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第二十話

本日、二話目の更新です。

 悪ぶりたい年頃の剣崎しおりさんと、そんな姉のフォローをする剣崎淳也君。

 双子の姉弟というクラスでも珍しい立場にある二人であるが、その個性も激しく目立つもでのあった。

 ものの見事に本音を弟に暴露され、猫のような叫び声をあげた剣崎さんは血相をかえて淳也君に詰め寄った。


「淳也ぁ! 今日は黙ってるって約束したよねぇ!?」

「ごめん、姉ちゃん」

「ここでは姉貴って呼べよ! 姉ちゃんとか恥ずかしい呼び方すんな!」

「……姉貴、今日は祝いの席だしさ。そんな悪ぶらなくてもいいんじゃないか?」

「悪ぶってない! 私は元から生粋の悪だ!」


 本当に悪い人は自分で悪とは言わないんだよなぁ。

 あの女神を見ているとつくづくそう思わされる。

 しかも、剣崎さんの場合隠しきれない良い人感が……。


「第一さ、そんな悪態をつかなくてもいいんじゃない? 姉貴の悪ぶりたい病は周知の事実だし」

「う、うるさい! 怒ってる的なことを表現するのは大事じゃん! だって誰かが言わないとまたやるよ! だってイズミ君、絶対わかってないよ!? 今回はちゃんと帰ってこれたからいいものの、下手をすればそのまま帰ってこなかったかもしれないんだよ!?」

「……だってさ。皆」

「はっ!?」


 バッと、こちらを振り向いた剣崎さんは、ほっこりとした視線を向ける僕を含めたクラスメート達の視線を集めて顔を紅潮させる。

 なんというか、クラスの良心だよなぁ。

 どうして悪ぶりたいのか理由は知らないけれど、間違いなく心優しい人には違いない。


「お」

「お?」

「覚えてろよ! この毒人間!!」


 羞恥に悶えたまま、俺を指さした剣崎さんは、料理ののせられたお皿を手に取ると、逃げるように食堂から飛び出して行ってしまった。

 彼女の姿を見送った淳也君は、軽いため息をつくと立ち上がった。


「全く、姉ちゃんも変に悪ぶりたい性格とか直せばいいのに……」

「ごめん、淳也君」

「いいんだよ。でも、姉ちゃんの言いいたいことは俺も同じだからさ」

「……うん、分かってる」

「よし、じゃあ俺は飛び出した姉ちゃんを追っていくわ。多分、どこにいけばいいか分からず途方に暮れているだろうしな」


 そう言って、淳也君は食堂から出て行ってしまった。

 分かってはいたけれど、俺は皆にたくさんの心配をかけてしまっていたようだ。


「空気が重い」

「おぐぉ!?」


 やや重い空気を打ち壊すように、明石さんが竜宮君の背中をやや強めに叩いた。

 特に理由もなく叩かれた竜宮君は、涙目で背中を押さえながら隣にいる彼女を睨みつけた。


「ア、アカリ、いきなり何するんだよ!」

「なーんで祝いの席なのにこんな空気になっちゃうのよ。そういうのは帰ってからもう十分にやったでしょ」

「そ、そうだけどさぁ!」

「ならいいじゃない。イズミ君も私も元気のない貴方より、いつもの鬱陶しいくらい明るい貴方の方がいいのよ」

「鬱陶しいくらいってどういうことだ!?」


 俺としてはうざいくらい、というより時々直視できないくらいに爽やかなだけだな。

 余程ショックだったのか詰め寄る竜宮君を押しのけた明石さんはこちらに顔を向ける。


「あー、貴方に伝えておくことがあった」

「え?」

「イズミ君と黛さんってギルドの許可なしに迷宮に入ってしまっていたから、ギルドで色々と話がややこしくなっちゃってね」

「え、もしかして、捕まる……とか?」


 確かに俺達のやったことはちょっとダイナミックな不法侵入だったけれども。

 若干顔を青ざめさせた俺に、明石さんは安心させるように手を横に振る。


「いやいや、それは一緒に同行してくれた冒険者のアスクルさんと、匿名の冒険者の人の証言もあっておとがめなしになったのよ」

「匿名の冒険者……?」


 もしかして、女神に頼まれてダンジョンにまで道案内をしてくれたあの小柄な銀髪の少女のことだろうか。

 確か、フィオネラ・ファイラルさん……だっけか?


「おとがめなしになったんなら、何がややこしくなったの?」

「ギルドが貴方に興味を持ったみたいなの」

「俺に? なんで?」

「単純にイズミ君の力が気になるみたい」


 ギルドとかファンタジーの定番だなぁ、と他人事のように思っていたけど、まさか興味を持たれるなんて思わなかった。


「ということは……俺と美奈はギルドって場所に行かなくちゃいけないのか?」

「そうなるわね。あぁ、私達の身分は王国が保証してくれているから横暴なことはされないはずよ。……というより、ギルド長は悪い人じゃないからそこは安心していいわよ」


 それなら変に身構えなくても大丈夫か。

 色々と不安なこともあるけれど、ギルドってところにいくのもちょっとだけ楽しみだ。


「いつ頃行けばいいんだ?」

「できるだけ早い方がいいかもしれない」

「じゃあ、明日あたり行ってみようかな。美奈、聞いてたか?」


 隣の美奈に声をかけると、彼女は首を横に振った。


「ううん! 全然!」

「うーん、良い返事。気にせずご飯を食べてなさい」

「うん!」


 こいつには後でちゃんと説明しておこう。

 心の中にそう決めていると、さっきまで消沈していた竜宮君がハッとした表情で顔を上げた。


「じゃあ俺がイズミと黛さんをギルドに案内するぞ!」

「アキラ。私達は明日、城にいかなくちゃいけないんでしょう?」

「あ、そうだった」

「案内は……うーん、佐藤君に任せようかしら」


 優利の名前を口にした瞬間、錨君と俺の肩が震えた。

 特に錨君なんて、持っていたスプーンを落とすくらいに動揺している。

 一気に体が冷えるような感覚に顔を青ざめさせながら、曖昧に頷くと明石さんは錨君に視線を移した。


「それで、さっきから気になってたんだけど錨君はその……」

「明石さん、時には見て見ぬふりをすることが必要なことがあるんだ。錨君には、触れないでやってくれ……」

「え、ええ」


 錨君に声をかけようとした明石さんを止める。

 竜宮君も事情を把握しているのか、腫物を見るように目を背けた。

 その後、空気を入れ替えるべく、別の話題に花を咲かせているうちに圧倒言う間に時間が過ぎて、憩いの時間は終わりを告げた。

 皆で食器を片付けた後、俺はその場で軽く背伸びをする。


「さてと、お腹も膨れたことだし部屋に戻——」

「イーズミ君♪」


 甘い声が後ろから聞こえた瞬間、俺はなりふり構わずその場を駆けだした。

 俺がそうすることが分かっていたのか、背後にいた声の主は呟くように声を漏らした。


「青葉さん、確保」


 その声と共に、周囲で風切り音が鳴った瞬間、俺の体は毛糸でぐるぐる巻きにされていた。

 この目にも止まらぬ早業は、青葉さんゥ!?


「ごめんなさい、イズミ君。大人しく新作の実験台になって!」

「い、嫌だ! 美奈、助けてくれ! 美奈ぁ——!」

「ぐぅ……ふへへへ……」


 咄嗟に美奈に助けを求めるが、当の本人はテーブルに突っ伏して寝ている。

 腹いっぱいになったら寝るとか、生態がカピパラそのものじゃねぇか!

 クラスの皆に助けを求めようとすると、頼れる男子勢は悔し気に目を背けるだけであった。


「俺達、クラスメートだよなぁ! 見捨てないでくれぇ!」

『……くっ』

『下手すりゃ、こっちに飛び火するから……』

『人は止められても、鬼は止められん。すまない、イズミ……!』

「さて、イズミ君。楽しい楽しい二次会へゴーだよ」

「いやああああ!」


 この日、俺はダンジョンなんて比じゃない地獄を見た。

 そして優利の気持ちを少しだけ理解することができた。



クラスメートから見捨てられた主人公が見た地獄とは……!


次話以降は18時より、毎日更新という形で連載していきます。

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