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第二十二話

第二十二話です。

優利の案内の元、ギルド一階の受付にて俺が訪れた旨を受付嬢さんに伝えると、受付の奥の待合室? のようなところで待つように指示された。

 なにやら、重要な話のようなので俺一人で話をすることになっていたらしく、仕方なく優利には外で待ってもらうことになった。

 会議室ほどの広さの部屋で数分ほど、椅子に座って緊張していると扉が開き一人の壮年の男性が部屋に入ってきた。歴戦の戦士を思わせるキリッとした顔つきに、見てすぐに分かるくらいのいかつい体格に委縮しながらも、それを表に出さないようにする。


「君がイズミ・ダイキ君でいいかな?」

「は、はい」


 鋭い視線がこちらに向けられ、声が上ずってしまう。

 そんな俺を見た男性は、厳しそうな表情から一転して柔らかな笑顔を浮かべた。


「ははは、緊張しなくてもいい……と言いたいけど、それは無理そうだね」

「……へ?」

「我ながら厳つい顔をしているから初対面の相手には大体怖がられてしまうんだ。はじめまして、私はこのグランゼリア王国、ギルド第3支部の長を務めているジェイク・ガムレットというものだ。よろしく、イズミ・ダイキ君」

「……あ、はいっ、よろしくお願いします!」


 気さくに手を差し出してきたジェイクさんに握手をする。

 第一印象で怖い人だと思ってしまったけど、いい人そうだ。


「イズミ君と呼んで構わないかね?」

「はい、全然構いませんよ」

「ありがとう。私のことはジェイクで構わないよ」


 俺とテーブルを挟むように椅子に座ったジェイクさんは、小脇に抱えていた本を置いてこちらに視線を向ける。


「体はもう大丈夫なのかい?」

「ええ、実のところ最初に目覚めた時からポーションで完治していたんですけど、大事をとって城で体を休めていたんです」

「報告では相当な状態だったと聞いていたんだけどね。例のポーション作成持ちの……マユズミ・ミナという少女が作ったポーションを飲んで?」

「はい」

「そうか……彼女はここには来ていないのかな?」

「あー、あいつは新しいポーションの開発に没頭して、来れない状態になってしまいまして……」

「ははは、それはしょうがないな」


 完全な美奈の勝手なのだが、それを笑って許してくれるジェイクさんに“これが大人の余裕”と思わされる。

 内心で感嘆としていると、ジェイクさんは続けて言葉を紡ぐ。


「君をここに呼んだのは新しく見つけた地下空間に生息していた巨人についての話と……君達の話を聞きたかったからかな」

「俺達ってことは……美奈のこともですか?」

「ああ、でも君から話を聞ければそれで十分だ」


 まあ、ポーションによって無理やり肉体を強化したとはいえ、あの巨人を倒した俺と美奈に興味を示してもおかしくはないか。

 ここは下手に嘘はつかず、全部話してしまおう。

 ギルドには、俺の戦いの始終を見ていたアスクルさんがいることだし。


「それじゃあ、まずはあの地下空間で戦った怪物たちについてですが……」


 頭の中で話を整理しながら、ジェイクさんに地下で起こったことを説明する。

 相槌をしながら、手元の書類に文字を書き込んでいたジェイクさんは俺が気絶したあたりまで話を聞くと、感嘆としたように腕を組んだ。


「ここ数十年見ることのなかった新しい怪物と、地下空間か。やはり戦った本人から話を聞くと凄まじいものがあるな」

「俺も必死でしたから……」


 そう、必死だった。

 あの理不尽女神のかましてきた無茶ぶりのせいで何度あの時死を覚悟したことか……。


「実のところ、君達が大けがを負ってダンジョンから帰ったとき、アスクル……君達と同行したベテランの冒険者の言葉に誰もが疑いを持っていたんだ」


 アスクルさんは、竜宮君達と一緒にダンジョンへ潜った冒険者の人だな。

 足を怪我していただけど、大丈夫だったのだろうか?


「その後、私を含めた十数人の冒険者を集め探索隊を編成し、地下空間への探索に向かったのだが……そこに存在していたのは、溢れんばかりの小型の竜種の亡骸と、我々の常識では計り知れないほどの大きさの人型の怪物だった」

「まだ、残っていたんですね……」

「あんな巨大な怪物がつい先ほどまで二本足で歩き、暴れていたなどと想像したら鳥肌がたったよ」


 正直、今思うとどうして俺があんな存在に立ち向かえたのか、信じられないくらいだ。

 それくらい巨人は俺にとって恐ろしい存在だった。


「しかし、それ以上に巨人を屠った君という存在に興味を持った」

「……えーと」

「ああ、心配はいらない。君をここの冒険者に無理に誘うようなことはしないよ。ま、本音を言うなら君にもギルドに所属してほしいところだけどね」


 微笑みながらそう言葉にしたジェイクさんの言葉に、少しだけ安堵する。

 しかし、俺と美奈の力か……別に言ってもいいかな? 既に俺が巨人を倒してしまったことはギルドに知られているので、隠しても意味はないだろう。


「分かりました。俺と美奈のスキルについて話しましょう。それと、巨人との戦いのことも?」

「ああ、頼む」


 一つ頷いた俺は、自身の対毒スキルと美奈のポーション作成スキルについて、竜宮君達を助けに地下へ向かい巨人と戦ったことをジェイクさんに話していく。


「———、なるほど。ポーションで肉体強化か。君の友人であるアキラ達の力を見て、異世界人の持つスキルは同名のスキルと比べて異質なものと認識していたけど……巨人さえも屠る力か」

「といっても、それぐらいの強化を行った後は身動きが取れない状態に陥ってしまうんですけどね」

「それでも凄まじいよ」


 一通りの話を聞き終えると、彼は考え込むように顎に手を当てる。

 暫し、無言になってしまった彼に、首を傾げていると考えがまとまったのか、静かに口を開いた。


「うちのギルドにも巨人を倒せるものはいるだろう。しかし、それは多くの経験を積み、己の力を高めたことで可能にしていることであり、スキルを覚えてから半年も経っていない少年ができることじゃない。ましてや、君の口ぶりからすると、危険を承知で友人を助けに地下に向かったと思える。それは……なぜなんだい?」

「……それは、友達を助けにいくため……です」

「その理由もあるだろう。だけどね、僕には君がそう行動するしかなかったとしか思えないんだ」


 女神に無理やり口止めされているから、彼女の存在をほのめかすような発言はしていないはずだ。

 だけど、目の前に座っている彼は俺が何かを隠しているということを、確信している。


「どうして、そう思うんですか?」

「君と同じような行動を起こしていた人物を知っているんだ」

「俺と同じ……?」


 もしかして、俺をダンジョンまで案内してくれた銀髪の少女のことだろうか。

 彼女の俺と同じく女神に振り回されていたと言っていた。

 もし、俺の考えている人と、ジェイクさんの指す人が同じ人だったのなら、もう一度俺は彼女と話をしなければならない。


「すまない。踏み込んだ質問をしてしまったようだ」

「いえ、煮え切らない態度を取ってしまった俺に非があります」

「それでもだ。君の仕草、反応を見るに“言えたくても言えない”のだろう?」

「!?」

「頷かなくてもいい。気分屋の女神か、はたまた上位存在の権能かは判断できないが、君はそれに魅入られてしまっている」


 ほぼ核心を突くジェイクさんの言葉に驚愕する。

 俺の反応を見るだけでそこまで見抜いてしまったのか? 

 女神の能力でジェイクさんの言葉に返答も頷くこともできずにいる僕に、彼は構わず話しかけてくれる。


「残念ながら、君の抱える問題は人間にはどうすることもできない。しかし、一人でなんでもしようとは思わないでくれ。例えポーションの効果でいくら体が強くなったとしても、心までは強くはならない」

「ジェイクさん……」

「イズミ君、君には心の底から頼れると思える仲間がいるかな?」

「……はい」

「なら、思う存分に頼るといい。共に支え、助け合うことができるのは素晴らしいことだからな」


 俺の脳裏に過ったのは、一緒に転移してきたクラスメート達。

 個性がそのまま人の形になったようなメンツが一つのクラスに集められたようなクラスメートだけれど、俺にとっては誰一人として欠けてはいけない仲間だ。


「さて、少し長話になっちゃったかな。今日は無理な招集に応じてくれてありがとう」

「俺も、貴方と話せてよかったです。あの、ギルドについてですがもしかしたらお世話になるかもしれないので、その時はよろしくお願いします」

「ああ、いつでも大歓迎さ」


 にっこりと微笑むジェイクさんに頭を下げる。

 ギルドに加入しておいて損はない。むしろジェイクさんと親交を持っておけば、女神に無茶ぶりをかまされた時、ダンジョン関係で色々と便宜を図ってもらえるかもしれない。

 まあ、それを抜きにしても彼と会えたことが、今日一番の収穫だな。

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