三十四話目。“ふぃぃぃぃあぁぁぁぁ!!!”
ぎ、ぎりセーフ。
日も暮れて、
すっかり夜です。
ご飯の時間も終わり、
多分、
そろそろ待望のお散歩タイムが。
<ガララッ>
ほら来た。
引き戸を開けた主は、
やっぱり上様。
(あの時代劇見て以来、
美樹の事を、
上様、
と呼ぶことにしたみたいでございやす)
「ゴ〜〜〜〜ン!!
カモ〜〜〜〜ン!!」
オーーケーー!!
ミセス、ウエーーーー!!
(間違っとる……。
間違っとるよ……ゴン)
上様が、
僕の首輪に紐を装着して、
いざゆかん!!
いつもの道へ!!!
はい。
いつもの川沿いの道を歩いてます。
風がでら冷たいぜ〜〜〜!!
もう寒すぎっ!!
「ん?
橋の下にいる人、
もしかしてカナりん?
めずらしっ!」
ホントだ。
なんかボーっと座って、
川を眺めてる。
!!!
おぉ〜〜う……。
天敵もおるやん……。
出来れば見なかった事に……。
「ゴン!!
今日はそっちじゃないよ!!
ほらこっち!!」
やっぱ行くんだ……。
だあーーー!
上様、
引っ張りすぎ!!
行くからっ行きますから!
引っ張らないでっ!!
土手を下りて……
ここ滑るんだよなー……。
うし、と。
で、
上様と共に、
白川さんの元まで歩く。
上様が白川さんに話しかける。
「カ〜〜〜ナりんっ!!
めずらしいね。
こんな時間にお散歩?」
そう話掛け、
隣に座った。
んで、
僕はそのまた隣に座る。
もち、
向こうにいる黒いのを警戒しつつ……。
うう……
目線は絶対合わしちゃかんぞ、僕よ。
「まぁ…たまにはね。
みきやんもいつもこんな時間に?」
あら?
お昼のテンションと、
ずいぶんちがくな〜〜い?
「まあ〜〜ね〜〜。
基本的にお散歩は、
私のお仕事だからね〜〜」
ええ、そうですな。
いつもいつも御苦労さまです。
有難うです。
「そう……えらいね」
返し、そんだけ?
「ど、ど〜〜した〜〜〜ん!!
なんかカナりんらしくないよぉっ!!
ほらさっ!!
お悩みなら、
あなたの親友の、
このみきやんがお話聞くよっ!!
ほら、言ってみ言ってみぃ!!」
上様……
あたふたし過ぎです。
「…………」
……何も言わないっすね。
「もしかして、
帰りに何かあった?」
へ……?
あっ!
あの時のお礼言ってないから?
あ、あれはでも、
言うタイミングなかったし。
明日ちゃんとするつもりだし……。
「ううん、別に何もないよ。
ただ私、
自惚れてたのかなぁって……」
うぬぼれ……
って何?
「えーー!?
そんな、
カナりんは実際スゴイって!!
何があったかは知らないけどさ、
もっと自信、
持っちゃっていいよ。
だって何でも出来ちゃうじゃん。
美人だしー…、
勉強できるしー…、
運動神経も抜群っ、
あ、
あと今日のお弁当!!
お料理も最高だし!!
ほらっ他にだって……」
「そんな事ないよ。
皆そう言って、
私を褒めてくれるけど、
それはたまたま私が、
標準より上の結果を残せてるだけに過ぎないの。
それではダメ……。
それではダーリンを振り向かせる事は、
いつまで経っても絶対出来ない……。
私もあの人のような……いや、
あの人以上の……」
あの人……
って誰?
「あの人……
って誰?」
おお〜〜う!
さすが上様!
僕と全く一緒の事をお考えに。
「……ダーリンの、
一番近くにいる人……
……かな」
僕の一番近く……?
それって上様の事〜〜!!?
「えっ?
健太くん、
実はもう、
他に彼女がいたとか?」
えっ……?
いないよ?
「ははっ……
違うよ。
ダーリンのお姉さん。
あまりにも素晴らしい人だったから。
あんな人といつも一緒じゃ……。
あーー!!もう!!
みきやんのせいで、
ますます惨めになっちゃたじゃない!!」
へ?
「えっ?
あっ…ごめん」
謝っちゃったし。
おおっ急に白川さんが立ちあがった!
「うん!!
でも仕方無い!!
うん!!
相手はお姉さんだもんね!!
うん!!
でも彼女じゃない!!
うん!!」
どーしたんすか急に……。
「え…あっ…そうだよ……
そうだよ!!
健太くんの彼女はカナりんだよ!!
お姉さんには無い、
カナりんの魅力があるもん!!
そんなことで、
一々凹んでたらキリがないぞっ!!
がんばれカナりん!!
胸を張れカナりん!!」
あら、
上様まで。
よくわかんないけど、
僕も吠えとこか?
<ワンっ!!>
「ほらっ!
ゴンも応援してるぞっ!!」
「よーし!!
燃えてきたぁ!!
ありがとね、
みきやんっ!!」
「お安い御用だよっ!!」
「よしっじゃあ早く、
ダーリンをメロメロにさせるための、
作戦を練らないと。
ほら、帰るよブラッ……
ブラックぅーー!!
どこ行くのーー!!」
ぎゃあぁぁぁ!!!
来たぁぁぁ!!!!
あんたの主人、
帰るって言ってんじゃん!!
かーー
えーーー
れーーーー
よぉーーーーーーー!!!!
ぎゃっ……!
も…もう身も心もボロボロ……。
「大丈夫、
ゴンちゃん?
ほらッ!!
もう帰るよっ!!」
し、白川さんの助けがなければ、
確実に噛まれてました。
体当たりだけで済んだのは、
ほんと奇跡です。
白川さん、
ありがとう……。
「ったく、
いつもは他のワンちゃんには大人しいのに……。
なんでゴンちゃんには狂暴なの?」
うわ……
あの黒いの、
まだ僕に牙を向けて唸ってるよ。
マジ、
恐いってこいつ。
<ヴヴヴヴ……ヴァン!!!>
ぬおっ!!