二十八話目。“<KANARIN's HEART>お茶、お口に合わなかったからかな?”
あり?だよね。こんなんでも
多分。
うふふ、
ダーリン、
あれで隠れてるつもりなのかしら。
角の向こうから、
ダーリンの影が伸びてるのが見える。
先に待ってるからね。
「でも、ありがとね〜。
けんちゃんのカバン、
届けてもらっちゃって」
「いえいえ、
当然の事をしたまでです」
ダーリンが走って行っちゃった時に落として、
それを私が拾った。
気が付けばダーリンの姿は無くて……。
仕方なく諦めて、
家に帰ろうと思ったら、
ダーリンのお姉さんに出くわした。
………。
朝も思ったのだけれど、
やっぱりダーリンのお姉さんは、
綺麗……。
少し……
悔しい……。
この大人の女性の妖美さは、
私には無い魅力。
<カン、カン、カン、カン>
階段を昇って、
付きあたりまで歩く……。
表札には‘犬岸’と書かれている。
「はい。
到着〜」
ここがダーリンの家……。
………。
あれ?
言葉が出てこない。
もしかして、
緊張してる??
この私が?
「ほら、
白川さん。
上がって上がって」
「お、お邪魔します」
こんなに狭い……。
あっ、
これってちゃぶ台?
「はい、
座布団どうぞ」
「あ、はい。
すみません、
有難う御座います」
お姉さんが敷いた座布団に、
正座する。
「待っててね。
今、
お茶を用意するから」
「あ、はい」
………。
思ったより、
何もないのね。
どこかに写真でも置いてあるのかな、
なんて思ってたけど、
見回しても全く見つからない。
「どーしたの、
そんなにキョロキョロして。
そんなに変かな」
「あっいえ、
ダ……
じゃなくて、
健太君の……
でも無くて、
ただなんて言うかその、
えっと、
落ち着かなくて」
湯呑が二つのったお盆をちゃぶ台に置き、
その一つを私の方へ置いてくれた。
中から湯気が立っている。
「あら〜〜。
楽にしてもらっていいのよ。
そうだ!
テレビでも見る?」
「はい……
お願いします」
お姉さんは傍にあったリモコンで、
テレビを付ける。
うぅ……。
この人の雰囲気に呑まれてる。
これが大人の余裕?
テレビは下らないバラエティ番組が、
終焉を迎えようとしていた。
時間が長く感じる。
「けんちゃん。
先に帰ったのよね〜」
「……はい」
「遅いと思わない?」
「……そうですね」
きっとまだ、
あそこに居るのだろう。
やっぱり、
無理しすぎたかな……。
ああゆうタイプは勢いさえあれば、
うまくいく、
なんてそんなはず無いわよね。
急ぎ過ぎたかな……。
次はもう少しじっくり攻めて……
「白川さん。
下のお名前、
聞いても言い?」
「えっ?!
あ、はい、
香奈子と言います」
「へえ〜〜、
じゃあ、
かなちゃんって呼ばせてもらうわね」
「はい、
お好きなように……」
「で、私は静絵っていうの。
かなちゃんは私の事、
なんて呼んでくれるのかな〜?」
「では、
静絵さんで……」
お姉さんはとても残念そうにする。
何故かな?
悪くは無いはず……よね。
「み〜んなそう呼ぶのよね〜。
あっ別に嫌って訳でもないのよ。
う〜ん……
でもね〜……」
「では私は静絵お姉さま、
と呼ばせてもらいます」
「お姉さま……
いいわね!!
それ!!
さすがはかなちゃん!!
わっかるぅ〜〜!」
……陽気なお人。
誰にでもこんな感じなのかな。
羨ましい……。
<ピ〜〜ンポ〜〜ン>
「あら、
帰ってきたのかな?
かなちゃん、
ちょっと待っててね」
ダーリンかな?
どうしよう……。
どう接すればいいの……?
「けんちゃん遅ーい。
ほら、
可愛いお客さんがお待ちかねよっ」
ダーリンが来る……。
…………あっ。
「わ、私!
これで失礼します。
お茶有難うございましたーー!!」
「えっ!?
ちょっ、
ちょっと!?
どうしたの……」
私は急いで階段を駆け降りる。
はは……
逃げちゃった……。
ダーリンの色んなこと、
聞き出せるチャンスだったのに。
私らしくない……。