ィィィ……!」

「———ガァ!!」


 食らえ―――!

 言葉にせずに、口を大きく広げて―――毒々しい紫色の魔力をビームのように吐き出す。

 それは扇状に広がり、黒竜が吐き出したブレストぶつかり合う。


『カイト君なら勝てる!! ブレス対決だよ!!』

『く、口から魔力が? え、人にあれが、可能なんですか!?』


「「ガァァァ!!」」


 赤い炎と紫の魔力が拮抗する。

 このまま、押し負けてたまるか! と、気合を詰めながら、足に力を籠める。

 もういろいろ体から根こそぎ魔力が失われていくし、口からビームを出すという訳分からん状況に頭がどうにかなってしまいそうだが―――それでも勝つ!


「ッ、ジ!?」


 毒により黒竜が怯む。

 その一瞬の隙を狙い、最後の魔力を解放して炎を押し込み、拮抗を破壊する。

 このまま自分の炎をごと食らって吹き飛びやがれ……!!

 空いた口に魔力と逆流する炎を叩き込まれた黒竜は、その頭部ごと爆散させる。


「ふしゅぅぅぅぅぅ……」


 口から魔力の煙を吐き出す。

 駄目だ。

 もう体の中の力とか、気力とか根こそぎ吐き出してしまった気がする。

 というより、さっきので体の中の毒素すらもエネルギーに変えてたので、中毒度も0になってしまっている。

 でも、これでようやく、終わった。

 これだけの相手だ。

 最後に決まっている。


「———あぁ、くそ」


 それでも美奈とアイラを覆う光の球体は消えない。

 森の奥から、続けて魔物の声が響いてくる。

 身体に力が入らなくなり、後ろへ倒れる。

 ここまで、か。


「まったく、本当に無茶をする奴だぜ、イズミ」


 ———後ろに倒れる俺を、誰かが受け止めた。

 霞がかった視界に見慣れたクラスメートの姿が見えた。

 力強く、自身に溢れた表情と声から、彼が竜宮君だとようやく認識する。

 彼がここにいる事実に、俺は安堵すると共にこの後自分に待ち受けている運命にただただ震えるしかなかった。


「一人でよく頑張った……って言いたいけど、もっと俺達を頼れ」

「……ごめん」

「お謝るのはまだ早いぞ。怒ったアカリは怖いからな」


 そのまま支えた俺を、後ろにいた誰かに引き渡した竜宮君は、剣を引き抜きながら眩い光の球体を掌に作りだす。

 彼の傍にまたクラスメートがやってくる。


「さっさとこの騒ぎを終わらせてクラス会議ね」

「これだけの数の魔物か。汚名挽回の時だな……!」

「汚名返上だと思うよ。荒巻君」


 怒りのエフェクトと見間違うほどの炎を纏うのは明石さん。

 剣を握りしめ、不敵に笑っている荒巻君。

 気だるそうに弓に矢をつがえる遠藤さん。


「ふん、耕されたい奴からかかってくるがいい」

「毛糸がたくさん、たくさんさん♪」

「とりあえず足止めすればいいのねー」


 彼らに並んで歩くのは、鍬を肩にかけている巨漢、なぜかいる俺の親友、カズヤ。

 そして、異様な貫禄を見せながら後方で大量の毛糸と大きな待ち針を手にしている大槻さんと青葉さんの姿。

 一部、戦闘とは無縁なスキルを持つ人たちが混ざっているけど、どういうことなんだろう。

 まさかこれは幻覚なのか?

 死の間際に見るアレなのか?

 おかしいな、カズヤが鍬を振り下ろすとリザードマンが地に沈んでいっているぞぉ?


「どうやら、無事なようだね。イズミ君」

「フィオ、さん」


 横にされた俺を覗き込んだのは、孤独の探索者と呼ばれた冒険者、フィオさんだ。


「これは、貴女が?」

「言ったでしょ? 彼らは守られているだけの存在じゃないって」


 ああ、確かにその通りだ。

 俺は自分の考えを押し付けすぎたのかもしれない。

 その結果死にそうになったけれど、皆が助けにきてくれた。

 その事実に何よりも安堵してしまっている。


「おい、まだ生きてるかこのバカ!」

「あまり揺らさない方がいいよ、姉ちゃん」


 フィオさんに続いて俺を見下ろすのは、またもや見慣れたクラスメート、純也君に剣崎さんの姉弟だ。


「この死にぞこないっ! お前、本当に死にかけてどうするんだよぉ! バカかお前!!」

「早く怪我を治さないと。医療スキルは道具がなきゃ意味ないんだから」

「分かってるよぉ!! お前は早く道具出せ!!」


 カバンから包帯やら色々な器具を取り出す順也君に、それを受け取る半泣きの剣先さん。

 もう意識を保てそうにない。

 最後に、球体にいるアイラと美奈を見る。

 俺を心配そうに見る二人の無事な姿を確認した俺は、安心しながら意識を落とすのだった。


ブレスにゲロビで対抗する主人公。

多分、現状の最大火力であり必殺技となります。


次回の更新は明日の18時を予定しております。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] エマージェンシーミックスXとかポーションは 自分が飲むよりも黒竜に飲ませれば楽勝だった 気がします!
[良い点] 撃ち合いという熱いシチュの筈なのにコレだよ! 魔力POTで口からビームは最高に人間辞めてると思いますw ちゃんと排気ギミックを忘れないところも尚良し。 クラスメイトが戦闘と関係ないスキル…
[良い点] >「まったく、本当に無茶をする奴だぜ、イズミ」  ———後ろに倒れる俺を、誰かが受け止めた。  霞がかった視界に見慣れたクラスメートの姿が見えた。  力強く、自身に溢れた表情と声…
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