表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/65

六話目です。“あらあら。もう一月二日なのね。”

 僕は金剛のちょいうしろを


(ガニ股で)歩いて付いて行ってるんだけど……


 あれから、

 金剛は一切喋らなくなった。



 まあ当然だよなぁ。


 完璧な当りだったから。


 あれは。



 身体的にも、

 精神的にも、

 結構効いたのだろう。



 ははっざまあみろってんだ。


 バ〜カ。


 ……やっぱ、

 言い返して来ないな。



 拗ねてんのか?



 ん?


 何か薄くなってるな?


 ……………………頭が。



「誰が!は……くっ…………」



 フフン、

 フフ〜ン。


 もうちょっとですな〜



 今、つっこみかけましたな〜



 さっきの僕が言ったあのセリフは〜

 ご主人さまの母上とじじいの、

 やりとりを引用させていただきました〜



 でも金剛は間違いなく薄くなってる。


 全体的に。



 大丈夫かな……

 おっと、

 またこけそうになった。



 (ピタッ)急に金剛が立ち止まった。



 な、

 なんだよ……。



 こっちに振り向き、

 左を必死になって指さす。



 ………。


 ……う〜ん……どーゆーこと?


 喋んないと分かんないだけど。



「私が喋っても、

 君はもう怒りませんか?」



 ……発言の内容次第では……。



「………」



 あらっ?


 まただんまりで……。



 わかった。


 怒らない。



「ほんとかい?」



 本当に。




「……ふうっ……

 よしっ……

 ここが君の家になる場所だ」






 ……………

 …………へっ?



「もう一度言ったほうがいいかな?


 ここが今日から君の家になる」



 あっいやっえ〜〜っと……

 ん〜

 それって僕はこのままってこと?



「四分の一ぐらい正解だな」



 それだと間違いってことだろ。



「……とにかくついて来たまえ」



 今の言い方。


 勘にさわったけど……

 まぁいいや。



 僕は金剛の指差した先のボロアパートへ向かう事となった。



“コーポぽぽぽん”

 滝水市の団地の隅にさりげなく建っている築四十八年の2階建てアパート。


 このあまりにもふざけている名前の由来は当時の家主が

「今日はぽぽぽんな気分じゃね?うっし!決定!」

 だそうだ……

 全くもって意味がわからない……。


 今の家主もなぜ変えないのか不明。



「この階段を昇って、一番奥の部屋だ」



 ……この階段。


 きゅうすぎないか?



 ついさっき、

 やっと二足歩行ができるようになった僕には少々酷だ。



「大丈夫だ。


 最後の一歩で階段を昇りきるその瞬間に段が無くなって、

 つるつるの坂に変わる。


 そして君はなすがままに滑って行き、

 そのままの勢いでドブに顔から突っ込む。


 ……なんてことがあるように願う」



 願うな!


 ボケ!


 最低でも最後は否定しろ!



「ははは!


 心配するな!


 何も起きやしないさ。


 手すりに掴まってゆっくり慎重に一歩づつ昇ればいい。


 老いぼれすぎた老人の歩行訓練かの如く……」



 一言余計じゃ!


 大体お年寄りに失礼だぞ!



「問題ない。


 私と君しか聞こえておらん」



 そーゆー問題じゃない!……

 ……ったく。



 そんな野暮はさて置いて。



 僕は階段へと一歩を踏み込む。



 …

 ……よし次……

 と……

 案外、

 余裕だな。



 堅実に一歩一歩昇りきる。


 金剛が変な気を起こさぬよう、

 度々ガンをとばしながら。



 ……一番奥だったよな。


 金剛。



「そ、そそそそそそその通りでございます」



 あの勢いはどこへやら。


 ていねいに返してきた。


 でも‘そ’多っ!



 奥の部屋まで歩いていく。


 僕に対しびびりきっている金剛を見てこう思った。



 神なんて、

 みんなこんなもんだろうな、

 と。



 部屋の前に着き、

 金剛が呼び鈴を押す。

(ピンポ〜ン)



 しはらくして……



「は〜い!」


 女の人の声だ……

 けっこう美人声だなぁ。



「どちらさま〜?」


「金剛です。ただいま帰りました」


 ガチャ…

(扉が開く音)



 中からは女性が一人現れた。



 “静絵”


 見た目は二十代後半。


 背丈は金剛より少し低いくらい。


 美人顔と黒髪のロングヘアー。


 あと彼女の一つ一つの仕草が大人の魅力を感じさせる。


 いつの時も絶やさない笑顔は柔らかく、

 美しい。



「こんちゃん。


 おかえり〜!」



「母上。


 今の父上の様子をお聞きしたいのですが……」



「あ〜!


 こんちゃん堅い堅い!


 それに今はこんちゃんも静絵さんって呼ばなきゃだめ!」



 噛み合ってないなぁ……



「……あの母上。


 私のしつも……」



「こんちゃん!


 わかった!?」



「ですから……」



「わ!

 かっ!

 た〜!?」



「……わかりました」



「うん。


 聞き分けのいい子に育ってくれて良かったわ〜」



 ……完全に言いくるめられた。


 金剛。


 どんまい。



「あら?


 そっちの子は?」



「…………

 …………ゴン君です」



 何?


 今の間?



「えっ!?


 本当!?


 じゃあ人の姿で来てくれたってことは……

 OKしてくれたんだ!


 そっかー……」



 流し目でものごっつ僕を見てる…………



「かわいい!


 もう!


 お姉さん!


 だきしめちゃう!」

(ムギュ……!)



 くっっはぁぁ〜〜〜〜〜!(奮)


 ………。


 ……ぐっぐるじぃぃ………。



「あっ!


 ごめんごめん。


(やっと解放してくれた)


 ほら、

 立ち話も難だから。


 ねっ。


 早く中に入った入った」



 あ……うしろを取られた。



「早くっ♪早く〜♪」


 静絵さんにうしろから肩を押される形で奥へと入っていく。



 その後を行く金剛は、

 なぜか浮かない顔をしていた……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ