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第三十五話 

第三十五話です。


今回は目覚めてしまったアイラの視点となります。

 全て、全て思い出してしまった。

 私がこれまで、この王国で何をしていたかを。

 日常生活で違和感のようなものはあった。

 時折、意識が飛ぶことがあったり、記憶に穴があいたりしていた。でも私自身、それほど気にしていなかったし、困ってもいなかった。


「女神さまが、私の身体を……」


 脳裏によぎるは今の今まで魂の奥底で封じられていた記憶。

 感情のままに“力”をまき散らしてしまう私。

 同じ冒険者の方が大量の魔物に襲われている姿を、それをただ見ていた私。

 そして―――、夜な夜な、楽しそうにイズミさんに話しかける私じゃない私。

 自分のためだけに、イズミさんを危険な戦いへと向かわせる私じゃない私。


「あ、あぁぁ……」


 私は女神アイラスが作り出した、人の形をした化物だった。

 そのせいで、無自覚に多くの人の命を危険に晒し———果てはイズミさんと、彼の周りにいる優しい人たちに危険な目に合わせるところだった。

 いや、もうイズミさんとミナさんは巻き込まれてしまっている。

 今目の前で、血をまき散らしながら試練に打ち勝つために必死に戦い続けている。


「ごめん、なさい……」


 全て私の意志だと、思っていた。

 このダンジョンに向かいたいという思いも、親しい人を作りたいというこの気持ちも、私が心の底から願った願いだと思っていた。

 でも、それは違っていた。

 私の全ては偽りで、女神アイラス様により差し向けられていた作り物の願望だった。

 私は、人間なの?

 それとも、人間の皮を被った化物なの?

 もう何が本物なのか分からない。

 この記憶も、今までの人生も、何もかもが虚飾に思えてしまう。


「イズミさん、逃げて……ください」

「ああ!?」


 竜の頭を持つ魔物、リザードマンの群れと戦いながらも彼は大きな声を上げる。

 周囲のモンスターの叫び声、戦闘音に負けないように、私は彼に聞こえるように声を張り上げる。


「もういいんです! 私のことは放っておいて、貴方は生きていて―――」

「断るッ!!」

「え!?」


 言い終える前に、力強くそう返したイズミさんに驚きの声を上げてしまう。

 彼は、リザードマンの胸部を拳で貫通させながら、こちらを視ずに次のモンスターへと襲い掛かっていく。


「俺がここにいるのは、君を助けるためだ! それをここまで来て、下がるわけにはいかねぇ!!」


 戦いながらも彼は言葉を発する。

 襲い掛かる魔物をその四肢で粉砕していくさまは、とても人には見えない。

 しかし、彼の声と時折見せるその瞳は、どこまでも真っすぐだった。

 こうなったら、罵倒でもなんでもして帰らせなくては。

 私は嫌われてもいい。

 でも、イズミさんには、こんな私のためなんかに死んでほしくない。。


「ど、同情なんていりません! 貴方なんて嫌いです! 大嫌いです!! 余計なお世話です! こ、この毒人間! 近づかないでください、気持ち悪いです!!」

「イズミ君のバーカ! 根性なーし! へったれー!」


 なぜか美奈さんも罵倒に参加してしまった。

 それを耳にした彼は、動揺したように足を滑らせながらもこちらへと振り向いた。


「ああ、君に心底同情した! あのクソッたれな女神に良いように使われて、勝手に変な力までつけられて、すっげぇ不幸だと思った!!」

「っ!」

「散々な人生だよな! 君は未だ、自分で選んだ人生を選べていない! まだまだあいつの操り人形だ!!」

「……そ、れは……」


 偽りのない本心を口にしたイズミさん。

 彼はそのまま最後のリザードマンの首をその剣で落とした後に、こちらへ振り返る。

 その真っすぐな、吸い込まれそうな瞳に思わず息を呑んでしまう。


「俺は、君に幸せになってほしいと思った!」

「———え?」

「戦友だなんて、歪んだ友達じゃなくて、君が心の底から想える友達を作ってほしいって思った!」


 消えていくモンスターの粒子に目もくれずに、私は声を震わせる。

 彼とはついこの前会ったばかりだ。

 自分の容姿に惹かれているとか、そういう感じじゃない。

 記憶の中で、欲望に身を任せ襲い掛かろうとして、怪我をさせてしまった人たちとは違う。

 それじゃあ、何がどうして彼が私のためにそこまでしてくれるのか、私には理解できなかった。


「どうして、私にそこまで……」

「言っただろ! 同情したって! それに君と、俺の親友の姿を重ねた! 俺が君のために戦う理由としては、それで十分だ!!」

「イズミ、さん……」

「あとは、あの女神の思い通りに動くのが嫌だってこともある!」


 そう言って彼が私に笑いかけてくれたその時、大きな地響きが聞こえる。

 明らかに尋常じゃないなにかがこちらへと近づいてきている。

 不安に駆られた私が、思わずイズミさんへと目を向けると、彼は戦意をたぎらせながら地面から斧を引き抜いた。


「毒にも薬にもならねぇ俺だが、俺は自分がこう決めたら絶対に曲げない! だから、君が何と言おうとも、俺は戦い続ける!! 美奈!!」

「あいよ!」


 隣で静かに聞いていたミナさんがカバンから取り出したポーションを三つ放り投げる。

 それらのボトルを三本同時に飲み込み、そのまま自身の剣と斧の刃へと吹きつける。

 毒々しいマーブル状へと染まったそれらを振るった彼は、ほぼ漆黒に染まった体のまま、静かに轟音が近づいてくる森へと向き合った。


「ジェァァァ!!」


 現れたのは体長を二〇メートルを優に超える漆黒のドラゴン。

 ダンジョンでも数度ほどしか目撃されていない生物種の頂点ともいうべき、強力なモンスターだ。


「お前が、最後っぽいなぁぁ!!」

「ギシュゥゥゥ……! ジァァァァ!!」


 耳障りな雄叫びを上げるドラゴンに、不敵な笑みを浮かべたイズミさんも雄々しい声を上げながら、剣と斧を携え向かっていく。

次回の更新は、次の月曜となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 毒にも薬にもならない...? からだが薬漬けなのに...?嘘はいかんなぁ?
[良い点] >「言っただろ! 同情したって! それに君と、俺の親友の姿を重ねた! 俺が君のために戦う理由としては、それで十分だ!!」「あとは、あの女神の思い通りに動くのが嫌だってこともある!」「毒にも…
[一言] とてもいい話なのに、 ――襲い掛かる魔物をその四肢で粉砕していくさまは、とても人には見えない。 ――――のせいでコメディにしか見えない
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