“それいけ!!豚足!!”
今、僕は上様の家に帰って来た訳だけど……。
庭を見れば、僕の姿をした蝉零さんしかいないわけで……。
金剛は何処へ行った?
…………まあいいや。
深くは考えないでおこう。
よし、今行けば誰にも気づかれないよな。
<タッタッタッ……>
はい、ダッシュで蝉零さんの元へ〜。
「な?!何故一人で帰って来た!?」
ふえ?そんなに驚かれても。
「見つかったらどうする気だ!!
不用意に外へ出……」
「はろ〜〜〜。
ぜんちゃ〜〜〜ん」
おえ?静絵さん?何故ここに?
「ん〜ちょっとね〜〜。
はい、ぜんちゃん御邪魔するね〜〜」
静絵さんは目を瞑り、両手を合わせて祈りのポーズをとった。
その瞬間、僕の目の前が真っ白にぃーーー?!
…………と、思ったらいきなり真っ暗ですか。
いったい何をしたんだよ静絵さん!!
んで起きようとしたら……。
<ゴツン……>
痛ぁーーー!!
頭ぶつけたっ!
ここ狭っ!!
「大丈夫か健太っ!!」
どっかの外から、誰かの僕を呼ぶ声が聞こえた。
もう訳判んないけど、取りあえずヘーーーールプッ!!ってかあ!!
「待ってろ、今開けてやる」
あ…開いた。
ごくせまの天井が開かれて、そこからもう変身を解いた蝉零さんの姿が見えた。
一体、もぉーーーどぉーーーなってるんすか!??
「後で説明する。とにかく出てきてくれ」
あっ、はいはい。
んで出れば、そこは……またお庭かいっ!!
結局のところ、何も変わってないし。
静絵さんは何がしたかったんだ?
「君を元の体に戻しただけだ。
それでは私はこれで失礼するぞ」
はいぃぃ?元の体に戻す?
僕、もう元に戻ってるし。
…………ってもういないしっ!!
まあいいや……。
ほんで、それ以降はいつも通り、犬としての日常がやって来た訳で。
上様に晩ご飯貰って。
もちドッグフード。
ちょっと物足りなさを感じたりして。
夜に散歩してもらって。
あ、ちなみに散歩の時、白川さんには会いませんでしたから
ホント、何事もないふつーが一番。
それで、散歩から帰ってきたら、疲れたんで寝るだけ〜〜。
一日終了〜〜〜〜。
<ちゅんちゅんちゅん……>
スズメが鳴いてますな〜〜〜。
もう朝ですな〜〜〜。
今日はお休みなので一日中、犬として過ごす……はずなんだけど。
「それは無理だな」
何でよ、金剛。
「早速だが、只今ピンチでな。
白川嬢がやってきた」
やってきたって静絵さんのとこにっ?!
って別にピンチでも何でもないじゃん。
うまく言って帰って貰えばいいじゃん。
今日、僕は寝て過ごすの!!
「だで無理なの!!」
マネすんなっ!!
つーか何で無理なのか説明してくれよ!
「いや、まあな。
母上も健太君が親せきの家に泊まっていていない、と誤魔化そうとしてくれたのだが、諦める素振りを見せないのだ。
親戚の家はどこですかーとか、何処に行けば会えますかーとかでな」
……マジかい。
だったらさ、金剛が僕に変身すれば……出来るっしょ?
「それだと意味がないだろ。
健太君の人生なのだ。
私に代わりが務まる訳なかろう」
犬の僕には代りをしてくれるのに……。
何か理不尽じゃないか。
「健太君が犬の時は、ほとんど寝るか食べるかしかなかろう」
散歩だってしてるぞっ!!
「とは言っても歩くだけだろうが……」
うー…………やるしか。
<ワォーーーーン!!>
困ったんで、僕は金剛に飛びかかった。
「ぬあーーーゴン君何をぉーーーー!?}
「ふんっ!」
<ぐべ……>
う…後ろから……?
強烈な一撃がくびも…と……に……。
<ばたっ>
「何をもたもたしているんだ金剛」
「……すまん。蝉零。
しかし、健太君は大丈夫なのか?」
「問題ない。
まったく、ほら、さっさと行くぞ」
「あ、ああ……」
………………。
zzz。
……ふえ?
誰だろう?
誰かの顔がボヤーッと見える……。
「お姉様!
健太くんがお気づきになりましたっ!!」
うーん……。
「けんちゃん大丈夫?
ごめんね、わざわざ呼び出しちゃって」
あ…静絵さん。
ここは…………どこ?
外を見れば……?早いねこれ。
「今乗ってるこれはね、新幹線よ」
…………しんかんせん??
………………。
って知ってるよ!!
ドコへっ!!
イズコヘっ!!
何処へっ!!
ちっ畜生っ!!
金剛出てこーーーいぃ!!
「まあまあ、けんちゃん落ち着いて、ね。
はいこれ、どうぞ」
「有難う御座います」
「はい、けんちゃんも」
向かいに座る静絵さんは、すぐ横に居る人と僕に弁当を手渡す。
うーんとても美味しそうだねえ……。
……ってあぶねえ!!
違うよっ!!
んーーーな事はどうでもいいよ!!
一体、どこ行くのさぁ!!?
「えっ?何処へ行くのか気になるなぁ、って?」
聞こえてるでしょーが!!
改めて聞く必要ないっしょ!
「今から私の家に行くんだよ」
ぬわぁ!誰だよ……白川さん?!
いやいや、それはそれで変でしょ!?
新幹線って遠くに行くためのもんだよね?!
どんだけ遠くから学校に通ってんの!!
「……もぐもぐ」
なーーーにノンキに弁当食ってんのさ静絵さんっ!!
「健太くん、弁当食べないの?
美味しいよ」
何、白川さん!
弁当食べてる場合じゃないし!!
気失って、目覚めたら新幹線で、どっかに連れられて。
ああーーーもう帰りたいぃ…………。
こーしてる間も猛スピードで……。
早いね……これ。
「外、見てないで後ろを見よ」
この声……金剛っ!!
てめえ…………
……!!
振り向いたら、白川さんと目が合ってしまった。
「…………嫌、かな?
……やっぱり」
ええ!?いや、あのぉ……ただね、この現状ってやつがね、よくね、わかんなくてさ…………ほらぁ静絵さん!!代弁してよさぁーーー!!
(がんばれ、けんちゃん)
無責任すぎでしょーーー!!
<ピンポンパンポン>
[まもなく山ノ奥、山ノ奥。
お降りの際は、お手荷物のお忘れに―――――]
「……ここで降りましょう」
「えっ!!まだ那由多まで当分は先じゃない」
「申し訳ないですが……パーティーは無かった事に……」
おっ!帰れるってこと?うっし!
「もう色々と準備してたんでしょ?
楽しい楽しいイベントとか、美味しい美味しい……そう、と〜〜ってもお〜〜いしい御馳走とかね」
やけに僕目線で……って、え?御馳走?
「健太くん……なんだか嫌がってるようですから……。
今回は無しで、また今度に。
………………。
はいっ!中止です中止っ!!
さあ、帰りましょう」
あ、ああ〜〜〜〜ちょっと待ったぁ!!
<ぐいっ>
白川さんのカーディガン、掴んじゃいました。
「え?」
「…………いこう、ぱーてー」
「………………。
さすがは健太君だな。
食欲に忠実だ」
ってなわけで三人、元の席に座っておべんとーターイム!
まだ山ノ奥に停留中です。
「山ノ奥ってホントに山の奥なのね〜」
「ハハっ、まったくですね」
「もぐもぐ……ごくんっ」
うまいね〜いいね〜。
んんっ……やばいやばいやばい〜〜っ!!
詰まった〜〜〜〜っ!!
<どんっどんっどんっ>
叩いても治らねえ〜〜ぐるじいぃぃぃ……。
「けんちゃん大丈夫っ!
ええっと…お茶は……」
「はい」
白川さんっあんがとです!!
渡されたペットのお茶を急いで口に流し込むっ!
「ぐびぐびぐび……ぷはーーっ!」
「どう、治ったかな?」
「…………うん。……ありがと」
いやーーほんと助かりましたぁ。
「あらあらあら。
それって、かなちゃんが飲んでたものじゃないの?
以外にあぐれっしぶなのね〜〜〜〜。
うふふ〜〜〜」
ありゃ、そうなんすか?
全部、飲んじゃったし。
う〜ん悪いことしたかなあ。
「捉え方が少し間違っとるぞ」
へ?
「……いや、何でもない」
よ〜わからん……。
「お、お姉様っ!違いますっ!
これは健太くんのために買ってきたものであって、わたしが口をつけたものを飲ませるなんて……そんないやらしくて、不潔で、不粋なマネできませんっ!!」
「そこまで否定しなくてもいいのに〜……。
お顔、真っ赤よ?」
「かか、からかにゃいでくださいっ!!」
白川さん、大きな声を出して。
周りの乗客さん達に迷惑ですよ。
<プルルルル…………>
[まもなく巨星行き、豚足、発車します]
豚足ぅ?豚足て!!
新幹線にこのネーミングはいかんでしょ!!
「そうか?私は全然ありだと思うが」
いや、絶対、間違ってるって!!
……まあ、そんなわけで豚足走りだしてとさ……。
「ぷしゅーーー…………」
白川さんが完全に燃え尽きた感じで……あれ?白川さんってこんなキャラ?
前はもっと、なんて言うか…もっと凄まじい感じだったような……?
「人は勢いやテンションの上げ下げによって変わるらしいからな。
……母上の存在も原因の一つであると思うがな」
へえーー……。
でも変わり過ぎでしょ。
「そういうものだ」
…………まあいいや。
それより、目的地まであとどんだけ?お姉ちゃん。
「えっ?うーん…………かなちゃんかなちゃん」
「……あ、は、はい!」
あ、静絵さん知らないんだ……。
「あとどれくらいで着くか分かる?」
「えーっと……今は十二時過ぎですから、あと二時間くらいですね」
二時くらいに到着ってことだね。
「それからは?」
「それからは、お車ですぐ着きますよ。
十分も掛かりませんから」
いやー……でも二時間かー……。
暇だね。よし。
金剛、一発芸よろしくっ!!
「コマネチッ!!
…ってこら!何故そんな流れになる!」
ああ、いや、暇だから。
「母上達と喋っていればよかろう」
それだと僕、つまんないし。
「ではまだ時間あるから寝て過ごせばよかろう」
……そっか。そうだね。
じゃあ寝てようかな……。
………………zzz。
「相変わらず寝着くのが早いな」
とあるファミレスで呼び鈴押したら、ホーホケキョ。
…………如何なものか……。
どーでもいいかな。