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第十六話

 巨人が突然、後ろへ吹っ飛んだ。

 私達がかろうじて認識できたのは、それだけであった。

 三つのポーションを飲み、巨人へと相対したイズミ君の姿は——、私たちにとって常軌を逸したものへと変貌していた。

 肌が黒く染まり、その目は血走り———まるで、怪物のような姿へと変わり果てていたのだ。


「フシュゥゥゥゥ……!」

「グ、オオオ……!」


 空き上がった巨人とイズミ君がにらみ合う。

 巨人の方は、先ほどの攻撃があまり聞いた様子はなく、その目は怒りに燃えているように見えた。巨人の後方から、ぞくぞくとトカゲの怪物たちも現れ、イズミ君へ襲い掛かる。


「こいよ、化け物共!」

「ォオオオオオ!」


 巨人とトカゲの大群との、戦いの幕が上がった。

 目の前で繰り広げられるのは、理解の及ばないほどの暴力で周囲を蹂躙する巨人とイズミ君の戦い。トカゲ達は、イズミ君にとっての障害にすらならず、ただただ潰され、両断され、屍となって地面に落ちていくしかない。


「俺も、加勢しなくちゃ」


 その光景に、ふらつく足で前に進もうとする竜宮君を、明石さんが止める。


「アキラ、駄目。今の貴方が行っても彼の足手纏いにしかならない……」

「ッ、でも、あいつが命がけで戦っているのをただ見てることしかできないなんて、そんなこと……!」


 私達は、それを見ていることしかできない。

 全快の状態だったならまだ援護はできていたけど、この三日間で私達の体と精神はギリギリにまで削られ、全快から程遠い状態になっている。

 ……いや、違う。


「矢は、残り一本だけ……」


 イズミ君が持ってきてくれた弓を構え、矢筒から今の今までとっておいた最後の一矢を取り出す。

 たった一本だけの矢で何かできるとは思えない。

 だけど、何もしないよりはずっといいはずだ。

 今の私達は、彼に助けられてここにいる。

 ゆっくりと、深呼吸をして弓を構え、矢をつがえる。

 狙うは、巨人の目。しっかりと狙いを定めて、矢を放とうとしたその瞬間——、横から脇腹に衝撃が走る。


「遠藤さん、待って」

「ひゃん!? な、なにするの!? 黛さん!」


 その場を飛びのいた私に、指を構えた黛さんは相変わらずこの場にそぐわない笑顔を浮かべた。


「まだそれを使うときじゃないよ」

「でも矢は一本しかないし、使うとしたら今しか……」

「今は待つんだよ」


 待つ……?


「今のイズミ君は、全力で敵を倒そうとしている。そんな中にたった一本の矢を放ってもほぼ意味なんてない。なら、矢を放つ意味のある状況まで待つしかない」

「な、なにを言っているの!? そんな悠長なことをいっていたらイズミ君死んじゃうよ!」

「死なないよ」


 私の言葉に、確信があるようにそう言葉にする黛さん。

 どうしてそんな断言できるのか、理解できない。今、彼は数えきれないほどの怪物に狙われているというのに……。


「私のポーションを使ったイズミ君がそう簡単に死ぬはずがない」

「だから、どうしてそんなことが言い切れるの!? 私には黛さんの言葉が理解できないよ!」


 どうしてこんな状況で笑っていられる?

 どうしてこんな状況で彼を信じられる?

 私には、この迷宮よりも黛さんの方が得体のしれない存在に思える。


「理解も共感もしなくてもいい。それが私がイズミ君に抱く信頼の形だから」

「信頼の、形?」

「だから、私は彼に言われずともあらゆる手を尽くしたよ? 彼に力を与えて、恐怖を取り除いた」


 その言葉に、私は耳を疑った。

 恐怖を取り除く? それは、それは決して損なってはいけないもののはずだ。

 思わずイズミ君と巨人の戦いから、黛さんの方へ振り返る。


「今、戦えているのもポーションで恐怖を感じないようにしているだけで、本当のイズミ君なら迷わず逃げ出してるくらいに恐ろしいはずだよ。だけど、それでも彼は戦うことを選んだ。誰に命令されているのか、それとも本心で君たちを救いたいのかは知らないけど……」


 そこで一旦区切った彼女は、初めて表情を変え、あどけない子供のような笑顔を浮かべた。


「私は彼が求めるならいくらでも力を貸す。だって……イズミ君は私にとっての最初で最後の友達だからね」

「黛さん、貴女は……」


 瞬間、イズミ君が戦っている方向から轟音が響く。

 口に出しかけた言葉を飲み込み、咄嗟にイズミ君の方を見やると——、数えるのも億劫なほどいたトカゲ共の大部分が消え失せた戦いの場で、今まさに巨人の猛攻を己が体一つで凌いでいる彼の姿が目に映り込んだ。


ここから第1話冒頭のシーンに入りますね。

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