四話目です。“<ナナちゃんモード>寒い!ってか痛い!!”
元旦。
午後十一時頃。
滝水市民はこの日、
市の主催で行われます年始イベント。
“第十五回滝水一年絶好調祭り”に、
ほとんどの者が参加していて、
皆が祭りで溜まった心地良い疲れの中、
初夢を見るべくいつもより早めに就寝しています。
それは野川家も同じのようで。
<クゥゥゥン、
ファゥン……
……ZZZ>
庭では犬小屋からちょっと頭を出して一匹、
気持ち良さそうに眠っております。
夢でも見てるのでしょうか?
寝ているのにも関わらず、
嬉しそう声をあげたりしてます。
きっと楽しく遊んでいる夢でも、
見ているのでしょう。
そんな中、
忍び寄ってくる影が一つ。
熟睡中のこの子に近付いて来ます。
一体、
何をするをつもりなのでしょうか。
びくっ!
影に気付いたようです。
寝そべった状態は変えずに、
顔だけ影の方へ向けます。
そして。
……また寝てしまいました。
眠気に負けたのでしょう。
ダメ犬ですね。
番犬としての役割を、
まるで果たしていません。
不法侵入をした怪しい存在は、
再び眠ってしまったダメ犬ちゃんに手をあて、
動かなくなりました。
数十秒後、
あのわんちゃんの姿は、
跡形も無く消えてしまいました。
さて、
場所は野川宅から、
頑張って走れば三分切るぐらいの離れ……
(あの……
頑張らないバターンでお願いしやす)
分かりました。
こほん。
野川宅から、
徒歩十分程度離れた場所となります。
“凡橋”
カワ川に架かる橋の一つ。
大通りから離れているため普段から人通りは少ない。
ごく一部の小学生が通学路として使用しているぐらいです。
そんな錆れた橋の下に、
あのわんちゃんの姿が。
まだ寝ているみたいです。
すごいね、
このわんちゃん。
(いや、
寝ているわけでは無いでございやすから。
それよりナレーションを続けてくださいやせ)
は〜〜い!
(はぁ……)
あっ、
さっきのとても怪しい存在が、
橋をふらふらしながら渡っています。
あのね、
お母さんがね、
ああゆう人はね、
危ない人だから近付いてちゃだめだって。
(そうでございやすね。
…
………完全に集中力きらしやしたね。
……最初はうまく言えてたのに)
危ない人が橋の下へ行くため土手を下ろうと……
コケました。
そして、
転がって……
「うおぉぉっ!
ぐえっ!
ぬあっ!」
でもわんちゃんの元へうまく曲がって転がりました。
起き上がり、
わんちゃんに何か流し込む動作をとっています。
手には何も持ってはいないのにまるで…………
………。
(どうしやした?)
なんて読むの?
これ?
(パントマイムでございやす)
なんでここだけえーご
(Pantomime)なの!?
普通に書いてくれればいいじゃん!!
(いや、普通に書いたら面白くないでございやすよ)
もうっ!
訳わかんないよっ!
……グスッ……
おうちかえるっ!
(ああっ!
待って、
まだ終わってないでございやす!
ジュースおごりやすから!
それで許してくだせぇ)
やった!
それでは続けます。
(う、うそ泣き!?)
わんちゃんが目を覚ましたみたいです。
「お早う。ようやく御目覚めかな」
わんちゃんは、
目の前で喋りかけてくる知らない人に驚き、
辺りを見渡せば、
いつものお庭でないことにさらに驚いています。
完全にパニックの状態です。
「お、
落ち着きたまえ」
そう言って危ない人はなだめようとしますが、
わんちゃんに通用するわけ無くて……。
結局、更なる怒りをあおるわけで……。
「ああっ、
もう駄目だ。
こうなったら強行手段!!」
あ、逃げた…………。
ダダダダダダダッ……………………ズデッ……ガブリッ。
「ギャアァァァ!!」
悪は滅び、
街は再び平穏な日々が……
(悪って……
話、変えないでくだせぇ……)
なんで?
こっちの方が面白いよ?
(主要人物が居なくなったらあっしが困りやす)
でも、危ない人だよ?
(あれは一応、
神様)
えっ!?
どーこーがー!
(あっはい。
今ストップね。
ほれ、
ここよーく見てみると浮いてるっしょ!?)
う〜〜〜ん?!
……ホントだ。
(はい、
納得したなら、
ふつーにナレーションしてくださいやせね。
ふつーにね!!)
はぁ〜〜い……。
(何故に不機嫌?!)
……ええっと……
神様はわんちゃんに噛まれ、
もがき苦しんでいます。
ドタバタドタぺタっ……
……(ペタっ?)
「や、
や、
や、
やってしまった…………!!」
どうやら神様は、
なにかをわんちゃんに貼り付けてしまったようです。
グレーの美しい毛並みは、
やがて白色の光を放ち、
それは徐々に強さを増して、
姿が見えなくなってしまうほどまで強く輝きます。
ある程度経ったのち、
光が引いていきます…………。
そこには、
わんちゃんの姿はありませんでした。
代わりに素っ裸の少年がうつぶせで倒れています。
すぐに気が付いたのですが、
縮こまって身震いしています。
なにせ真冬の深夜ですから、
その中を素っ裸でいるなんて堪えられるはずがありません。
「ほら、これ着て」
出してきたのは、
白のタンクトップとブリーフ。
しかし、
少年は着ようとしません。
「仕方がない……」
ジャリッ……
神様は少年との間合いを詰め……
「うりゃっ
(がすっ)
うげっ……
どぅあぁっ!
(ズポッ)
次、下ぁぁぁ!
(どっどっどすっ)
ぐはぁぁっ!!
……ぬうっ……
うおぉぉぉぉ!」
(スカッ……ズドドドドッ)
カンッカンッカンッカンッカーーン!!
勝負の終わりを告げるゴングが鳴り響く。
(気がした……)
神様はその場に突っ伏す。
少年はタンクトップこそ着れているけど、
ブリーフは右足の途中で引っ掛かっています。
結局、
少年は自分できちんと左足を通し、
腰までブリーフをあげました。
ご主人さまのお父さんが、
着替えていたのを何度となく見ていたので、
要領はわかっていたのですね。
倒れている神様の袴から、
灰色の布地がはみ出しています。
それを引っ張り出してみると、
パーカーでありました。
さらに中を探ってみると、
茶色の綿パンが出てきました。
悪戦苦闘しながらも、
どうにかこうにか着替えることに成功します。
いや、
やはり成功とは言い難いかな……
綿パンの向きは合っているが、
パーカーは前後ろが反対。
フードが顔のすぐ下にあってとても変。
いざとなればそれで顔を隠すのかい?
と、
ツッコミたくなります。
そうこうしている内に、
ようやく神様が気が付きました。
着替え終えた少年を見て、
「……さすが私が見込んだ事だけはあるな」
と言い、
うんうんと頷いています。
少年はその言葉に軽くむかっときました。
「もうある程度、
言葉が理解できるみたいだね。
私は金剛だ。
よろしく。
君は確かゴンと言う名だったな。
さてと、
早速だが、
ちょっと付いて来てもらおうか」
ゴン君は納得しない様子でしたが、渋々付いて行きました。
ふぅ〜〜はい!
ジュースちょーーだい!
(あっ、
52円しか無い……)