第三十四話
第三十四話となります。
あれからどれほどの時間が過ぎただろうか。
三時間? 五時間? 半日? それとも一日か。
ポーションを補給し、とてつもない数の魔物を相手取りながら俺はひたすらに剣と斧を振り続けていた。
「お前の攻撃パターンは分かってんだよ、この野郎!!」
ミノタウロスが振るう斧を跳躍し回避。
地面に叩きつけられたそれを足場にして、首元にまで飛び上がった俺は斧を横薙ぎに振るい、その首を跳ね飛ばす。
光の粒子となって消えるミノタウロスを一瞥せずに、また別の個体へ斧を投げつける。
「ブモォォォ!?」
頭に斧が突き刺さりそのまま絶命するミノタウロス。
ミノタウロスはあと何体だ!? 二体か!?
「イズミくーん!」
「おう!」
美奈が放り投げたポーションを受け取り、ボトルの口を指の力で開け砕き、剣に振りかける。
粘性のある毒々しい色のポーションが剣を彩ったのを確認し、その場を動き出す。
「いっけぇー! ポーション斬りだぁー!!」
「その名前は勘弁してくれぇ!!」
ポーションによる身体強化に任せて突撃をかまし、すれ違いざまに脇腹と足を軽く切りつける。
それだけで、二体のミノタウロスは痙攣しながらそのまま倒れ伏し———粒子となって消え失せる。
「……ッ、あぁ、疲れた! 美奈、戦ってどれくらい経った!?」
「え? うーんとねぇ」
顎に手を当てて、唸る美奈。
もうかなりの時間を戦っているはずだ!!
精神的にもキツイ!!
お腹の中ポーションでたっぷたぷだぞ!!
そんな思いを籠めて返答を待っていると、美奈は笑顔と共に返答する。
「一時間くらい」
「え!? 嘘だろぉ!?」
「嘘じゃないよ。ちゃんと数えてたし」
一時間!? あれだけ戦ってもまだ一時間!?
駄目だ、挫けそう。
ポーションにはまだまだ余裕はあるけど、こんな戦いをあとどのくらい続けていけばいいんだ。
「ねぇねぇ、君は起きないの?」
『———』
絶望していると美奈が眠っているアイラの肩をゆすっている。
次の魔物が来るまでにまだ時間があるようなので、俺は慌てておバカを止めにいく。
「やめとけ! 怪我するぞ!!」
「えー、だってイズミ君を巻き込んでおいて、一人だけ居眠りかますのっておかしいじゃん。この子目覚めさせて、もっと事態を混沌とさせようぜー」
「絶対、後半のが本音だろ! いいから、やめろ! 怪我してからじゃ遅いんだって!!」
「んー」
俺の話を聞いているのかいないのか、美奈は俺の持ってきたカバンをごそごそと探り、一つのポーションを取り出す。
それを予備の水筒に入っている水に三滴ほどいれ、勢いよく振り———、
「おいちょっと待てや」
なにアイラに飲ませようとしてるの?
バカなの?
賢いけどバカなの?
当の美奈は眩いほどの笑顔で、ポーションのいれられた水筒を掲げた。
「即興ポーション、メガサメール!」
「メガマックスを薄めただけじゃねぇか!!」
「大丈夫! 原液じゃないから!」
無理やり行動に出ようとする美奈を止めようと動くが、それと同時に背後から大きな獣の唸り声が響く。
慌ててハナツヨクナールを飲んでみれば、ミノタウロスとは違う異常に素早い何かが近づいてきている。
「ああああ!! 今、お前らより厄介なことが後ろで起きようしているんだ!! 邪魔するんじゃねぇぇ!!」
振動が響いてくるそちらへ声を上げると、木々を飛び回りながら森から飛び出してきたのは———人型のモンスター。
武器を持ち、ドラゴンのような頭をしたモンスター。
大勢で武器を持って襲い掛かってきたそいつらに、剣と斧を伴い応戦する。
「ぐへへ、それじゃ飲んでもらいましょうかぁ」
「美奈ァ! 待てぇぇぇい!!」
「ギギャァァ!」
「ええい、邪魔だぁぁぁ!!」
このトカゲもどき、連携して襲い掛かってくる。
しかも、武器を持っているし、なにより俺の血を恐れない!
「厄介さでいえば、ミノタウロスより上だな……!」
「目覚めろぉ~、目覚めろ~」
「後ろの奴の方が厄介なんだよなぁ……!」
今後ろでどうなっている!?
あのおバカ、本当にポーション飲ませたのか!?
トカゲもどきの身体を蹴り飛ばし、手に持った武器を奪い取り、さらに襲い掛かってきた個体に突き刺す。
そのままポケットから追加のボトル『エマージェンシーミックスX』取り出し、口に含む。
「おおおお!!」
斧を投げまとめて始末し、さらに武器を奪い突き刺し、叩きつける。
急激な強化に身を任せ、眼前のトカゲもどき全てを壊しつくし、粒子へ変えてやったことを確認した俺は、美奈とアイラの方へと振り返る。
「美奈、まだやらかしてないだろう―――ッ」
「こ、ここは……? ダン、ジョン?」
振り返った先には、光の球体の中で頭を押さえながら起き上がったアイラであった。
不測の事態に、彼女が目覚めてしまったのだ。
「やったぜ、イズミ君!」
「マジでなんてことしてくれやがったんだ貴様!」
「いやぁ、それほどでも……」
「褒めてねぇよ!?」
美奈に怒鳴り返していると、次のトカゲもどきが森の中から出てくる。
それらを相手取りながら、アイラへと意識を向けると、彼女は戦っている俺を見て、同様を露わにしていた。
「なんで、イズミさんが、戦って……」
「アイラ、そこにいろ! そこにいる限り安全だ!!」
「安全って、わ、わたし、どうしてこんなところに……ぅ!?」
痛みに悶えるように頭を抱えるアイラ。
すぐに駆け寄ってやりたいけど、今はトカゲもどきの相手をしていて、そんな暇はない。
「ねぇ、大丈夫? ポーション飲む?」
「そ、そんな……これも、皆、私のせい……なんですか?」
「ん? 何言ってんの?」
「イズミさんと、会ったことも全て、私じゃない私が仕組んだこと……? 私が、たくさんの人を危ない目に合わせた……元凶だった?」
「イズミ君、ごめん! ポーションでおかしくなっちゃった!!」
「おかしいのはお前だこんのボケェェ!!」
無理やり起こしたせいで、女神が封じていた記憶が戻っちまったのか!?
トカゲもどきをなんとかぶん殴りながら、アイラと美奈のいれられている球体の近くへと移動する。
「アイラ、どこまで思い出した!」
「私と、イズミさんはずっと前から顔を合わせていて……。知らないうちに、貴方をすごく危ないことに巻き込んでしまった……」
「大体はそうだね! ッ、おっとぉ!!」
間髪入れずに飛び掛かってきたトカゲもどきを剣で叩き斬る。
もう一体を踏みつけ、とどめを刺した俺を見た彼女は、悲痛な声を上げる。
「というより、今まさに危ないことになっているじゃないですか!!」
バンッ! と自身を覆う球体を叩くアイラ。
結界は彼女自身を傷つけることはないのか、彼女の手を焼かずに硬質な音を響かせる。
……! まずは残りのトカゲもどきを全員始末するしかないか……!
自身の肩から滴る血が、流れた剣を振りながら眼前の魔物共を睨みつける。
「全員いっぺんにかかってこいやぁぁ!」
「「「グギャァァァ!!」」」
状況は依然として最悪。
そしておまけに、厄介な相棒がアイラまで起こしてしまった。
いよいよ、事態が混沌としてきたことを予感しながら、俺は戦いへと身を投じるのであった。
敵よりも厄介な味方、美奈。
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