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第二十九話

今回の話で、真面目に彼女の登場人物紹介を変更するべきか悩みました。


 到底信じられるものではなかった。

 あんな気弱な性格の少女が、危険な存在なんて。

 呆然とする俺に、ファイラルさんは話しかけてくる。


「あの子について、女神からなんて説明を受けた?」

「あ、ああ、それは——」


 混乱しながらも女神から聞いたアイラのことについて説明する。

 女神が作り出した人間だと。

 女神の力で無意識にモンスターを引き寄せてしまうと。

 アイラ・アルテミアはダンジョンで友達が欲しいと。


「もしかしたらと思っていたけれど……やっぱりあいつは隠していたんだね」


 俺の説明を聞いたファイラルさんは額を手で押さえ、重いため息をついた。


「女神は、君に全てを伝えていない」

「……はぁ、やっぱりか、そうだと思いましたよ」


 もしかしてとは思ったけれど。

 だんだんと女神にも慣れてきたと思っていたところだが、それは間違った認識だったようだ。


「彼女の正体は……ダンジョンという試練の場で英雄を作り出すための舞台装置」

「……舞台、装置?」

「あの女神は確かに人間をベースに自身と同じ容姿を持つ存在、アイラ・アルテミアを作り出した。……そこまではよかったけれど、奴は戯れにある機能を彼女に追加してしまったの。ダンジョンにおいて、英雄を作り出すための機能を」


 英雄を作り出す。

 それは以前、アイラスがダンジョンについて説明する際口走っていた言葉だ。

 あの時はそこまで気にするほどでもなかったが、今はその言葉が薄ら寒いものに感じた。


「……それは、どんなものなんです?」

「アイラと共にダンジョンへ潜った者は、ダンジョン内で大量のモンスターとの戦いを強制されること。下層のモンスターまでもが駆り出され、全力で殺しにかかる中で生き延びることができれば——」

「英雄としての価値がある……と?」

「そう。だけど、今まで超えた人はいなかった。私が手を出さなければ、数えきれないほどの犠牲者がでいたかもしれない」


 あの女神が言っていた協力者はファイラルさんだったのか。

 孤独の探索者っていうくらいだし、強力なスキルでも持っているのだろうか?


「これは奴にとっても予想外の事態だった。なにせ、課される試練は常人には到底無理な試練だったから。止めようにも、その機能を完全に停止するにはその試練を達成する者が現れなければならなかった」

「だ、だけど、最近はなかったんですよね?」

「アイラ自身が顔を隠し、一人でダンジョンへ潜ることが多くなったからだね。だけど、試練に値するものを見つけたら、彼女の意志に関係なく強制的に試練が始まってしまう」


 女神の力を使うときは意識はない、と女神は言っていたが、意志に関係なくとは聞かされてはいなかった。


「その状態になったら彼女の意志はほぼなくなり、対象者と共にダンジョンへ向かうことのみを優先するようになってしまう。君がさっき見た彼女の状態がその前兆みたいなものだね」


 ダンジョンへ行かなくてもいい、そう言葉にした状態でもダンジョンへ向かうようになってしまう。

 彼女の意志そのものを捻じ曲げるような悪辣さに、拳を強く握りしめる。


「そして厄介なのが、魔物を惹きつける他に別の能力を有していること。その一つが、試練に値すると認めたものを自身と共に強制的にダンジョンへと転移させる能力。……多分、さっき貴方がアイラに近づいていたら問答無用でダンジョンへと飛ばされいたかもしれない」

「……嘘、だろ?」


 様子がおかしいとは思っていた。

 目が虚ろで、無機質に俺を見ていた彼女は、まさしく俺を試練へと駆り立てようとしていたのか。


「君にとって最悪なのが、試練の対象が一人だけではないこと。もしかするなら、君一人だけじゃなくここにいる子達も巻き込まれるかもしれない」

「……そん、な」


 声が震える。

 体の芯から凍り付くような感覚に苛まれる。

 もしかしたら、俺達を試練に値するものだと判断したら、アイラの中の意識は俺だけじゃなくクラスメート全員を強制的にダンジョンへと転移させて、押し寄せてくるモンスターと戦うことになっていたのか?

 俺のせいで、皆が巻き込まれてしまったのかもしれない。


「貴方とアイラが接触したのは偶然じゃない」


 ファイラルさんが告げた、言葉に思わず顔を上げる。

 偶然じゃない? ギルドで彼女と偶然ぶつかったことを言っているのだろうか?


「私はいつ犠牲者がでても助けられるように、アイラが誰かを伴ってダンジョンへ入らないかをギルドで目を光らせているの」

「それが、どうしたんですか?」

「だから、君がアイラと接触したところも私は見ていたの。……アイラが貴方にぶつかる直前、フードか一瞬だけ見えた彼女の瞳の色は……」


 少しだけ思い悩むように言い淀んだフィオネラさんだが、すぐにその答えを口にした。


「金色に輝いていたよ。女神アイラスの瞳のような、目障りなくらい眩しい色にね」


 それってあれか? 最初の警告も俺がアイラと偶然ぶつかって知り合ったのも、全部あの邪神のせいだったっていうのか?

 あのマッチポンプド外道女神がァ……!

 今からあの女神を懲らしめるポーションを美奈に作ってもらえないだろうか? 

 いやむしろ、今の俺ならこの燃え滾るような怒りだけで、アイラの肉体にとりついた悪しき邪神を滅することができるかもしれん。

 静かに女神への報復に燃えていると、ファイラルさんが扉の先へと視線を向けた。


「———誰か来る」

「え?」


 我に返ってファイラルさんを見るも彼女の姿はどこにもなく、その代わり後ろの扉がゆっくりと開け放たれ、誰かがこの部屋に入ってきた。


「イズミさん」

「……ッ!?」


 先ほど、宿舎へ戻っていったはずのアイラの声。

 どうして彼女がここに? 戻ってきたのか?

 ビビりながら後ろを向けば、そこには薄っすらと“笑み”を浮かべた彼女の姿があった。


「見つかってよかったです!」

「俺を探していたのか?」

「はい!」

「……そう、か」


 嬉しそうにしているアイラ。

 彼女が笑っている。笑顔を浮かべてくれている。

 普通なら喜ぶべきはずなんだが、今の俺はそうできるほど楽観的な思いは抱けなかった。


「アイラ」

「なんでしょうか?」

「なんで君は……いつも被っているフードを外しているんだ?」


 一目で笑っていることが分かるのがおかしいんだ。

 少なくともギルドで顔を見た以来、彼女は一度も俺を含めた誰にもその素顔を見せてはいなかった。

 彼女は笑顔のまま首を傾げる。

 数秒ほど考えた後、変わらぬ笑顔のまま明るい声を投げかけてくる。


「イズミさん、ダンジョンへ行きましょう!」


 身体の芯から凍り付くような恐怖に苛まれる。

 震えそうになる声を押さえ、アイラに話しかける。


「君はついさっき、ダンジョンに行かなくていいって……」

「? なんの話ですか? 私、そんなこと一度も言っていませんよ? おかしなイズミさんですね」


 違う、俺がおかしいんじゃない。おかしいのは君の方だ。

 変わらない笑顔のままでそう答えたアイラに、思わず後ずさる。

 よく見れば、ここにきてから彼女の表情は一切変わらず笑顔のままだ。

 その笑顔は完璧な美しさを誇る女神のもの。それを向けられれば大抵の奴は今感じている恐怖も何もかもを忘れ、心を奪われてしまうだろうが、優利やら女神などで見慣れている俺にとっては恐怖でしかなかった。


「イズミさん、ダンジョンへ――」


 こちらに近づいてきたアイラが、こちらに手を伸ばしたその瞬間、ガっ、という打撃音と共に彼女は前のめりに倒れてしまった。


「なっ!?」


 地面に倒れる前にアイラを支えると、彼女の立っていた場所には手刀を構えたフィオネラさんがいた。

 恐らく、アイラが何かをする前に気絶させてくれたのだろう。


「ごめん。私が思っていたよりも事態は深刻みたい」

「あ、ありがとうございます。っ!? ファイラルさん、その手は……っ」


 当て身をしたであろうファイラルさんの手が刃物で切り刻まれたように傷だらけになっていた。

 服の裾をちぎり包帯代わりにして応急処置をしたファイラルさんは、痛みに耐えるように僅かに顔を顰めた。


「私のスキルを用いれば、一瞬の接触で気絶させるところまではいけるけれど、その後がこうなってしまう。いつもどおりとはいえ、やっぱり慣れない……」

「研究室に回復ポーションがあるので、今持ってきます!」

「そうしてもらえると、とても助かる。あと、私の名前はフィオで構わない。ファイラルだと言いにくいだろうし」

「は、はい」


 とりあえず気絶したアイラを寝かせ、部屋を飛び出して回復ポーションを取りに行く。

 もう猶予はないかもしれない。

 しかし、今の俺には現状なんとかできる手段は見つからない。

 だとすれば、俺が選べる選択肢は一つしかない。


「面倒ごとふっかけるくらいなら、少しは協力してもらわなきゃな……!」


 諸悪の根源であるあの女神ならば、アイラをどうにかする方法をしっているはずだ。

 夜、彼女に会いに行くことを決めながら俺は、研究室へと駆け込むのであった。


いざ文字に起こしてみると、とんでもないやらかしを行っているキャラ……それがマッチポンプド外道こと、女神アイラスです。


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