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第二話

第二話です。

 目を覚ました俺が最初に見た光景は、見覚えのない木製造りの天井であった。

 曖昧な記憶のまま、起き上がると誰かに手を握られていることに気づいた。手元を見れば、予想通りの人物が俺の手を握っていた。


「美奈か……」


 だらしない寝顔で、俺が寝かせられていたベッドに突っ伏している美奈がいた。

 なんだか分からんが、人肌の温度があるってことはここは死後の世界って訳じゃなさそうだ。

 周りを見れば、診療所のような沢山のベッドが並んでいる中の一つに俺は眠っていたようで、俺以外にベッドにいる人はいない。

 閑散とした空間の中で、俺と美奈だけがいた。

 ……教室から、誰かにどこかに連れていかれたのか?

 途方にくれていると、奥に見える扉が開かれ、誰かが入ってきた。


「っ、目覚めましたか!」


 驚いたことに、その人は緑色の髪色をしていた。

 人間離れした髪色を持つメイド服姿の女性は、ベッドから起き上がっている俺を見て、速足でこちらまで近づき、丁寧なお辞儀をした。


「はじめまして。イズミ・ダイキ様。私はメイドのアウルと申します。……事情の方は、マユズミ様からお聞きしているでしょうか?」

「いえ……あの……ここは……?」


 突然、様呼ばわりされて面を食らってしまうが、それよりもまずは状況を知りたい。

 俺は、いったいどうしてこんなところにいるんだ?


「まずは落ち着いて聞いてください。決して取り乱さないように」

「……分かりました」


 念押しにそう言ったアウルさんは、やや緊張した面持ちでゆっくりと口を開いた。


「貴方様は、別の世界から、この世界に連れてこられました」

「……は?」


 あまりにも荒唐無稽な言葉に、意味が分からず惚けた声が漏れる。

 それでも尚、アウルさんは言葉を紡ぐ。


「まずご理解してほしいのは、貴方様をこの世界に連れてきたのは、我々ではないことです。皆様は我々より上位の存在に選ばれてしまい、この世界で未知を切り開く使命を受けてしまったのです」

「……ちょ、ちょっと待ってください。上位の存在とか、未知を切り開くって……」


 パニックになりかけ、考えるよりも言葉が飛び出した俺に、アウルさんは落ち着かせるように肩に手を置いた。


「お身体は大丈夫でしょうか? 身体に違和感や痛み、眩暈などはありますか?」

「え、い、いえ、これといって問題はありません」

「それなら、歩きながら説明いたしましょう」

「歩きながらって……どこで……?」


 そう問いかけると、アウルさんはやや複雑な表情を浮かべた。


「イズミ様のくらすめーとの方々のいるお部屋へご案内します」


 状況は未だに理解できない。

 いきなり別の世界からきたと言われてもはいそうですか、と納得できるわけがない。

 不安げに傍らにいるミナを見れば、未だに呑気に寝ている。

 ……とりあえず、最初にこの寝坊助を起こすことからはじめよう。



 ベッドのある部屋を出て、アウルさんに案内されること数分。

 その間に俺達が、なぜ異世界から連れてこられた理由を聞いた。

 勿論、全ては信じていないが、窓の外から見える中世っぽいレトロな景色と城の内装からして、全てを否定するのは早計だと判断して大人しく彼女の話を聞いていた。

 アウルさんの説明によれば、この場所は『グランゼリア王国』の城に位置する場所であり、俺たちは王国の庭園に光と共に現れたらしい。

 その際、俺と美奈を含めたクラスメート二十人が光と共に現れたらしいが、俺に限っては隣で欠伸をしている美奈に押し潰されて気絶していたらしい。

 ……なんで俺だけ異世界に到着した瞬間に気絶しているのかと思ったら、このアホ娘のせいだった。

 しかも――、


「いやぁ、ごめんねー。私、重くてさー」


 女子らしさの欠片も感じさせない謝り方に、血管が弾けそうになりながらもかろうじて笑みを保つ。

 こいつにはあとでこめかみグリグリの刑に処すことにして、問題は転移した後だ。

 どうやら、王国の人々は俺達が集団で転移されることを知っていたらしい。

 気絶した俺を美奈と共に医務室へ運んだその後、クラスメートたちはすぐさまグランゼリア王国の王様との謁見の場へ迎えられた。


「あの、俺達が転移したってのは本当のことなんですか?」

「誓って、嘘偽りはありません。最初に申し上げましたが、皆様が城に転移してきたその原因に私たちは関与しておりません」


 ……嘘を言っているかは分からない。

 もしかしたら、俺たちを騙して利用しようとしているかもしれない。

 今は、完全に信用せずに従っておこうか。


「半年前、女神アイラス様より神託が授けられました。『七度目の満月を迎えるその日、未知を切り開く開拓者を招く。知恵を持つ者は、彼らを助けよ。されどその行く道は彼らの心のおもむくままに』……と」

「……」

「……仰りたいことは理解できます。ですが、私達にとって女神様の神託は絶対なものです、もし破ってしまえば……大きな災厄を招いてしまうかもしれない」


 思わず顔を顰めてしまった俺に、そう言葉にするアウルさん。

 もし、彼女の言葉を信じるなら、勝手に俺達をこの世界に送り込んだのはアイラスとかいう女神ってことになる。

 しかも、王国側がそれを断れば、王国……いや、もしかしたら王国の治める土地に厄災が起こるかもしれないということだ。


「神様はいつだって自分勝手だよ」

「……久しぶりにお前と意見があったな」


 美奈の言葉に苦笑しながらも頷く。

 そこで前を歩いているアウルさんが大きな部屋の前で立ち止まる。


「到着いたしました」

「ここに皆がいるんですか?」

「はい。イズミ様とマユズミ様のご友人たちは、ここでスキルの解析を行っています」

「……んん? スキル?」


 またもや分からない言葉が出て首を傾げる。

 隣にいる美奈はその言葉に嬉しさを表すかのようにぴょんぴょんと跳ねた!


「魔法じゃなくて残念だけど、スキルがあるんだね! 早く入ろーよイズミ君!」

「え、は? ちょっと待て、どういうことだよそれ――」


 なんでこの状況でこんな危機感がないのだろうか、この子。カピバラかなんかなの?

 やけにテンションの高い美奈に手を引かれ、アウルさんが開けてくれた扉へ足を踏み入れるのだった。



まさかの王様カット。

次話は零時に更新いたします。


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[一言] 緑髪のアウルさん!?
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