第三十一話
約一年半ぶりの更新となります。
お待たせしてしまい本当に申し訳ありませんでした。
女神の呪縛からアイラを救う。
そのために一人、動き出すことを決意した俺は竜宮君達を救出するためにダンジョンへ向かった時に着たポーションがいれられるベルトを纏い、さらにその上で錨君の作業場である工房に置いてあった斧と剣を拝借する。
勝手に持っていくのは気が引けるけど、あとでハゲるほど土下座する。
皆に気付かれないように準備を整え、革製のカバンを部屋から取り出した俺が次に向かったのは美奈の研究室。
そこで戦闘に持っていくポーションを取っていく。
「そーっと、そーっとだぞ……」
我ながら情けない動きをしながら、暗闇が支配する廊下を抜き足差し足で歩いていく。
ここで誰かしらに気付かれてしまえば、芋づる式でクラスメート全員に情報が伝達してしまう。
そうなってしまったら、俺に与えられた選択肢は、拷問という名のファッションショーで社会的に死ぬか、尋問という名のファッションショーでゲロって社会的に死ぬかのどちらしかない。
いや、もしかしたらそれより恐ろしいことに……。
「そ、想像したくねぇ……」
ある意味巨人と戦った時以上の命の危険を感じながら、ようやくいつもポーションの試飲やら作成を行っている研究室へと到着する。
しかし、明かりがついている。
「誰かいるのか……?」
そっと扉を開けると、そこにはテーブルに突っ伏している小柄な影。
そいつ―――美奈は規則正しい呼吸をしながら、目を閉じている。
「相変わらずだな……」
そんな様子の美奈にどこか安心しながら、俺はカバンにありったけのポーションを詰め込んでいく。
ベルトには戦闘で主に使うマッスルグレートΣ3、フィジカルブーストX3、そしてエマージェンシーミックスXなどを装備していく。
「……このくらいだな」
あまりカバンに詰め込みすぎると割れるからな。
動き回る可能性もあるわけだし、このくらいが丁度いいだろう。
あとはアイラの目覚めを待って、ダンジョンに転移してもらえばいいだけだけど———、
「イズミくん、そこは違う。合体パーツはそっち……それ、足だよぉ……」
「なんの夢みてんのお前?」
そんな寝言を繰り出してくる美奈にそうツッコまずにはいられなかった。
なんで俺の出る夢になんで合体パーツが出てくんの? え、俺ロボットみたいに合体させられてんの? 生き物ですらなくなってんの?
凄まじい寝言をしている美奈に戦慄しながら、椅子にかけられている白衣を背中にかけてやる。
「風邪ひくぞ。全く、本当に世話がやけるやつだな。お前は」
「ぐふぅ」
「……もしかしたら、帰ってこれないかもしれない。だけど、できるだけ帰れるように頑張る」
へにゃりとした寝顔を見せる美奈にそう言い放った俺はカバンを肩にかけ、その場を後にする。
柄にもなく弱気なことを言っちまったな。
口に出してから照れくさくなっていると、気を抜いた俺が悪かったのか―――背後から何かが背中に激突してくる。
「うごぉ!?」
軽い。
軽いのだが、脱力しながら背中に飛び掛かってきた何か―――美奈は寝ぼけた目を擦りながら、呑気な笑顔を浮かべていた。
「おぉ、イズミ君。おはよぅ。おやすみ」
「待て待て!? せめて俺の背から離れろ!」
なにこいつ抵抗とかないの!?
背後からがっしりと足と手で挟み、身体を固定した美奈に俺は戦慄する。
「ええい、美奈! 離せ!」
「ぐへへへ、いいではないか、いいではないかぁー」
こいつどういう夢見てんの!?
なんで女子高生がお代官じみた夢見てんの!? しかも俺が合体ロボとして扱われてる夢の延長戦が、これなの!?
折角、シリアスに決めてたのに台無しなんだけど!? えらいお荷物背中に装備しちゃったんですけど!?
「ま、ままままずい! こんなところにアイラが来たら、ピンチどころじゃねぇ!?」
一刻も早く美奈を引きはがそうとするが、親猿の背中に張り付く子ザルくらいのしぶとさを見せる美奈。
普段の貧弱なこいつのどこにそんな力があるのか分からないが、とにかくやばい。
なんとか美奈を引き離すこと数十秒、テーブルやら棚に構わずぶつかってしまったせいか、研究室のある一階に人の声とたくさんの足音が聞こえる。
『ここに泥棒に入るとは度胸があるわねぇ!! 皆、捕まえ次第、捕まえるわよー!!』
『あのさ、黛さんが、またなにかやってるだけじゃ……?』
『もしものことがあってからじゃ遅いわ! とりあえず怪しい人物がいたら捕縛よ!! 恵、瑞希! いつでも動けるようにしてて!!』
『『りょうかーい』』
「まじやばい」
今の自分の姿。
剣と斧を携え、大量のポーションを所持。
子ザルのごとくしがみつく美奈を背中に装備。
ど う み て も 不 審 者
クラスメートという部分を差し引いても尋問は免れない……!
しかも、ここに向かっているのは裁縫スキル持ちの青葉さんと大槻さんだ。
バフなし状態の俺では、秒で拘束される……!
「出なくては! この研究室から!」
もう四の五のいってられねぇ!
美奈を背中に背負ったまま、そのまま研究室の扉を開き、すぐに入り口から出る。
幸い、まだ近くには来ていない。
ギリギリ見られるかもしれないが、ただの空き巣と認識してくれた方が今はマシだ。
そうと決まって早速行動に出た俺は、音を立てないように早足で廊下を進んで行く。
『黛さーん! 大丈夫ー?』
先の角から明かりが見えるが、俺が外に出る方が早い。
咄嗟の判断が、運命を決する。
ぶっちゃけ、研究室の窓から出ればよかったのだけど、テンパってたらそんな考えは頭に浮かんでこなかった。
しかし結果オーライ。
そのまま悠々と外へと出ようと、瞬間―――、
「イズミさん」
「っ!!?」
背後の階段から―――この暗闇に似つかわしくない、明るい声が響く。
後ろを振り向くと同時に俺へ向かって、現実味がないほどの綺麗な少女が抱き着いてきた。
いや、抱き着くなんて言う甘いものじゃない。
逃がさないように、しっかりと押さえつけるように捕獲した彼女、アイラは至近距離で機械的な笑顔を向け―――、
「ダンジョンへ行きましょう!」
「嘘だろォォォォ!?」
―――そんなことを口にした。
出待ちされたの!? 女神の分身が出待ちするとか最低じゃねぇの!?
アイラと俺、ついでに背中の美奈が黄金色の光に包まれる。
これって、もしかして強制的にダンジョンへ転移させるってあの……!?
「さあ、勇者様の資質を持つ者よ。私はあなたさまの訪れを心よりお待ちしておりました。これより繰り広げられるは、死と隣り合わせの試練。しかし大丈夫、たゆまぬ勇気とたしかな力があれば、乗り越えられないものはありません。見事、乗り越えられた暁には誉れある勇者様にこの身を―――」
耳元でビデオテープのように棒読みで叩きつけられる言葉の暴力に、頭がおかしそうになる。
いよいよ泣きたくなったその瞬間、そんな俺達の元に明石さん達、女子の集団が現れる。
「え、イズミ君!? なにしてるの!?」
「痴情のもつれ!?」
「昼ドラ展開!?」
「これはクラス会議。荒れるわね」
「君達、これを見てそんなことしか思い浮かばな―――」
———いの!? と言い終える前に、俺達の周りに発せられた黄金色の光は弾けるような輝きを放つ。
それに伴い一瞬の浮遊感が襲い掛かる。
床とは違う、地面に着地した俺は背中の美奈の安否を確認しながら、周りを見る。
「えぇ……」
岩の天井と、自然が作り出した明かり。
それに照らされた青々とした森の、不自然に開けた空間に俺達はいた。
本当は、もう少し準備とか覚悟をしてからここに来るつもりだった。
なので美奈を連れてくるつもりもなかったし、明石さん達にもバレるはずもなかった。
「さ、最悪だ……」
まだ戦ってもいないのに絶体絶命の状況に突き落とされた俺は、眠るように膝を抱えているアイラを見て頭を抱えるのであった。
出待ち待機の女神パワー。
次回の更新は明日の18時を予定しております。